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「この人と話そう」第0006回(前編):合同会社いとぐち/新倉裕さん


前書き

連載対談「この人と話そう」について

主催者紹介

  • 野口 啓之

    • 株式会社きみより 代表取締役として、IT / DX を中心とした何でも屋さんとして顧問を請け負う

    • 一般社団法人全日本ピアノ指導者協会 ( ピティナ ) 本部事務局 元 CTO → 現 IT 顧問

    • ネオプラグマティズムの思考様式をベースとしつつ、歴史学徒として概念史を嗜みつつ、ヨハン・ゴットフリート・ヘルダーの教育論研究を終生のテーマとする

    • とぐろ島を離れパラノマサイトを経て世界樹の迷宮に戻ろうか思案中。

対談者紹介

  • 新倉 裕

    • 東京都・豊島区の WEB 制作会社「合同会社いとぐち」代表社員

    • 起業される方向けの必須ツール格安セット 「KIGYOしようぜ」 のサービスを展開しています。

    • ゲームはPCとSwitchで半々。Valheimで釣りライフしながらメガテン5の完全版待ち。

現職の紹介

野口: 本日はよろしくお願いいたします! 最初は現職、御社でどういうことを今されているのか、とか、これまでのキャリア、前職とか、生い立ちとかですね、そのあたりのことをお伺いできればと思います。

新倉: はい、よろしくお願いいたします。現職は WEB 制作の会社をやってます。いわゆる「ホームページ制作会社」ですね。まあ、でもそれだけにとどまらず、印刷物ですとか、デザイン全般に関わるものをやっていますね。

野口: ほんとう幅広いんですよね。

新倉: 今は、起業される方向けに、ホームページ・印刷物をはじめとした各種ツールをまとめて、ちょっと格安でご提供させていただく「KIGYOしようぜ」というサービスを展開しています。今まで、下請けとしての仕事が多かったので、今後はこのような自社サービスを売っていきたいなと考えています。

https://itoguti.co.jp/kigyou/

野口: 自社サービスとしては、この「KIGYOしようぜ」が初めてっていうことになるんですね。こちらは始められてから、どれくらいになりますか?

新倉: ローンチしたのは、2023/11 なので、まだ新しめで、今まさに営業中ですというところです。

野口: なるほど。私たちの出会いが、まさにそのタイミングだったんですよね。東京商工会議所での交流会で。

新倉: そうなんです、はい。「KIGYOしようぜ」の名前の由来がきっかけですね。これ、昔あったバンド雑誌「バンドやろうぜ」のオマージュだということをお話ししたところ、そこが野口さんの胸にぐっさりと刺さっていたという。

野口: そうなんですよ(笑 「KIGYOしようぜ」の名前を伺った時点で、「あれ、このテイストはもしや……?」と。

新倉: 僕もサービスを売る側としては、もうちょっと分かりやすいというか、いわゆる「ビジネスツールセット」みたいな名前で作ってもよかったんですけれど……それよりはやっぱりね、こういった名前のほうが、特定の年齢層・趣味、まあ、音楽やられてる方とか昔携わられていた方とか、そういった方にですね、刺さるかもしれないと言ったところで名付けました。

野口: 見事、目論見が当たりました。

新倉: あともう一つは、このサービスを作ってて、僕自身が一番ワクワクしたんですよね。「KIGYOしようぜ」って名前をひらめいた瞬間から、もうチラシのデザインまで、なんかもう一気に、ほんとあっという間にできちゃって。

野口: おおー。

新倉: そのワクワクする感覚をですね、すごい大事にしたサービスなんですよ。起業に引っ掛けて言うと、起業する人っていうのも、やっぱり新しい仕事に対してワクワクされている方も多いはずです。

野口: そうですよね。

新倉: 起業って、やっぱりお金がいろいろかかるので、必須のツール、ホームページとか社印とか、できる限りコストを抑えられる方がいいじゃないですか。そのぶんで、、本来やっていくべき、お金をかけたいところにもっとお金をかけてもらえたらよいなという想いも込めて、やっています。

野口: ちなみにすごく細かいところなんですけれど、元ネタが「バンドやろうぜ」じゃないですか。ストレートに転換すると「企業やろうぜ」になると思うんですけれど、そうじゃなくて「KIGYOしようぜ」にしたというのはどういう理由なんでしょう? 「やろうぜ」はさすがにちょっとこう、圧が強すぎるかな、みたいな……?

新倉: 「起業やろう」って、日本語的におかしくないですか?(笑 「企業やろうぜ」だったらまだ分かりますけれど、「起業」、起こす業の方なので、それだと「しようぜ」の方が自然かなーというところですね。まあでも、「~ぜ」ってなっていたら、なんか伝わるんだろうなーとは思っていました。

野口: 実際に変わりましたから確かに大丈夫です(笑 新倉さんは、その「ホームページ制作」の中でも、コーディング寄りというよりは、デザイナー寄りなんでしょうか。

新倉: そうですね、ただどちらもできないとやってはいけないので、両方、ちょうど半々ぐらいかもしれないです。

野口: なるほど。今って、世の中では WordPress 案件が多いわけですが、実際に受託される際にはどんな割合ですか?

新倉: もう 9 割方、WordPress で、っていうところですね。

野口: やはり。そうするとあんまりイチから自分で HTML を打って~っていうところはそんなに多くなくて、カスタマイズする時にコーディングするっていうことになりますかね。

新倉: そうですね。イチから起こすっていう感覚は、あんまりないかもですね。

野口: 前はありました?

新倉: うーん、あったかなぁ。もともとですね、EC モール系とかの仕事が多かったので、イチから起こすっていう体験は少ないかもしれないです。Yahoo! ショッピング、楽天などに出されている店舗のページ制作が、結構下請けでは多くて。

野口: ああー、なるほど。店舗ページの中で、HTML をちょっと書き換えたりというか、色々と自社用にカスタマイズして、みたいなことが多いんですね。

新倉: そうですね。あと販促代行っていうことでメルマガ打ったりですとか、そういったこともよくやっていますね。

野口: 本当に現職でやられてる範囲広いですよね。グッズ制作みたいなところもありますよね。

新倉: はいはい、そうですね、ノベルティですとかユニフォームとか。こういったリアルのものに関しては、外部にちょっと営業の方が一人いて、その方から「何でもできると言ってこい」と、いつも言われているので。だから、「何でもできます」と。

野口: グッズまでは何というか、デザイン的なところの流れでわかるんですけど、ユニフォームって珍しいなって思ったんですよ。ユニフォームっていうのは、どういう経緯で始められたんですか?

