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#習作 買い物に出た彼女と、彼女の好きなもの(1)。

#1

些細なことで喧嘩をしてしまったから、彼女は家を出て行ってしまった。それでも、ちゃんと僕らのベッドにはスマートフォンの充電器があって、戸棚を探る様子もなかったものだから、彼女には家出をする気持ちなんてなくって、だからこそ高校時代のプリクラ帳とか昔の通電するかしないか分からない携帯電話も置きっぱなしなのだとおもう。きっと、彼女は買い物に出たのだとおもう。

彼女の置いていった古い携帯電話には、プニプニと膨らんだシールが貼られていて、さも自分だけは歳をとらないでいるかのように張りを保っている。どうせ、パスワードは、彼女の生年月日か、その前後だし、数回のチャンスさえあれば正解にたどりつけるはずだった。ただ、ドコモの充電器のコードが贈答品のようにピンクの紐で思いのほか綺麗に結ばれていたものだから、あけてみるのを辞めた。僕には、直せるはずはないのだし。

たぶん、スーパーマーケットに向かったのだとおもう。烏丸通のフレスコだとおもう。なにを買ってくるのかはしらないけれど、きっと、鮮やかなパプリカとかが入った妙なパスタを作るのが好きな彼女が選ぶはずはない、惣菜とスナック菓子とを買って帰ってくるのだとおもう。彼女曰く出来の悪かった秋学期の試験の帰りもそうだった。結局、彼女のノートを前日徹夜で覚えた僕はC評価で、彼女はB評価だったのだけれど。

御池通のビルの奥で隠れている古びたこのアパートに西日がさしだした夕暮れどきに出ていったものだから、もう少し赤が薄らいできて、空がちょうど御所染になったころに、さも「五限の講義にでていたんだ」という風にして戻ってくるのだとおもう。
(続)

2 著者情報

著作:ハヒフ
https://twitter.com/same_hahihu
* 思いついたので、見切りながら何話か書きます。

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