ことばの由来を知ること。「常に初日の気持ちでいる」ことと関連して

前置き

一般社団法人全日本ピアノ指導者協会 ( ピティナ ) で CTO をしている野口啓之 ( Hiroyuki Noguchi / Hi-Noguchi ) です。

追記: 2023/04 以後は 株式会社きみより で代表取締役をしております。

本記事は Qiita x 日本CTO協会共催!あなたの自己変革について語ろう! Advent Calendar 2022 8 日目の記事です。

私が入会している 一般社団法人 日本 CTO 協会 においては、以下のバリューが掲げられています。

- Give First / あなたの当たり前は誰かの学び
  - あなたの当たり前を共有しましょう!誰かが学び、あなたはフィードバックを得られ、結果的にあなたは多くのことを学べます。

- Think Big, Start Small / 大きく考え、小さく一歩目を踏み出す
  - 「やってみなはれ」の精神で大きなことを成し遂げていきましょう。

- Fail Fast, Learn Fast / 早く失敗し、早く学ぶ
  - 失敗を恐れず、小さな失敗を繰り返し修正して、高速に学習して高みを目指していきましょう。

- Always Day One / 常に初日の気持ちでいる
  - 過去のしがらみに囚われず、常に未来志向で次の一手を考えていきましょう。

上記カレンダー内説明文より引用

本記事は、このうちの最後の「常に初日の気持ちでいる」に焦点を当てたものとなります。カレンダー全体としては「自己変革」と題されていますが、そこまで仰々しい内容にはなりませんので、肩の力を抜いてお読みいただけたらと思います。

「常に初日の気持ちでいる」とは何か

まず前提として、「常に初日の気持ちでいる」とは何か、どういうことなのか、というのを考えてみます。

ざっくり意味単位にフレーズを分解すると、

  • 常に

  • 初日の気持ち

  • でいる

ということで、重要なのは二番目ですね、「初日の気持ち」とは何かということを考えればよいわけです。

大元に立ち返ってみると、日本 CTO 協会が表明している文章としては、

- 過去のしがらみに囚われず、常に未来志向で次の一手を考えていきましょう。

上記カレンダー内説明文より引用

とのことでしたが、「気持ち」とはやや距離がある感は否めません。「気持ち」をベースにしてその次の一歩、という感じでしょうか。なので、もう少し感情/感覚に基づいて考えてみます。

誰しもが通ったことのある、なにかにつけての「初日」そしてその「初日の気持ち」というのは、ポジティヴなものもネガティヴなものも入り混じることでしょう。それぞれ、以下のような感じでしょうか。

  • ポジティヴ

    • 色々と新鮮に見える

    • 期待

    • わくわくする

  • ネガティヴ

    • 分からないことだらけ

    • 不安

    • そわそわする

上記、それぞれで挙げた三項目が対になるかたちかなと思います。

  • 色々と新鮮に見える ⇔ 分からないことだらけ

  • 期待 ⇔ 不安

  • わくわくする ⇔ そわそわする

要は気の持ちようというか。まあ、少し体調が悪いだけで正負が転換したりするものですからね。

そして、日本 CTO 協会が掲げるバリューとしては、どちら寄りのものであって欲しいかといえばそれは当然前者になるわけですから、まとめると、

  • 物事を新鮮な目で捉え、何事かに期待し、わくわくしている

というのが、日本 CTO 協会が措定する「初日の気持ち」として理解してよいのではないでしょうか。
そこへ、「常に」が前置されるということですね。

このような「初日の気持ち」を常に持ち続けられているのであれば、たしかに、

- 過去のしがらみに囚われず、常に未来志向で次の一手を考えていきましょう。

上記再掲

という文にも頷けます。

これで、本記事が取り扱う「常に初日の気持ちでいる」というバリューに関する理解がしっかり深まりました。
ようやく本題に入れます。

「バリュー」とは何か

いや、待ってください。

「常に初日の気持ちでいる」というのは、CTO 協会が掲げる四つのバリューのうちの一つであり、本記事を書くにあたって選択したテーマでした。

ではそもそも四つの「バリュー」の「バリュー」って何でしょうか?

