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たまに思い出す人

たまに高校まで+数年くらいの、比較的長い付き合いだった友人を思い出す。彼女は要領がよくて、空気を読むのが上手い。私にはない能力だからうらやましかった。状況が変わらないのならば、今も声優とか芸能関係で頑張ってるのだと思う。

その人とは会うのを一切止めている。誘われて、予約までしてくれたサシ飲みを、ドタキャンしてそれっきり。もう人生が交わることはないと思う。なぜそうしたのかというと、それは小学生の時に遡る。
自分から持ち掛けてきた悪口(着ている服がダサいとかそんなんだったと思う)を、私が言っていたように、本人に伝えたのだ。しかも、修学旅行の夜。私が寝ていると思って。私は残念ながら起きていた。
悪口に同調した私は悪い。でも、友人がそういうのだし、世間的にはそういうものなのかなと思って、受け流しただけなのに。というか持ち掛けてきたのはそっちなのに。

小学生の時のことを根に持っているのは、笑われてもしょうがないかもしれない。でもこの出来事は私の性格をかなりの部分決定づけた。これ以来、人間を見るときは、言動を様々な角度から時間をかけて検証して、矛盾がないかチェックするようになってしまった。あと、グループでどこかに泊まりに行くときに、自分が先に寝ることが怖くなってしまった。

中学高校でも、彼女は私と仲良くしてくれた。彼女は相変わらず、人の悪口というか、不満をすぐに口に出す。人のいい所はあまり褒めない。
それでも、人間は不完全なものだし、私も無意識のうちにそうしているかもしれない、私だって人を嫌っているのに、他人に対してその権利を認めないのはおかしいと思って、普通に仲良くしていた。
そういうマイナスな面もあるけど、一緒にいて楽しいというのも本当だったのだ。マイナスな面だけ見て、その人全部を否定することは、すごく傲慢なような気がした。だから、仲良くし続けた。

やがて私は東京の大学に入学し、彼女は声優事務所に所属するための資金集めのため、地元でアルバイトを始めた。そして、数年後、彼女の東京での家探しのために、しばらく私のアパートに彼女を泊めていた。
一緒にいるのは楽しかった。でも、一度だけ、私が料理で失敗したときに、めちゃくちゃ嫌な顔をされたのが印象に残っている。彼女は人と違うことを好む割に、他人が常識と外れた行動をするとめちゃくちゃ機嫌が悪くなる。
それからしばらくすると、家に置手紙が残されていた。彼女は出ていったようだ。感謝の気持ちが述べられていた。家が見つかってよかったと思ったけど、手紙一つでいなくなるのかと寂しい気持ちにもなった。

それからたまに会うことがあった。一緒にいるときは楽しかったけれど、彼女にだんだん違和感を覚え始めた。
そしてある日、サシ飲みに誘われた。実は二度誘われて、一度目は普通に参加した。でも、それが決定打になった。
飲み会で私の親の話になった。私の親のことを表面上よく言ってくれていた。でも私は昔彼女に、「~ちゃんのお母さんって暗いよね」って言われたことを覚えている。それから、私は高校で美術系の所にいこうとしていたが、結局辞めた過去がある。そして普通に大学進学して、大学院に進んだ。
そのことに関して、私が勉強に向いていることをほめてくれた上で、「~ちゃんは美術系の高校に行かなくてよかったと思う」と言った。なんでだろう。私は今でも絵を描くことは好きだし、時間にゆとりができれば学校にも通ってみたいと思っている。別に向いてないと思って止めたわけでもないのに。

色々話を聞くと、彼女のお母さんが否定しがちな性格っぽいことが推測できた。ああ、だから彼女もそうなのかと理解した。彼女は自分の母親を嫌っているけれど、でも結局性格をコピーしてしまっている。しかも同じ性別だから、見た目までそっくり。
それはそれでかわいそうだと思う。多分家の中で色々苦労してきたんだろうなと思う。でも、親の性格ががままならない中でも、他人にそれをぶつけずにまっすぐ生きている親友を知っているから、同情したけどそれだけだった。

飲み会の別れ際、もう会わないだろうと思って、彼女の全てを肯定した。今のままでいいよ、変わらないでと。彼女は少し嬉しそうだった(嘘かもしれないけど)。でもそれは小学生時代から積もり積もった、私の最大の復讐だった。
嫌な奴のままでいてほしいのだ。成長なんてしてほしくない。そのまま何者にもなれずに老後を迎えてほしい。でないと私のトラウマはどうなるの。そう思って、私は彼女を肯定した。そして彼女が次の飲み会の予定を入れてくれた上で、それをドタキャンして、二度と会っていない。

もう人生で交わらないと思いながら、それでもたまに思い出すのは、きっと付き合いが長かったからだと思う。小中高、それから成人してから数年。決して短くはない。色々思うところはあったけど、楽しい思い出もあった。でも、大人になるにつれて形成されていった私の価値観と信念と、彼女の性格がどうしても調和しなかった。失恋のような、そんな友情だった。

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