新倉: その外部の営業の方が持ってるルートがありまして。そこでユニフォームなども含めてやっていたというところですね。

野口: なるほど。例えばユニフォーム作ります、ってなったら、デザインみたいなところは新倉さんが入れられたりするんですか?

新倉: そうですね。例えばロゴマークを入れたり、社名を入れたりとかですね。製造業の方の作業着、みたいなイメージでしょうか。

野口: ああー、刺繍というか、胸元につけるような感じの。

新倉: はい、そういうのも。

野口: なるほど。ノベルティだと、今はどういうものを受けることが多いですか?

新倉: えっとですね、「パタパタメモ」っていうのがありまして。デザインがいっぱい入れられるメモ帳があるんですよ。こんな感じの。見えるかな。……これ、映像がなくてテキストだけになった時、なんかカオスですね。

野口: (笑 サンプル画像とかがあれば、後でいただけるとイメージがしやすくなりますね。

新倉: ですね。

寄り道のトルソー談義

野口: ……あの、今、ちょっと新倉さんの背景、後ろが見えちゃったんですけれど、トルソー置いてありますよね? それなんかが、まさにユニフォームづくりとかで使われるんですか?

新倉: 「そうなんですよ」……って言いたいところなんですけど、実はこれ、以前のキャリアに関わってくるところではあるのですが……僕、古着が好きなんですよ、趣味程度なんですけど。

野口: おお、古着ですか。

新倉: それで、古着屋さんのまとめサイトみたいなものを作っていたんですね。で、自分で買った古着を、写真に撮って記事としてアップしていたので、その時の撮影用に買ったトルソーですね。

野口: なるほど、じゃあ今は、お仕事で使ってるわけじゃなくて、プライベート用ですか。

新倉: はい、プライベート用です、飾ってるだけですね。

野口: プライベート用でトルソーを置いてらっしゃる方って、なかなかいないですよね(笑

新倉: なかなかね(笑

野口: そういったトルソーって、どういうところで買えるんですか?

新倉: 僕はネット通販で買いました。本当はヴィンテージのトルソーが欲しかったんですよ。

野口: ヴィンテージのトルソー、っていうのがあるんですね。

新倉: あるんですよ。ただちょっとお値段がべらぼうに高くなってくるんですけれど。まず探しても見つかりづらい、そして見つかってもやたらと高い。さらに、見つかってもレディースタイプのトルソーだったりして。だから、メンズで、ヴィンテージで、そこそこお手頃な値段で、みたいな贅沢な探し方をすると、全然出てこないですね。

野口: ははぁー。ネット通販で探す、ってなったら、どういうところで探すんですか? ヤフオクとかそういうところで個人から、とか?

新倉: オークションもありますし、骨董品屋ですね。

野口: あー、雑貨になるんですかね。

新倉: 古着屋さんと同じようなノリで古い雑貨を取り扱ってるような店とか。

野口: ネット通販で探す、ってなった時に、例えば一般的なお買い物だったら Amazon とか楽天とか Yahoo! ショッピングとか、そういうとこになると思います。そういうところじゃなくて、なんか専門で探せるところがあるんですか?

新倉: そうですねー。どちらかというと、ヴィンテージの家具屋さんとかにうっかり紛れ込んじゃうぐらいの感じですかね。

野口: ああー、なるほど。トルソーにすごくこだわりを持ってるわけじゃないけれども、遺産相続とかでなんか受け継いで、「じゃあ、お父さんが残したこれ売ろう」みたいになった時に、他の家具と一緒に家具屋さんに流れちゃうみたいな感じですか。

新倉: 紛れ込む経路としては、そんな感じかもしれないですね。

野口: なるほどなるほど。ちなみに新倉さんが所有されているトルソー、それをあと 10 - 20 年して、ヴィンテージになったてきた時に、手放すとして、どれくらいの値がつくんでしょう?

新倉: どうなんでしょうねー。これ。ネットで新品で売ってるようなもの、しかも、年代を経ても風合いが育つようなものじゃないですから。金属使っちゃってるし。

野口: そんなに違うんですか。

新倉: 昔のトルソーって、木と布だったりするんで、風合いが出てくるんですよ。一方でこれは、ヴィンテージとして育たないような塗装だと思うんですよね。

野口: なるほどー。奥が深い。……もともと現職の話を伺っていたのに、いや、全然触れたことがない世界の話だったんで興味深く聞いてしまいました!

新倉: こういう世界もあります。

Windows 95 との出会い

野口: また少し話を戻しまして、今、独立してからは何年ぐらいになりますか?

新倉: 2017 年に独立したので、もう 7 年ですね。

野口: 7 年ですね。それ以前にはどんなことされていたのかということも伺えればと思います。

新倉: そうですね、僕はゲームクリエイター科の専門学校を出ておりまして、もともとゲームを作りたかったんですよ。

野口: おお、ゲーム制作。

新倉: しかも何て言うんでしょう、コンシューマー作品ではなくて、パソコンのゲームです。はい。「パソコンのゲーム」っていう言葉から、ちょっと行間を読んでいただきたいです。1999 年から 2000 年くらいの話ですね。

野口: インターネット黎明期ですね。

新倉: そうですね。パソコンを買ってもらえるからという理由で、頑張って県立の高校に入ったんですよ。

野口: 学費が浮いた分で、パソコンを買えるから。

新倉: そうです、そうです。パソコンを買ってくれるっていうから。当時 Windows 95 ですね。それを買ってもらってですね、届いた当日に壊すっていう。

野口: ……ん?

新倉: 当時のマシンって Windows 95 か Windows 3.1 に加えて MS-DOS という、2 つの OS がインストールされていて、最初の起動時にどっちかを選ぶんですよ。

野口: ほー。

新倉: 当時、Windows 95がまだ出たばっかりだったので、Windows 95 で遊べるゲームっていうのがあまりなかったんですね。一方で MS-DOS のゲームはいっぱいあるから、そちらをやりたかったんですね。

野口: はいはい。

新倉: そして不幸なことに、学校でパソコンの授業を受けていて、ヘタに生半可な知識が入っていたんですよ。最初の起動時に Windows で起動した後にですね、MS-DOS のゲームをプレイしたくなった。で、「元に戻したい時はフォーマットだ」っていう。

野口: あああ……

新倉: 「フォーマット」っていう単語だけ覚えてたんですよ。

野口: よりによって……

新倉: 説明書を見ると、「フォーマット」という項目があったので、フォーマットをさせていただいてですね。きっちり、パソコンは動かなくなりまして。

野口: そりゃなりますね。

新倉: なりますね。買ったところに連絡して、すぐに修理に来てもらうという。

野口: リカバリーディスクとか、当時は付属してなかったですか?

