一人暮らしの男の匂い
ねえ、火花くんさ、部屋干ししてるでしょ?
クンクン…
訳 君くさいね。
不意を突かれたパートさんのその言葉に動揺する。何故なら部屋干しだからだ。自分では全く気付かなかった。自分が臭いなんて認めたくない。柔軟剤だって、香りがするやつだって入れて洗濯している。嫌だ。取り消してくれ。
部屋干し用の洗剤使った方がいいよ。全然違うよ。
え、どれどれ、クンクン
別のパートさんも嗅ぎ出す。
うん。一人暮らしの男の匂いって感じ。
その言葉は僕の心臓を突き刺した。一人暮らし×男=くさい。火花=一人暮らし×男。ならば火花=くさい。の方程式が成り立つのだ。つまり、火花=くさいは自然の摂理のもと成り立つのだ。まるで、火花がくさいことは当たり前かのような言い方だ。こんなのあってはならない。1人であることと、男であることがこんなにも僕を疎外するなんて思わなかった。悔しい。腹が立った。
そして、時間が経って悲しくなった。誰かと暮らしていたら、匂いを確認し合える相手がいたら…
くさいという言葉がこんなにも針がある言葉だったのかと思いながら僕は部屋干し用の衣料洗剤を手に取った。
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