「バリュー」は言うまでもなく外来語ですね。由来は英語で Value です。

weblio 英和辞典 によれば、意味は、

価値、(ものの本質的または相対的な)価値、値打ち、真価、有用性、(交換・購買・貨幣的な)価値、価格、代価、(金を払っただけの)(…の)値打ちの物、値段相当の物

weblio 英和辞典

とのことです。ざっくり、日本語訳として「価値」を割り当ててしまって差し支えなさそうです。

では、日本 CTO 協会が掲げる四つの「価値」とは、以下です。

- Give First / あなたの当たり前は誰かの学び
- Think Big, Start Small / 大きく考え、小さく一歩目を踏み出す
- Fail Fast, Learn Fast / 早く失敗し、早く学ぶ
- Always Day One / 常に初日の気持ちでいる

上記より抜粋再掲

……「価値」……? 「価値」でいいのか……? なんかしっくり来ないな……? ってなりませんでしょうか。なりますよね。私はなりました。

ではこれを意訳するとして、「大切に考えている価値観」くらいまで広げてあげると、頷けるようになるかなと思います。

日本 CTO 協会が「大切に考えている価値観」は、以下の四つです。

- Give First / あなたの当たり前は誰かの学び
- Think Big, Start Small / 大きく考え、小さく一歩目を踏み出す
- Fail Fast, Learn Fast / 早く失敗し、早く学ぶ
- Always Day One / 常に初日の気持ちでいる

上記再掲

これならしっくり来ますかね。

しかし「バリュー」という一語をここまで意訳しないといけないというのは、どういうことなのでしょうか。

先ほどの weblio 英和辞典を見てみると、たしかに「価値観」が含まれますが、通常は複数形の s をともなう用例のようです。
カタカナ語にするときに「バリューズ」では収まりが悪いからということで s は落として「バリュー」にしたということでしょうか。

なお weblio 和英辞典で「価値観」を調べると、以下のような用例が出てきます。

価値観が合う
Have similar values

それぞれの価値観
Each set of values

健全な価値観の鼓吹
the inculcation of sound values

私は価値観が同じ友達がいる。
I have friends who have the same values.

私たちはお互いの価値観を知る。
We know each other's values.

青年に健全な価値観を吹き込む
inculcate young people with sound values

伝統的価値観の崩壊
the erosion of traditional values

weblio 和英辞典

やはり s なしの用例は見当たりません。

ちょっと寄り道して、英語の Value の語源なんかも調べてみましょうか。
スペルからしてフランス語由来というのは見えますね。英単語は、ゲルマン諸語なのですがロマンス諸語のフランス語由来の方が割合としては多いのです。その理由は、英仏百年戦争以前はブリテン島もフランスの一部として……本題から大きく外れるのでよろしければ以下あたりご参考まで。

語源英和辞典 なるサイト によると、

「価値がある(valeo)」がこの単語のコアの語源。

古期フランス語 value(価値)⇒ 古期フランス語 value(価値を持った)⇒ 古期フランス語 valoir(価値を持つ)⇒ ラテン語 valeo(価値を持つ、力がある)⇒ 印欧語根 hwelh-(力のある)が語源。

英語 equivalent(同等の)と同じ語源をもつ。

語源英和辞典

ということで、ラテン語由来だそう。
既にしてその時代から「価値がある」という意を持っており、概念史* 的に見て大きな意味の変遷があったわけではなさそうです。

*概念史 と気軽に語を用いてしまいましたが、気になる方は、以下参照。

となると、この「バリュー」は専門用語なのだろうというアタリがついてきます。そもそもどういう文脈で使われるのでしょうか。

実は、アドベントカレンダー内の説明文からだけでは読み取れない範囲の知識が必要になります。なので、一歩一歩進めようという当初の狙いからは少し逸脱するというか、やり方がちょっとズルい気がするのですが……
先に答えを出してしまうと、

  • ミッション Mission

  • ビジョン Vision

  • バリュー Value

という、経営の文脈で語られるいわゆる MVV モデル の中の「バリュー」が今回のソレにあたります。

ではこの MVV モデルの典拠は……? ということで、いくらか Google 検索してみると、あちらこちらでドラッカーの書籍『ネクスト・ソサエティ』だという説明が散見されます。

ただ、これに関しては以下の記事で反駁がされています。

Do Design Space - 経営で MVV と呼ばれているものの出典

結論から言ってしまうと、実際に書籍を調べたところ、それらの記事の内容は書籍に書かれていませんでした。
Web 上には、とてもこれらの出典を読解したとは思えない、勝手に枝葉を付け足して独り歩きした記事が並んでいます。
さらに、原文をそのまま引用しない (改変している)、ルールに反した記事も非常に多いです。

Do Design Space - 経営で MVV と呼ばれているものの出典

『ネクスト・ソサエティ』については、以下の通り。

- 「価値、使命、ビジョンの確立」(第1部 第6章より)
  - 原文では「its social legitimacy: its values, its mission, its vision」
  - 注) values の訳は「価値」ではなく「価値観」とするのがよい
- この節の見出しである「組織としての個の確立」を言い換えたもの
- この記述があるだけで、他にこの内容に関する詳しい説明があるわけではない

