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「眠れない夜に」

渡せなかったさよなら



「魂」に惹かれたことはありますか。

その人の姿形、性格、雰囲気、
目に見える部分や、醸し出すものはさておき、
ああ、この人の魂にどうしようもなく惹かれてしまった、
そんな経験はありますか。


例えば、球体と球体。
同じ大きさの、同じ質感。
同系色で、同じくらいの温度感。


そのことに気付いたのは、ずっと後のこと。

実は、そうだった。


気づくまでの過程は、それはそれは辛くしんどい。


例えば
球体と球体を、ごしごし擦り合わせるような
そんな感じ

擦って、擦って、
擦り合わさずにはいられなくて
そうして
すり減っていくのはただただ、心。

それでも
どうしても擦り合わせて
どうしてもどうしても擦り合わせずにはいられなくて

心がすり減っていくそのなかで、

ふと過る


なぜ私たちは
ひとつの球体じゃないんだろう。

なぜ私たちは2つなのだろう。

ひとつならこんなに苦しいことはないのに。

ひとつならこんなに傷つけ合うこともないのに。


私たちはなぜ
二人なのだろう。


そうして初めて、
2つ並んだ球体が

同じ大きさ
同じ質感
同系色
それも、
同じくらいの温度感

ということに気がつく

なのにどうして

どうして

そう思えば思うほど

まるでひとつの球体なのに

そう感じれば感じるほど

どうしたって擦り合わせずにはいられない

それはまるで、ひとつになりたいと叫んでいるような

衝動

そして
ひとつでないことを思い知る絶望

2つであることを嘆き
2つであることを悲しみ
仕組まれたように心をすり減らし合う

ひとつでないことを確認するたびに傷つき
2つであることを受け入れきれず
ひとつならどれだけ楽だったかと落胆し
ひとつでなくてよかったとも思い悩む

けれど、私たちはどうしたって2つで
ひとつではない

ひとつになれないことを知っているし
2つであることを自覚している


例えば2つの球体を
永遠に擦り合わせ続けたなら
やがてどちらも崩れ跡形もなくなるかもしれない

それはもちろん
私は望んでいなかった

望んでいなかったけれど
確かに私は私の半分以上を失っていた

すり減ってすり減って
すり減った分だけなくなっていた


私が私でなくなった


そして酷く恐ろしくなった


このままではいずれ消えてなくなってしまう

そして、それでもいいか、と思った


それは恐ろしく危険な思考で
けれど当然のようにそう思った


私が私でなくなったとしても
そんな幸せもありかもしれない

そんなことを
日常の端々で考えていた


そんな危機をはらんだ精神で
私を押し止めたもの

このままではダメだ
その声が聞こえたきっかけは


私は望まない

という感情


あの人と死に別れることを、
私は望まない。

看取るのも、看取られるのも、耐え難い。

置いて逝くのも、置いて逝かれるのも、

つまりは

あの人のいないこの世に残されるなんて、想像することさえ拒絶

あの人を私のいないこの世に残すなんて、考えることすら酷


そういうわけで
2つの球体は
2つであることを認めることにした

なんのための2つであるのか
ひとつではないゆえの何かがあるのだと


そして、離れた


どうか、幸せに

私ではない誰かと、どうか


誰よりも幸せになって


私ではない誰かへ、
どうか幸せにしてあげて

そう願った


私には幸せにできない
私を幸せにはできない


私が私でなくなったとしても
そんな幸せもありかもしれない

そんなわけない

私が私でなくなるような関係性を
受け入れていいはずがない



誰も悪くない

誰のせいでもない


なぜ辛いのかといえば
どうしても惹かれてしまうから

理屈ではない
よく知れた次元とは別のどこかで
強力な磁力のような
未知の何かが
ただただ反応し、共鳴してしまうから

そして
どれだけ心をすり減らしても
精神的なダメージを受けても
どん底に突き落とされようとも
過去体験したそれら全ての最悪は
当然のように遺恨を残さない
信じられないほどに、なんてことない出来事にすり替わる
不思議なくらい、それでも磁力は依然消えない


辛くて、苦しくて、得体が知れない
哀しくて、悲しくて、どうしようもない
喜びが沸き上がり心が踊る


離れようと頭が言えば
心は水が溢れるように訴える
頭はそんな心の機嫌をとって、
離れないと考え直す


それでも、なんでも、その魂にどうしようもなく惹かれてしまったから

それでも、どうにか、離れる必要があった


まるごと全部を受け入れる
まるごと全部を肯定する

そのすべてを許すことができる


こんな摩訶不思議な体験は
ひとつではできない

こんな感情
2つだから味わえた

自分ではない誰かのことを
まるごと全部
当たり前のように


受け入れたくなかったことは一つだけ


死が二人を別つこと


汝はこれを…
死が二人を別つまで


死が二人を別つ
その瞬間に立ち合うことだけ

それだけは覚悟したくなかった


だから、また会おう。


また、数百年後に

今度は気の置けない友として


また会おう。

来世のどこかで。

離れると決めたとき、そう思った。


さようなら、また100年後。

今はもう二度と会えない、
この世のどこかで生きているあなたへ。

どうか幸せに暮らして

お互い、この世で果たすべきことを、果たすことにしよう。
別々のパートナーと共に。

そしてまた会うときは
何でも話せる仲になって

そのときには
2つ並んで輝こう。

2つ並んで、響き合おう。

2つ並んで、分かち合おう。

そのときまで、さようなら。

さようなら。

他の誰とも体験できない奇跡をありがとう。


さようなら。

もう二度と会わないあなたへ。

さようなら。




#眠れない夜に

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