読書記録 中村文則 銃

中村文則 銃
新潮新人賞受賞
41文字×14行×187ページ=107338文字
17の段落からなる

大学生の青年が、銃を拾う物語だが、かなり陰鬱な結末を迎えた。
文章的には〜した。〜だった。というような短い文が多い印象だった。
普通の大学生が銃を拾うというテーマはかなり斬新な気がしたが、この銃はいわゆる彼にとって刺激あるものとして扱われた。銃であるが為に彼は破滅へと向かったが、これが銃ではない場合が人間にはよくある。ただ銃だからこそ、この物語は成り立つのだと思うとそれはそれで人間の内面にある恐怖のようなものを感じる。
主観的な狂気と客観的な狂気を両方面から読み取れるのが文学なのかもしれない。
描写や言動で読み取れることもあるが、人間的な性格を明言することが小説ではあるように感じた。銃で言えば「重大な問題を先に伸ばす癖がある」と書いてある。(他にもあったが、メモしていなかった)これらはやはり、この後のストーリー展開の伏線になるのではないかと読み取れることができる。実際主人公の私は色んな決断を先送りにしたように思う。そしてそれを悪くないと思うことが多かった。
そして、またも彼の家庭事情は複雑に設定されていた。その境遇も彼を形成する上で重要だったのではないのだろうか。

少し驚いたのは、彼の行動を警官は予想できていたということだった。世の中には理解できない心情があり、人の破滅の過程を読者である私はそれを辿るだけではあるが、突如現れた警官は(もちろん物語上で)客観的に彼のおおよその行動とこれからの危惧を推測できていた。

だとすれば、彼はどこで間違えたのだろう。私にはそれが分からなかった。

悪い音楽と少し共通しているものがあったが、主人公を客観的に読者が読み取ろうとすることで、この本は立体的になるのかもしれない。

文學界新人賞は文章を短くするために省いている雰囲気があるが、字数が多い新潮新人賞はそれがないように思う。


調べた語彙
・タナトス…ギリシア神話に登場する死そのものを神格化した神

・畏怖の念…心の中におそれや敬いの気持ちを持つ

・疎ましい…好感がもてず、遠ざけたい。いやである。

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