新倉: 当時ねー、なかったと思うんですよね。まあ、あったとしても分からなかったと思います。

野口: そうか、そうですよね。

新倉: で、来て直していただいて。……修理するときに、「なぜこんなことをしたのか」という理由を訊かれた時に、これは言えないなと思ったのをよく覚えています。MS-DOS のゲームをやりたかったという理由ですから。

野口: 「いや、あの、その……」みたいな感じで、しどろで乗り切った。

新倉: そうそう。なんとか無事に。

野口: そのあとは、念願かなってプレイできたんですか?

新倉: Windows 95で DOS プロンプトが動いたんで、ある程度はできたんですが、半々でしたね。途中で止まっちゃったりとか、結構ありました。

野口: ああー、そうなんですか。ちょっと時代が下ると、エミュレーターが出てくると思うんですけど、その頃はまだまだって感じでした?

新倉: 全然まだまだですね。Windows 95 と MS-DOS 版が並行して発売されていた時代、そのあたりのものはちゃんと動いていたんですけどね。それよりちょっと前の世代の作品に戻っちゃうと、動かないものが多くなりましたね。

野口: なるほど。私は Windows は 98から入ったんですよ。だから、DOS ゲームはエミュレーターでプレイしていたんですよね。

新倉: はいはいはい。

野口: このあたり、二人がどんなゲームをプレイしていたかはカットしますね。

新倉: そうか、カットできますもんね。

野口: ちなみに、ゲームはどういうところで買ってましたか?

新倉: えーと、近所の家電屋さんと、それから PC ゲームの専門店があったかな。そこ、レンタルもしてたんじゃないかな。

野口: なるほどなるほど。当時って年齢確認、緩かったですよねー。

新倉: はいはい、してないですよね。

野口: 今だと当たり前になってますが、コンビニでのお酒購入だって未成年確認していない頃ですからね。近所の家電というと、Joshin とかで普通に全年齢対象のものも年齢制限ありのものも、まぎれて並べて売られてたんですよね。

新倉: そうそう、まさしく Joshin でした。

ポスターの思い出

新倉: あとは月に 1 回、秋葉原に行くのが楽しみで。

野口: おおー、何が目的だったんですか?

新倉: 当時は「ポスタードリーム」っていう、お金を入れるとランダムでポスターが出てくるプライズマシンがあったんですよ。色んな作品のポスターがランダムで出てくるんです。トレーディング感覚ですよね。

野口: へぇー。全然知りませんでした。ポスターってそれなりに大きいタイプなんですか?

新倉: そうですね、結構大きかったと思います。何サイズだったんだろう。「ポスタードリームサイズ」だったかもしれないです(笑 なんかね、妙に縦に長いサイズだったような記憶があります。

野口: ははぁー。あー、そうか、自分の中でその情報によって補完できたことがあります。なんか 90 年代の、いわゆる「秋葉ヲタク」みたいな、テンプレートのイメージってあるじゃないですか。ハチマキ巻いて、大きなリュックサックにポスターが、ガンダムのビームサーベルみたいに出てるみたいな。

新倉: はいはい。ポスター全盛期ですね。

野口: あのリュックに刺さっているポスターって、初回特典とかそういうものなのかなってずっと思っていたんですが、実は「ポスタードリーム」のポスターだったりする可能性もあるんですね?

新倉: はい、可能性はむしろ高いと思いますよ。「ポスタードリーム」というのがあったんですよ。

野口: そういうことなんだー……なるほどなー!

新倉: 今風にいうと「トレーディングポスター」でしたね。

野口: それって、本当にトレードするんですか? 「あー、これかぶっちゃったから」みたいな感じで。

新倉: それがですね、トレードっていう感覚はあんまりなくて。ぶっちゃけバラで売ってましたね。むしろお店で買っちゃった方が早かったような覚えがあって。

野口: なるほど。

新倉: 今、鮮やかに記憶が蘇ってきてます。

野口: 脳が刺激を受けて……(笑

新倉: 当時、たしかソフマップの店舗に貼ってあったポスター……もう壁一面に、ザーッて、めっちゃくちゃでっかい、細かく分けて印刷したもの、「組み合わせたら大きな 1 枚の絵になります」みたいなものが、店先の「ご自由にお持ち帰りくださいコーナー」に置いてあったんですよ。僕、それを持ち帰りまして……一時期、自室の壁も一面が丸々それになってました。

野口: すごい……! そういう風にもらってきたりとか、「ポスタードリーム」でゲットしたものとかで、ポスターが部屋に溢れる感じになるんじゃないかと思うんですけれど、どういう風に保管されてたんですか?

新倉: 基本的には貼ってましたね。もう部屋はポスターだらけ。

野口: そうなってくると、もう貼れる場所も限られてきますよね。

新倉: 天井までポストあってましたね。多分、実家の押し入れを探せば、まだ、抽選で当たった原画師さんのサイン入りポスターなんかは見つかると思います。

野口: なるほどー。……まだ対談では出していないネタですが、当時ってもうすでにヴィジュアル系バンドを好きになられてましたよね?

新倉: あー、はい、もうとっくに。ゲームより先ですね。

野口: 早い。その、バンド系のポスターっていうのは、あんまり貼ってなかったんですか?

新倉: そうなんです、不思議と貼ってなかったですね。あまりバンド系のポスターを手に入れた覚えがないんですよね。SHOXX にオマケでついてくるくらいのイメージしかない。

野口: なるほど、雑誌の付録ぐらい。そういうのも、あまり飾ったりはしなかったんですか?