書籍全体を見ても経営手法を深掘りした書籍ではなく、この記述だけを見て「経営理念ステートメントのテンプレートとして使おう」と考えるのは無理があります。おそらく著者がこの文を書いた時点では、テンプレート化されることを意図していないでしょう。

Do Design Space - 経営で MVV と呼ばれているものの出典

さらに同記事において指摘されているのは、おそらくドラッカーを解説した二次文献としての『ドラッカー5つの質問』が典拠としては近くなるのではないかということです。
それでも、完全なかたちとしての MVV がテンプレートとして表記されているわけではないようですので、この検証に従うなら MVV モデルというのは、

  • どこのウマの骨とも分からない誰かが書いた WEB 記事がゾンビのように独り歩きしそれを参照した他の WEB 記事もまた連鎖的にその感染者として広め続けることになっていった結果の所産

ということが言えるでしょう。

……あれ、「バリュー」とは何かということを追求し始めたら、何だか MVVモデルを採用して「バリュー」を措定するというのが何だかよろしくないことであるかのようになってきてしまいました。

いや、別に MVV モデルを採用すること自体に批判的ということは毛頭なく、道具は目的を達成するための手段として便利に使えるのであれば、何だって構わないと思うものです。
ただ、その道具が何を由来としたどういったものなのかを知っておくに損もないでしょう。

さて、ものすごく遠回りしましたが、やっと本題に入れそうです。

ことばの由来を知ること。まとめに代えて

ハイ、ということで、お気づきの方もいらっしゃることと思いますが……
実はですね、ここに至るまでに、本題である「ことばの由来を知る」という行為を既に実践してきたわけです。

  • 「常に初日の気持ちでいる」

  • 「バリュー」

それぞれのことばの由来、知ることができましたね。

ことばの由来を知る過程で、あらためて「そもそも……」というところを掘り起こしたり、振り返ってみたり、考え直してみたり……ということをしてきましたが、どうでしたでしょうか。

  • 色々と新鮮に見える

  • 期待

  • わくわくする

という感覚が、たびたび湧いてきたりしませんでしたでしょうか。
この三つは、もう言うまでもありませんね、「初日の気持ち」の三要件です。

「初日の気持ち」は大切です。しかしこれを「常に」持ち続けるというのは、なかなかの難題です。

念仏のように「常に初日の気持ちでいる」「常に初日の気持ちでいる」と唱え続けていても、それで本当に「初日の気持ち」を保ち続けられるかといったら、よっぽどの修行と徳を積まれた僧でもなければ難しいのではないでしょうか。

それではどのようにしたらよいかというと、似たような気持ちを呼び起こす、つまり再現する手段があればよいのではないか、と考えられます。

ということで、先述実践してみたように、「ことばの由来を知る」という行為を通じて「初日の気持ち」を再現してみた次第です。

今回、記事執筆のネタを考えるにあたって、私自身、「んー、これはどういう由来なんだろう……?」と実際に疑問に思うところに始まり、何かと新鮮な気持ちでわくわくしながら記事を書けました。

ということで、いかがでしたでしょうか。本記事を読んでいただくことで、「初日の気持ちでいる」ということに対して「初日の気持ち」で以て向き合うことができるようになれば幸いです。

……え、こじつけに過ぎる?
いやいや待ってくださいよ。えーと、そうですね……あ、そうそう、「こじつけ」ということば、気になりませんか?

後書き

……というオチをつけて、本当の後書きに入ります。
お読みいただきありがとうございました。

本記事を通して訴えかけていた内容について、あらためて、抽象度を上げてまとめ直すと、

  • 当たり前のようでいることが実は当たり前ではないということを意識し続けること

  • 知らないことがたくさんあるのだという事実、無知であることを謙虚に受け止め続けること

要するに、「驕らないこと」と言い換えられるかなと思います。驕りは過去のしがらみを生み、未来志向の妨げになるものです。

驕りと自信は表裏一体ですね。そして、自信は経験に裏打ちされたものですが、「初日の気持ち」は経験から来るバイアスと対峙するところにあります。いやー、難しいものですね。まあ、実践するにあたって難度がそれなりにあるからこそバリューとして掲げられるとも言えましょう。

一度オチをつけてからの後書きで、そんなに堅苦しく小難しいことをつらつら述べるつもりはなかったので、ではでは、このあたりで。

関連

Qiita x 日本CTO協会共催!あなたの自己変革について語ろう! Advent Calendar 2022 1 日目の記事として、MVV策定の過程で初心に返った話 が書かれていますので、ぜひあわせてご一読ください。

また、同 4 日目の記事として、”Always Day One”の気持ちを持ち続けるために という記事が書かれていましたので、そちらもあわせてご覧いただけると複層的に理解が進んでよろしいかと思います。


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