林業から広がる、“半X”な生き方
一つの仕事にとらわれず、いくつかの仕事を掛け合わせる。
そんな「複業」という働き方が最近注目を集めています。
特に地方は、農業や漁業などの「第一次産業」を中心に、一日のうち数時間だけ働く仕事が多いのも魅力の一つ。仕事を掛け合わせながら、自分らしいライフスタイルを叶えている人がたくさんいます。
「田舎暮らしってあこがれるけど、いきなり環境を変えるのは難しい」
「今の仕事を続けながら、新しい働き方に挑戦してみたい」
そんなふうに思っている人にこそおすすめしたい「複業」。
今回は「林業」から広がる生き方をご紹介します。
放置されていた実家の山
福井市街地から車で約30分ほどの場所にある殿下(でんが)地区は、自然豊かな山村が広がる場所です。人口400人と地区別では市内で最も人口が少なく、いわゆる“過疎化”が進む地域。高齢化率も高く、地区の平均年齢は70歳を超えます。
そんな殿下地区で林業を営む「こしのくに里山再生の会」の松平成史(まつだいら・しげふみ)さん。東京の老舗酒問屋で日本酒の輸出の仕事をしていましたが、自然豊かな環境で子育てがしたいと2018年に家族でUターンしました。
▲松平さん一家(写真/内藤貞保)
松平さんが林業を始めたきっかけは、実家が所有する100ヘクタールの山でした。
「祖父の代までは林業を営んでいましたが、その後山は放置され、どうすればいいのか東京でサラリーマンをしながらもずっと心のどこかでひっかかっていました」
しかし、現在の木材価格は林業が全盛期だった昭和50年代の1/5。業者に頼んでも儲けはゼロか赤字なので、山を手入れするのは労力がかかるだけです。ましてや林業で生計を立てるとは、その頃の松平さんは思いもしなかったといいます。
「自伐型林業」ならできるかも
しかし、松平さんが山について調べるなかで知ったのが、「自伐型林業」の存在でした。
これまでのような大型の重機を使う林業ではなく、少人数で小型の機械を使い木を間伐することで、残った木の成長を促し、木材の価値を高めて継続的に出荷できる方法です。
「自伐型林業」を実践する人のなかには、週末や休日を利用して県外から山に通う人たちも。これなら自分でもできるかもしれない……と松平さんは仕事の合間を使って林業スクールに通うことに。
▲林業スクールの仲間たちと。アウトドア好きや自然の中で身体を動かしたいなど、林業に興味を持つきっかけはさまざま
▲木を運んだり、重機が通ったりする山道をつくるのも林業の大事な仕事。山を削りすぎると地すべりが起きてしまうので、防災の面でも削るのは最小限に
過剰に山を削らず、伐採せず、自分たちのできる範囲で山を守る。間伐材で収益をあげながら残した木を良い環境で育てることで、木材を高価格で売ることもできます。
東京から実家の山に通うなかで、ますます「自伐型林業」の可能性を感じた松平さん。地元にUターン後は「こしのくに里山再生の会」として本格的に林業に携わり、さらに複数の仕事を掛け合わせながら地域のキーマンとして活動の幅を広げていきます。
林業に日本酒、さらにラーメンも!
現在、週に2日は山に入りながら実家の山林を伐採している松平さん。それ以外の日はこれまで東京で働いていた日本酒の仕事を福井でも続けながら、ワインの勉強や古民家再生、農家民宿の経営など積極的に活動しています。
さらに冬の時期の週末には期間限定で「ラーメン屋 福亥軒」もオープン。
「このラーメンは、もともとこの近くの山で獲れたイノシシで作っています。移住してから地元の猟師さんに弟子入りさせてもらい、狩猟を教えてもらっているなかで、イノシシの骨が捨てられていることを知りました。でもイノシシの骨ってすごくいい出汁が出るんです。たまたまイノシシ鍋をした時にイノシシの骨と麺を入れて煮込んだら美味しくて。ラーメンにして出してみようと思いました」と松平さん。
▲スープを仕込む松平さん
▲イノシシの骨を丸一日かけて煮込んだスープ
▲昨年は味噌味でしたが今年は醤油味に。何度も試行錯誤を重ねたそう
イノシシラーメンは話題を呼び、週末になると多くの人が訪れるように。期間限定にもかかわらず、毎年ファンが増え続けています。
今の仕事を続けながらできる林業
林業を軸に、さまざまな仕事を掛け合わせている松平さん。林業は農業のように毎日こまめに手入れをする必要がないので、今の仕事を続けながら、仕事の合間に山に入るといった働き方も可能です。
「地方には仕事がないと言われることもありますが、自分の興味に合わせてできる仕事は無限大にあると思います。特に地方には手入れされていない山が多く、林業の担い手は今後も必要とされるはず。県内でも未経験から林業を学ぶ講習が開催されているので、どんどん林業仲間を増やしていきたいですね」
「複数の収入源を確保できる」「幅広いスキルが身に着く」など、複業の魅力はさまざま。
特に持続可能な働き方の一つとしても「自伐型林業」は今注目を集めています。
今後は「やれることを、やれるときに、やれるだけ林業にかかわる『リモート自伐型林業』を広めたい」と語る松平さん。
林業に興味のある方は、まずは今の仕事に軸足を残しつつ一歩を踏み出すことからはじめてみませんか。
写真(一部):こしのくに里山再生の会、内藤貞保
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【取材先】
こしのくに里山再生の会
福井県福井市水谷町
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