新倉: 一瞬飾ったような気もするんですけど……いや、なんかジャンルが混ざるのが嫌なんですよ。

野口: ああ、統一感が損なわれるのが。

新倉: そう、ゲームのポスターだったらゲームのポスターだけ。

ゲームの専門学校時代

新倉: それで、パソコンを触っていたこともあって、ゲーム制作の専門学校に入りまして。

野口: そこでは、特にこれを専攻していた、というのはあったんですか?。

新倉: 専門学校の悪いところで、満遍なく教えるんですよ。今は変わってるかどうか、ちょっとわかんないですけど。少なくとも当時の専門学校っていうのは、満遍なく教えて、満遍なく何もできない人たちが卒業していく……みたいな感じで。

野口: なるほど、専攻があって分かれていたわけじゃないんですね。

新倉: そうなんです、広く「ゲームクリエイター科」だったんですよ。ただ、当時、シナリオで入ってくれた先生が、ゲームクリエイターのキャリアや専門学校の問題についても全部わかっているような先生だったので、「出たくない授業は出なくていいから」「俺の授業だけ受けに来りゃいいよ」みたいな感じだったんです。その先生のもとで、僕は企画とシナリオを教えてもらいましたし、卒業後もその先生とのやり取りはしばらく続きました。

野口: その方って、当時現役のクリエイターの方だったんですか?

新倉: そうですね。

野口: どこかのゲーム開発会社に勤められていたんでしょうか。あるいはフリーで?

新倉: もともと勤められていたんですけれど……えっとですね、『ヴァリス』ってご存知ですか? あれに携わってた方です。

野口: もちろん知ってますよ! 本当に黎明期の作品ですね、80 年代。

新倉: そうですね。アクションゲームとアドベンチャーパートが交互に出てくるような、そういうゲームの走りですね。

野口: すごい。レジェンドの先生だ。

キャリアの始まり、ファッション業界編

新倉: そのあとはゲーム会社への就職を目指しながら、しばらくフリーター期間が続きましたね。ただ、そうこうしているうちにですね、「なんかゲームじゃねえな」となってきまして。

野口: 心変わりが。

新倉: 今思うと、あのまま、パソコンゲームの会社に就職していたら、絶対大変だったと思います。今で言う「やりがい搾取」的なことになりかねなかっただろうなと。

野口: 実際に何社か、面接とか行かれたんですか?

新倉: えっと、面接まで行ったのは 2 社ぐらいかなあと。「シナリオを書いて持ってきて」って言われたのを持って行ったりとか……。それから、「とりあえず雑用」みたいな感じで入りかけたんですけど、なんかちょっと違うなと、冷静になって考えたら、「いや、これなんか多分いいように使われるだけじゃないかな」と思って、逃げた覚えがあります。

野口: 起こり得ますよね、そういうことは……。

新倉: それでゲーム関連じゃないところに就職しようっていうことになった時にですね、その時点でファッションに興味があったのと、「スーツ着たくねえな」というのがありまして。スーツ着て働く自分が想像できないというか、単純に嫌で。

野口: なるほど、分かります、私も同じです。

新倉: じゃあファッション業界に就職すればいいんだと思って、ファッション業界の働き口を探したところで入社したのが、ファッション系の小物雑貨会社です。具体的には、靴下とネクタイ、スカーフなどの OEM ですね。そこに生産管理として入社しました。

野口: おお。

新倉: 配属先は靴下の生産管理でした。靴下製造の工場に「納期どうなってますか」という電話をかけまくって、みんなに「あの件どうなってる」と言われまくるようなお仕事をしておりました。

野口: なんか生産管理って言うと、ファッション業界とはいえ割とカッチリしていておカタそうなイメージがあるんですけれど、そこは別にスーツじゃなくても大丈夫だよって感じだったんですね?

新倉: そうですね。ネクタイチームの方は、なんとなくこう、ドレスコードしっかりした格好した方がいいっていうのはあったんですけど、靴下のはざっくばらで。むしろ、おしゃれだったら社長に褒められるぐらいの感じでしたねー。

野口: それはステキ。

新倉: 靴下は全部国内の工場だったんですよ。で、靴下の工場っていうのは、文化的にですね、だいぶ皆さんテキトーで……

野口: ほうほう。

新倉: いやもう、僕もだいぶテキトーな方なのですが、輪をかけてテキトーなんですよ。

野口: それはどういう点で……?

新倉: まず、納期に対しての考え方が非常に甘くてですね。納期当日に「まだやってない」とか、平気で言われるんですよ。

野口: マジですか。なんか一般的にイメージする、「日本の工場」って、めちゃくちゃカッチリしてますよね。連絡してみたら「まだですよー」みたいなのって、中国とかでありがちみたいな話は耳にするんですけれど。

新倉: そういう感じだったんですよねー。カッチリしているところはカッチリしていますよ。ネクタイの方は織物なんで、ネクタイ工場さんというのは非常にみんなキッチリされてるんですよ。納期通りに仕上げられてきます。

野口: ほぉ。

新倉: で、靴下は、何なんでしょうね、編み物だからですかね、だいぶユルいんですね。靴下をつくる機械がですね、機械といえど、かなり生き物に近い感じがあって。

野口: へぇえ。

新倉: 本当に、朝、機械を回し始めた時と、夕方になって仕事を終える頃だと、生産数が全然違うらしいんですよ。それこそ途中の時間帯では、だんだんノッてきて、生産数が上がってくるらしいんですよ。

野口: スロースターターなんですね。そして最後の方になってくると、疲れてダウンしてくる。

新倉: そうそう、そんな感じです。生き物みたいな機械を扱っているんです。糸が絡まっちゃったりとか、そういったトラブルもあるでしょうし。それから、その時やっていた仕事では小ロットの生産が多かったのですが、靴下を小ロットで、色々と柄を変えて回していくっていうのに、機械があんまり向いてないんですよ。

野口: ああー。

新倉: だから、工場さんは、同じ柄で延々と回し続けるっていうのをやりたがるんですね。ちょこちょこと設定を変えていくっていうのはむしろ嫌われるやり方なんで、そのあたりもですね。工場の方にうまくお願いしていかないといけませんでした。

野口: なるほど、気を遣うわけですね……。

新倉: そうですね。僕ってもともと、私生活でも仕事でも怒ることってほとんどないんですよ。でもこの時は本当に怒ってましたね。ビジネスアンガー。怒るってものすごくエネルギー使うじゃないですか。

野口: そうですよね。

新倉: なので大変でしたね。

野口: その大変な怒る仕事は、何年くらい続けられたんですか?

新倉: 2007 年からちょうど東日本大震災の後、2011 年までやってました。退社した後は、今度はもうファッション業界はいいや、っていう感じになって。

野口: 直接的な辞めた原因っていうのは、もう怒り疲れたとかが大きいんですか?

