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半年ぶりに元カノに会った話

 ゴミ捨てに行くのが厳しい寒さになった。陽の光が入り出して、ようやく布団から出る。いつもなら布団の中で小一時間過ごすのだが、今日は違った。

 今日は半年ぶりに元カノの日向(仮)と再会する。半年ぶりということもあり緊張とワクワクが入り混じった複雑な心境だった。僕は半年間も日向を思っていた。ずっと好きだった。

日向が大好きなお笑いコンビわさびの漫才を見に行こうという文言なら来てくれると信じて誘ったのだった。ただただ日向に会いたかった。しかし今回で自分から連絡するのは最後のつもりだったので、会うのも最後と覚悟を決めていた。

 電車に一時間揺られて最寄り駅に着く。集合時間になると一通のLINEが来た。

「友達の家からそのまま行くから荷物ロッカーに入れてくる。」

僕は男だと思って少し冷めた。改札から現れるの待つと彼女は後ろから現れた。日向は仕事着のようなオフィスカジュアルな格好で謝るように手を合わせた。会った瞬間僕は日向が僕に何も期待していないで今日ここに来たのを感じとった。

 僕は半年間を埋めるように喋ったが日向はまだ冷めているように感じる。僕に対する質問はあまりなかった。ただ自分が言うことに彼女はたくさん笑ってくれた。そのことがすごく嬉しくて幸せだった。

 劇場に着き時間になると次々と芸人達がネタを披露した。わさびの番になると彼女は嬉しそうに声を出した。わさびの漫才は会場がうねるようにウケ、日向もたくさん笑っていた。僕はわさびの漫才を見ながら泣いていた。その涙はわさびが面白すぎて泣いたのか、もう日向に会えなくなるのが悲しくて泣いたのか分からなかった。

ただ彼女が自分の隣で笑っているのがたまらなく愛おしかった。

 漫才が終わり、二人で韓国料理を食べた。僕は日向に聞きたいことがたくさんあった。どうして来てくれたのかだとか、彼氏はいるのかだとか、振られた本当の理由だとか、またゼロからやり直せないかなどたくさん知りたいことがあった。だが彼女の反応を見て、もう自分に脈はないと思った。このまま、幸せなまま、大好きなまま消えたいと思ったら僕は彼女に何も聞けなかった。


 ただただ楽しい時間を過ごし、改札まで見送った。日向が寒そうなとき、カイロをあげようと持っていたので二つあるうちの一つを彼女にあげた。本当はまた会おうねと言いたかったが覚悟を決めていたので、「バイバイ」と小さな声で言った。僕は日向が見えなくなるまで見届けた。そのとき彼女は一回だけこちらを振り返った。あのとき日向は何を思ったのだろう。何度でも振り返って欲しかった。戻ってきて欲しかった。


 夜も深くなり気温がグッと下がる。お気に入りの服が着たかったがために薄着になってしまった僕はポケットに手を突っ込んだ。先に開けた自分の分のカイロはまだとてもあつかった。

あとがき
恋愛には2人の温度感の一致が重要です。
片方が強火ならもう片方も強火、弱火なら弱火の方が火が絶えにくいでしょう。1人が弱火、もう1人が強火でもその火はすぐに消えてしまうほど繊細です。
そして片方の火が消えてしまった瞬間2人の恋は終わってしまいます。
あの日、彼女の火は消えていました。もしかしたら会った瞬間は弱火だったのかもしれませんが。
そんな残酷な2人の温度差をカイロや、服装で表現しています。

この話は実話ですが、僕は彼女が好きなので彼女に恨みも、未練ももうありません。

ありがとうとさよならを込めて。

最後に皆様の恋が実りますように。

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