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24歳の男が初めてヨガを体験した話

「おしりでこの大地を、地球を感じ、手や頭で空気の重さを感じてください」

「まぶたを閉じた暗闇からうっすら光る照明の灯りを感じてください」

「吸った空気には涼しさを、吐いた空気には温かみを感じ、手と手を合わせ、自分の体が今ここにあることを強く感じてください」

ヨガインストラクターのミチコ先生は優しい声でそう言った。

僕は瞼を閉じて、目で見るこの外の世界ではなく自分の体全身でこの世界を感じとろうとした。普段意識したことのなかった大地や空気、照明の灯り、呼吸、それらを感じ取れたとき、自分の生を確認できた。気付いたら僕は泣きそうになっていた。

僕は小売店で働いているので休みは不定期だ。そのおかげで休みの日は1人の時間を充実させなければならなかった。これまでの僕は休日ベッドで1日の大半を費やし、SNSやYoutubeを開いては閉じるを繰り返し、眠くなったら昼寝をし、起きたら日が暮れている、そんな休日を繰り返していた。

このままでは明らかに人間としての生活を失うだろうと思い、前から自分の姿勢やメンタルが気になっていたのでヨガ教室に行ってみることにしたのだった。

近くのヨガ教室は時間割が決まってあり、好きなクラスに参加できるというものだった。ヨガについて知見のない僕は今から1時間後に始まるクラスをとりあえず予約した。

隣駅近くのイオンの4階にヨガ教室はあった。受付を済ませ、マットを借りてスタジオの中に入ると、数人の生徒さんと先生が準備してるところだった。あのスタイルのいいヨガウェアを着ている女性が先生だなとすぐに分かった。先生は完全に陽のオーラをまとっており、体の隅々までがキラキラ光っていた。

「こんにちは!ヨガ初めてなんですね、何かスポーツをやっていましたか?」
ハツラツとした表情で先生は尋ねてきた。

「高校時代はテニスを、中学まではサッカーを。でも大学からはほとんど運動していません」僕は正直に事実を述べた。

「男の人は筋トレはできても、筋肉を伸ばしたりするのが意外とできてない人が多いので、無理せず頑張っていきましょうね。」

ジムやヨガのインストラクターというのはどうしてこういつも元気でハツラツとしているのだろうか。自分もああなりたいと思った。

僕が受講したクラスはレベル的には真ん中のクラスでハタヨガと呼ばれる種類のヨガだった。

レッスンは1番前に先生がいて、先生の真似をしながらヨガをするものだった。先生は特にストップをせず、口頭で身体の位置や動き、意識するポイントなどをみんなに伝え、滑らかにノンストップで行っていった。動きは意外と体幹を使ったものが多く、すぐにじわじわと汗をかいた。自分の体の筋肉がこんなにも伸びてなかったのかと強く感じた。いったい今までこれらの筋肉は何をしていたのだろう。

1時間くらい全身を使ったヨガを行い、筋肉が伸びた状態で仰向けになった。両手を伸ばしてゆっくりと大きく呼吸をしていき、先生は照明を消す。静かな音楽だけが流れ、自分の頭から指の先、足の指の先までリラックスしている。この世界に自分という者が確かに存在していて息をしている。たった今も僕は生きていた。とても気持ち良かった。

70分間のレッスンが終わり、受付で入会についてやクラスのチケットの説明を受けた。
「是非たくさん来てくださいね!」
帰り際にミチコ先生にそう言われた。

生きている中で普段無意識にしていることに意識を向けるのは難しいことだ、それを意識できる時間がヨガなのかもしれない。

また自分の中に新しい宇宙が生まれた気がした。

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