新倉: そうですね、また後のトピックに関わってくることもあるんですけど、やっぱりメンタルやられたんですよ。

野口: いやー、やっぱそうですよね。

新倉: そうなんですよ。めちゃくちゃやられちゃって。やっぱりね、毎日何十件の納期に追われて、営業さんには詰められて、ということが続いているとですね、どうしても人間おかしくなるわけですよ。

野口: そうですよね。

新倉: まあでも、ちょっと嬉しかったこともありました。僕の後任の方に、後年に会う機会があって、その時に「あなたはこんなことをされていたのか……」と。

野口: ああ……「偉大なことをしていただいていたのか」と。

新倉: 「これは無理だよ」って言われて。いや、「僕はやってたんですけど」って(笑 それ言われた時が、まあなんか嬉しさ半分……なんか、半分複雑な、ね。もともとヒト一人のマンパワーを超えたことをやっていたんだな、と、複雑な気持ちになったのを覚えてますね。

野口: わかりますわかります。

WEB 制作会社への転職と独立

新倉: 退職後は、IT というか WEB 系の仕事をやってみようかなと。早くからパソコン触っていたこともありますし。フリーター時代にはベンチャー企業に入って、Photoshop で画像処理ばっかりしてたということもありました。

野口: 靴下の生産管理をされる前のことですね。フリーターの期間って 5 年くらいとかですか?

新倉: 結構長かったですね。 7 年ぐらいやったかもしれないです。データ入力とか、 Photoshop での画像処理とか。だからその頃もパソコンはずっと触っていたし、靴下の会社にいた時も、ホームページの運用保守でちょこちょこいじったり、ネット通販始めたいから云々みたいなところから触る機会があったりしていたんですね。

野口: なるほど。

新倉: その流れで、WEB 系の仕事だったら、すんなり入っていけるのかな、というところで、アルバイトとして前職の会社に入りました。そこから、なんかトントン拍子で、入社 1 週間後ぐらいにもう「マネージャーになってくれ」みたいなことを言われました。

野口: 早いですね! その会社とは、どういうご縁があったんですか?

新倉: 普通に求人サイトで見つけてですね。応募して、面接受けて。社長さんからは今でも言われるんですけど……その時、ちょうど別のアパレルの会社も、バイトで合格してたんですよ。だから、「そっちがもう決まっちゃってるから、雇うんだったら早く決めて」みたいな感じのことを言ってたらしくて。

野口: ああー、もはや覚えてないけれど。

新倉: そうなんです、あんまり覚えてないんですけど。そしたら「ぜひ来てください」っていうことで、WEB の方に入って勤めることになりました。そこからその会社に長いこといましたね。2011 年 か 2012 年か、その頃から、独立する直前までですね。で、その会社から、まあこう、押し出されるように、独立を促されまして。それで弊社を立ち上げました。

野口: そういう流れだったんですね。今やられているお仕事で使っているスキルというかノウハウは、その前職で培われたことが、やっぱり多いでしょうか。

新倉: 多いですね。多いですが、やっぱり独立してから学んだことも、かなりありましたね。

野口: 経営的なものの見方とか、経営者として、みたいなことというのは、実際その立場になってみないと身につかないというのがたくさんあると思うんですけれど、制作においても独立してから学んだことが多かったですか?

新倉: そうですね。WordPress を本格的に触り出したのも独立してからです。WordPress の普及率が一段と上がったタイミングだったのかもしれません。やっぱり WordPress ってブログだよね、というイメージが強かった時代も長かったですよね。

野口: はいはい。

新倉: 今だともう、コーポレートサイトに使うのも普通になってきてますよね。

野口: そうなんですよね。古着のまとめサイトを作られてたっていうのは、その前職時代のことですか?

新倉: えっと、前職の後ですね。独立の頃に古着にハマって、独立当初からずっと古着のまとめサイトを趣味で続けていました。

野口: で、その古着まとめサイトが WordPress ということでしょうか。

新倉: はい、WordPress ですね。WordPress の技術はそこで学んだような気がしています。

野口: やっぱり、実際に自分で動かしてみてわかること、実験できることって、たくさんありますよね。なかなかその、お仕事でクライアントさんから依頼を受けたところでは、好き勝手なことってできないじゃないですか。

新倉: そうなんですよ。そこって結構、難しいですよね。スキルを伸ばしていくっていうのも、仕事の内容次第っていうことになっちゃうと、なかなか働きながらスキルを伸ばすというのは本当に難しい。学ぶって言ってもね、働きながら片手間で学ぶのも大変だし。よっぽど強い意志がないと学べないですよね。

野口: そうですよね。

新倉: しかも、結局覚えるっていうのは、仕事で必要に迫られた時、ってなっちゃうのが、やっぱりどうしてもありますよね。

野口: ありますよね。引き出しを多くするためにできることとは何か。「趣味でこれをどうしてもやりたいんだ」みたいなところが、お仕事に隣接しつつもちょっとお仕事とは関係ないところ、という位置取りで、スキルの幅が広がっていくっていう……。

新倉: そうですね。ほんと、好きっていう気持ちが一番ね、上達の近道かもしれないですね。

野口: IT エンジニアって、やっぱりどうしても常に新しい技術とかが出てきて、学び続けなきゃいけないみたいなイメージや議論ってありますよね。

新倉: はいはい。

野口: でも、トップランナー走られてるような IT エンジニアの方々は、そもそもその「学ぶ」ことの定義が違うというか。それを「勉強」だとは思ってないっていう。もはや「生き方」だし「趣味」だし、「いやみんな趣味で音楽聞くでしょ、本読むでしょ、テレビ見るでしょ、あるいは今だったら YouTube 見るでしょ」みたいな感じで、「新しい技術出てきたからそれちょっと触ってみるでしょ」みたいな、それぐらいの感覚の方が多いですよね。全員が全員そうだとは言いませんけれど。

新倉: そうですね。

野口: 楽器演奏だって、プロのギタリストで「ギター練習しなきゃな」って言って練習してる人なんて、ほとんどいないんじゃないでしょうか。

新倉: それはいないでしょうね、確かに。

野口: 「ギター弾くでしょ」みたいな感じだと思うんですよね。そういう感覚になれるかどうか、みたいなのってすごく重要なんだろうなって思うんですよね。

新倉: はいはい。

野口: 新倉さん的には、今やられているお仕事の中で、「いやこれは普通にやるでしょ」みたいな、そういう領域って何かありますか? なんかお仕事なのか趣味なのか、生き様なのか、みたいな、境界がぼやけているような領域というのは。

新倉: 何でしょうねー。僕も結構、仕事とプライベートの切り替えができないというか、しない方でして。わりとね、仕事するのが生き様になっていると言いますか。仕事とプライベートの境界線が結構曖昧なので、ほんと仕事としてやってること全てが、自分の生活だ、っていう感覚はありますね。

全体の底上げ=「ユニクロ現象」の功罪

野口: 先ほど、コーディングとデザインを半々やられてると言われていましたよね。

新倉: はい。

野口: 実働として半々というのはあるとして、新倉さんのアイデンティティとしては、コーダー寄りではなくデザイナー寄りなんでしょうか?

新倉: そうですね、アイデンティティとしてはデザイナー寄りですね。もうね、本当なんだろう、感覚で生きているといいますか。たとえば、野口さんと音楽の話をしているとき、野口さんって音楽について言語化できてるんですよ。

野口: ほぅほぅ。

新倉: 言語化して、これこれこうだから良い、とか、このベースラインのこういう感じが良い、とか、ちゃんと言語化して言ってくれるんです。

野口: そうでしたっけ、そうなのかな、なるほど。

新倉: 一方で僕は、なんとなくふわっと、「いやー、あのバンド良いよね」っていう。「そうとしか言いようがねえよ」みたいな。こういうところからも、感覚で生きているのが分かるわけです。

野口: はい。

新倉: だから仕事とかで「いい感じでお願い」って言われても、特に怒らないんですよ。よくあるイヤな例じゃないですか、その指示の仕方って。「そこ、いい感じでお願いしますー」って言われるのは。

野口: はいはい、あるあるですね。まあ確かに、言語化を求めがちな自分の場合、「良い感じの定義とは」っていうところから考えちゃいますね。

新倉: そうですよね。

野口: 「あなた=発注者にとっての良い感じ」なのか、「私=受注者にとっての良い感じ」にしてしまってもよいのかどうか。「良い感じ」って、対話している二者間でギャップがあって当然ですよね。

新倉: はいはい。

野口: だから仮に、発注者側の考えだと想像の範疇におさまってしまうものでそれを避けたいという理由から、「私=受注者にとっての良い感じ」でやって欲しいと言われたとしても、最終的にそれだけで OK 出してくれるとは限らない。よって、「私=受注者にとっての良い感じ」というのは、「あなた=発注者にとっての良い感じ」をある程度予想して含めていかなくてはならない。……というところまで深く考えてしまいます(笑 もちろん、考えるのは一瞬で、手を動かしてはいきますけれど。

新倉: 野口さんらしい。僕はというと、「良い感じで」って言われたら、まずは手を動かしちゃうんですよ。

野口: 素晴らしい、サッと動けちゃうのは良いですよね。ストレスマネジメントという点でも。

新倉: そうなんです。だから完全にデザイナー寄りで。いや、もちろんデザインだって、分解していけば数学的・論理的な部分もありますよ。センスだけではないっていうところはありますから、こういうこと言っちゃうと他のデザイナーさんから怒られるかもしれないんですが……まあ感覚というかセンスというか、そういったところで生きていますね。

野口: デザイナーとして日々学んでいくことって、どういう感じですか? デザインのトレンドってありますよね。例えばファッションデザインだったら、ぐるぐるぐるぐる周期的にリバイバルされていくものではあるわけですが、少なくとも今だったら、バブル期のファッションデザインって「それはないな」みたいになっていますよね。スーツで肩パッドがドーンッて出てる! というスタイルで歩いている人、見かけないですよね。

新倉: ですね。

野口: デザインのトレンドみたいなのを掴むというか追いかけるというか……自分の中に取り込んで昇華していくことって、すごく重要なことだと思うんですよ。そういう、デザイナーとして日々磨き続けるために必要なこと、意識してされていることって、何かありますか?

新倉: そうですね、まずネット上に溢れてるデザインには、アンテナを張っていますね。それからインプットとしては映画・映像作品もありますね。それそのものだけでなく、それに関わる広告も含めてです。

野口: なるほど。

新倉: デザインに関するセオリーやノウハウを提供してくれているデザイン会社の方も結構いらっしゃいます。その通りにやってみると、確かに最低限の品質が担保されます。だからデザインに関わる人達の総力っていうのがあるとしたら、そうした先人達のアウトプットの積み重ねによって、底上げされてきているんじゃないかなと感じるんですよ。

野口: そうなんですね、それは IT の方でも強く感じます。

新倉: ただそれを感じる一方で、そういうテンプレート的なデザインって、見ていてもあまりワクワクしないんですよ。

野口: ほう。

新倉: めちゃくちゃ綺麗。めちゃくちゃ綺麗で、すごくまとまっている。

野口: なるほど、ただしそれが教科書的で……?

新倉: そう、パッと見た時に「良いデザインだなぁ」と思うんですよ。ですけれど、そういうのってあんまりね、ワクワクしない。全体が底上げされるのって、良いことだと思います。これを僕は、「ユニクロ現象」とか「クックパッド現象」とかって呼んでるんですけど。

野口: ああー、はいはい。

新倉: ユニクロがあることによって、致命的なファッションセンスを街中で披露することって、少なくなりました。クックパッドがあることによって、エクストリームな料理を作る方は少なくなりました。

野口: そうですね、そうですね。

新倉: 当事者からすればね、他人から何も言われないような服を着た方がいいと思うし。料理を食べてマズイって言われるより、美味しいと言われる方がいいと思いますよ。

野口: それはそうですよね。

新倉: ただ何だろう、果たしてその、「均質化」というか、みんなが「同じ」ように底上げされてしまった結果が、面白いかどうか、ワクワクするかどうか、って言われると……ね。

野口: ふーむ。

新倉: もちろんそこは全体のバランスを見てでしょうけど、なんかねー、そういったことを感じるんですね。

野口: 言わんとしていること、すごくよくわかりますよ。

新倉: で、これが何の話につながっていくかっていうと……現に頑張ってる人達がいるからあまり声を大きく言えないのですけど……最近のヴィジュアル系バンドを見ると、この現象と同じものを感じてしまっているんですよ。

野口: ははぁー。

新倉: いやこれはもう、自分が歳取ったせいだ、ということにしておいて欲しいんですけどね。

野口: まあまあ。

新倉: 最近頑張ってるバンド見ていると、ヴィジュアルはめちゃくちゃかっこいいんですね、どのバンドも。

野口: はい。

新倉: 楽曲もね、レベルが上がってるんですよ。昔、90 年代のヴィジュアル系バンドだと、見た目も演奏も壊滅的なバンドなのに、なぜか CD を出せていた、みたいなことってあったじゃないですか。

野口: はいはい。

新倉: それがいまや CD 音源を出しているようなバンドって、本当に見た目も楽曲もすごくレベルが高いです。底上げされている。なんですけれど、なんかね、刺さらないんです。で、「あー、これって何か、ユニクロとかクックパッドとか、そういったものと繋がってるものがあるのかなー」って感じるわけですよ。

野口: あー、すごくよくわかります。自分もですね、自分が歳を取ったせいだ、と思う一方で、「果たして本当にそれだけか……?」ってよく思いますよ。

新倉: ですよね。

野口: そしてこれがあらゆるところ、至るところで、フラット化・均質化みたいなことが起きてるなって、同じように思っていました。デザインの話から始まったので WEB デザインについて言及しますが、 CSS のフレームワークで、Bootstrap ってありますよね。

新倉: はい。

野口: Bootstrap は WordPress のテーマに組み込まれていることが多いので、ものすごく人口に膾炙しているじゃないですか。それでもう 10 年も前から既に言われてたんですけれど、WEB が「Bootstrap 化」してきてるよね、みたいな。Bootstrap っぽいサイトって、もう見ればすぐ分かるっていうのがありましたよね。

新倉: はいはい。

野口: ユニクロ着てる人がいたらユニクロ着てんだなー、とか。 H&M 着てる人がいたら、 H&M なんだなー、とかって、すぐ分かるから、そんな感じです。それが言われ始めてからもう10 年経ってるわけで……、 CSS フレームワークによって底上げされて、均質化されていった。本職デザイナーじゃないよ、っていう、コーダーだったり IT エンジニアだったりが、最低限の品質が担保されたサイトを作ることができるようになったということで、 CSS フレームワークって、とても良いものだと思います。

新倉: そうですね。

野口: WEB デザインのトレンドという話では、2000 年代って、リッチな FLASH バリバリに使い、とにかくユニークさと奇抜さを重視して、ユーザビリティを脇に置いて、「俺は、俺たちは、こういうものを見せたいんだ!」っていう、発信者側が見せたいものを全力で出す、っていう空気感があったと思うんですよ。

新倉: なるほど。

野口: 今、そこからはだいぶかけ離れた世界になってきてるな、と感じています。それはまあ、良くも悪くも、なんでしょうけれど……。

新倉: 難しい話ですよね。

野口: そんなことを普段から考えていたので、お話しされていたところが、そこと繋がったなーっていうので、喋ってしまいました。

新倉: いえいえ、よかったです。

野口: ちょっと音楽について話を戻しますけれど、本当に全く同じことを思っていました。同世代というのもありますから本当によくわかるんですよ。もう、「これは自分が歳取ったせいで、感性が衰えてるせいなのか」って思う。「いや、これは俺が悪いんだ、きっと……」って。でも、「それにしたってなー」「いやそれだけか?」っていう部分もあって(笑

新倉: ありますよね。

野口: 音楽が飽和しちゃってるというか……もう、なかなか新しいものが出てこない。これはヴィジュアル系に限らず、2000 年代くらいのメタル系バンドとかでも、同じことを感じています。だいたい SLIPKNOT とか InFlames とか Soilwork とか、そのあたりの 2 番煎じみたいなのがたくさんだよなー、とか。しかも、「そのわんさか出ちゃってるって言われてる時から、もう 20 年くらい経ってるんだよなー、今……」って思うと……。

新倉: なるほど。

野口: また若い世代の方から、「いや、違うんだ」という反論や意見があれば、すごく聴きたいところでもあります。

新倉: そうなんですよね。

表現したい媒体≠学ぶべきもの

新倉: 繰り返しになりますが、最近のバンド、本当にかっこいいんですよ、それは確かなんです。かっこいいんですけど、でも、曲を聴いていて、「そろそろシャウト入るなー」と思うと、「あ、やっぱりシャウト入った」みたいな。

野口: あー、テンプレート化されてるというか、「お決まり」ができあがってしまっているというか。

新倉: そうなんですよね。やっぱりこう、ある程度、売れるためのセオリーがあるのか。

野口: 似た話ですが……昔のアニメを作ってた方々、たとえば今も現役の富野由悠季さんなんか代表的ですけれど、「アニメを見て、アニメを作るな」ということは、すごく言われますよね。アニメを作りたいんだったら、もっと現実を見るとか、それこそ映画をしっかり見ておけ、とか。アニメじゃないものを見て、それをいかにアニメに転換させていくか。

新倉: はいはい。

野口: 表現したい媒体から表現したいものを学ぼうとしても、それはダメだ、っていうことですよね。拡がりがない。だから、ヴィジュアル系バンドっていうことで言えば、それこそ昔のヴィジュアル系バンドを聴いて、それを再現的にやろうとしてるっていうのが、やっぱり限界になってしまうんじゃないかと。

新倉: うんうんうん。

野口: アニメのスキームを転用すると、ヴィジュアル系バンドじゃないものを聴いて、そこから何かを学んで、それをヴィジュアル系バンドとして表現する、っていうことをやらないと、二番煎じになるわけですよね。

新倉: まさに。

野口: だって、その 90 年代に活躍されてたヴィジュアル系バンドの方々、今でも現役でやられてる方々、たくさんレジェンドいますけれど、彼らはもちろんヴィジュアル系バンドを聴いて、それでヴィジュアル系バンドをやってる、っていうわけじゃない。別のジャンルの音楽を聴いて、それをヴィジュアル系バンドというかたちで表現する。

新倉: そうですね、うん。

野口: 表現しようとするとき、何のとっかかりもないと LIVE 会場に、ステージに立てないから、ヴィジュアル系バンドの体裁をとっていた、という方もいるわけじゃないですか。SEX MACHINEGUNS はまさにそれで、メタルバンドじゃ出演できなかったという話ですよね。

新倉: そうでしたね。

野口: まあ、既に先人がいるかどうかという違いがあって、先人がいる以上は、どうしても構造上、避けられないところがあるものだとは思うわけですが……。

新倉: そうですね。確かに、インプットしているものが変わっちゃったのかなっていうのはありますよね。その話と繋がるかどうか分かりませんが、90 年代のヴィジュアル系バンドって、歌詞の世界観がヨーロッパの方というか、異世界めいたファンタジーさを感じるものが多いですよね。

野口: そうですね。

新倉: でも 2000 年代以降って、なんかもう明らかに、歌詞の世界観が地に足ついちゃってて。どう考えても日本で起きてることの歌なんですよ。

野口: ああー、はいはい。

新倉: 蜉蝣とか メリー ( MERRY ) 、 ムック ( MUCC ) あたりからそういう感じになっちゃってると思うんですけれど、異世界というか、どこか異国の話、っていう感じはしないじゃないですか。

野口: 確かに。ないですねー。

新倉: 明らかにこう、日本で生きている人たちの心の動きというか、そういった曲になっちゃってる。でも、それより前に遡ると、「なんとなく多分ヨーロッパなんだろうなー」みたいな歌詞が多い。神。「神」と「あなた」がいて。

野口: はいはい、わかりますわかります。

新倉: やたらと壮大。だけどよくよく聴いてみると、「別に何も言ってねえな、この歌詞」みたいなのも、往々にしてあるわけです。

野口: はいはい(笑

新倉: バンドをやる人たちのインプットするものが、何か途中で完全に変わっちゃっているのかなーっていう気がします。あと、日本で「ストーカー元年」って、たしか 90 年代後半あたりだったと思うんですけど。そのあとの 2000 年代以降って、闇系というか、メンヘラ的な要素も多く入ってくるじゃないですか。

野口: なるほど。なるほど。それでいうと 90 年代後半あたりからそういうテイストはちょっと強くはなってきたのかなーっていう気はします。まさに初期の Dir en grey ( DIR EN GREY ) なんかは結構そういうところがありましたよね。それから Janne Da Arc なんかは、異国情緒もありつつも、一方で地に足ついた日本の歌詞っていうものがたくさんありますし。

新倉: たしかに、そうかも。

野口: Pierrot ( PIERROT ) も結構そういう要素あるのかな……。だから、あのあたりで売れてきてるバンドって、その前の方々とはちょっと違う感じがしています。

新倉: たしかにそうですね。ちょうどいい感じで混ざってる感じの世代がありますね。PIERROT のインディーズ時代はやっぱり異国の香りがしてるけど、メジャーデビュー後は地に足ついたような感じがしますね。

野口: ちょっとずつ混ざっている。

新倉: そう、混ざってる感じで、シフトしつつあったのかな。ちょうど境目くらいのバンドかもしれないですね。

野口: はい。

新倉: ついでにいうと、異国の感じというと、なんとなくみんなヨーロッパだな、っていう感じはあるんですけど、La'cryma Christi だけはもう。

野口: はいはい。

新倉: Sculpture of Time が特に顕著なんですけど、色んな国が混ざってる。なんかね、ほんとあの 1 枚のアルバムを聴くだけで、色んな国に行けます。

野口: 寒いところもあり、暑いところもあり。

新倉: 稀有なバンドですよね。

野口: ですよね。

新倉: ヴィジュアル系が一番苦手とするであろう、まさかの南国を楽曲にしたっていう、あれ本当、すごいと思うんですよ。

野口: わかります、わかります。この前一緒にご飯食べに行って、本当にそこの点、熱く語りましたね(笑 あと L’arc~en~Ciel も、国が万華鏡のようにたくさんあるじゃないですか。DUNE なんてまさに砂丘ですから。いや、暑さは感じなくて、どっちかって言うと夜の寒い砂漠っていう感じなんですけれど。

新倉: うんうん、 PV も月が出ている、あれですね。

野口: そうです。ラルクやラクリマ、ああいう多国籍な感じのバンドがあるっていうのは、本当に懐の深さを感じますよね。

新倉: そうなんですよね。

野口: 最近……いや、最近でもないか、何年か前、 90 年代のヴィジュアル系バンドの曲を、あらためて総ざらいして聴いてみようって思い立って、聴きまくったことがあったんですよ。でも、全然古さを感じない。それどころか、「なんかこの頃の方が多様性あったよなー」とすら感じたんですよね。

新倉: はいはい。

野口: 頑張ってらっしゃる方々がたくさんいる中で申し訳ないと思いつつですが……ヴィジュアル系バンドが、「はい、これ、ヴィジュアル系バンドの曲、これが聴きたいんだよね」みたいに王道で決まってる曲をやられている一方で、もちろんそれだけじゃなkつえ、いろいろと他のジャンルのもの取り入れて、「はい、どうぞ、ミクスチャーロックですよ」みたいな感じで、幅はそれなりに広いんだなとも思うんですよ。

新倉: はい。

野口: でも、なんといいますか、その上で、なんですが、90 年代の曲を聴くと、「いやこの頃の方が幅広いじゃん!」って感じちゃうんですよね。「え、うそ、あれ、こんなこともやってたんだ!? こんな実験的なものやってたんだ!?」みたいな。

新倉: なるほど。

野口: それこそ、その聴き返していた頃になってやっと受け入れられるようになった、リリース当時は全然好きになれなかった Laputa の最後期の曲とかですね。「ええー、こんな実験的なことやってたの!? え、これ 20 年前なんだ、これ!?」って、すごく新鮮に聴けましたから。

新倉: そうですね、僕も後期 Laputa を受け入れるのに時間がかかりました。

野口: 面白いぐらいに同じ道を通っていますよね(笑

新倉: そうなんですよねー。

野口: やっぱりインプットするものは、幅広くしていかないとダメですね、っていうところでオチにしておきましょう。

後書き

野口です。ここまでお読みいただきありがとうございました。

いやあ、まさか、この対談企画「この人と話そう」内で ポスタードリーム とか Laputa とかそういう話題が飛び交って盛り上がることになるとは、企画を始めた時には終ぞ思いもしませんでしたが、そういった予想外の展開というものが、対談の妙というものですから、企画の趣旨には見事にハマッていると言えましょう。

ポスタードリームの存在を知ることによってビームサーベルリュックサック現象の謎を解明(一説)できたこともそうですし、トルソーにもヴィンテージというものがあるだとか、靴下は織物だから機械の機嫌に左右されやすいとか、本当に知らないことにたくさん触れることができて楽しかったです!

はい、過去形にするにはまだ早いですね、今回も前編/後編に分かれていますので、引き続き後編記事も楽しんでいただけたらと思います!

後編記事

  • 公開次第リンク予定

記録

  • 対談日

    • 2024/02/14

GitHub 上でのファイル

https://github.com/Kimi-Yori/TalkWithThisPerson/blob/main/articles/0006-1.md


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