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Hi! Designの「それってデザイン?」:プランをデザインする

こんにちは!Hi! Designブランドプロデュサーの森田 仁美です。

ブランディングをメインとしたデザイン会社である弊社のフィロソフィー「それってデザイン?」ということの実例を紹介するシリーズ第一弾です。

前回の記事はこちら↓

このマガジンは現在わたしがCDO(チーフデザインオフィサー)を務めている奈良の靴下工場の株式会社創喜さんと共創してきたことの振り返りでもあります。

そんなわけで今回の記事は「創喜さんのご紹介」と「創喜さんとわたしの馴れ初め」みたいな内容になります。6年ほど前、創喜さんと我々Hi! Designとが伴走するきっかけとなった部分なので、へぇーという感じでお読みいただけると幸いです。

靴下の町、奈良県広陵町で100年近く靴下づくりを続ける創喜さん

奈良県といえば「大仏!鹿!」というイメージですが、実は靴下の生産量が全国1位!奈良県のなかでも大阪都心から近い場所にある広陵町は、明治43年ごろから靴下づくりが盛んにおこなわれていて、靴下の産地となっています。最盛期には広陵町とその周辺に200件以上あった靴下工場ですが、海外への生産発注が増えたことで現在では40件ほどに減ってしまいました。

そんな靴下の町である広陵町で100年近く靴下作りを続けてきた創喜さん。5代目社長である出張(でばり)さんは、近年アパレルメーカーなどからの発注数が先細りしていくなかで

「この地に根付いてきた靴下づくりを後世へ繋いでいきたい」

と強く想うようになります。そして外部からの発注(OEM)に頼りきらないよう、自社ブランドの商品の販売をしていこうと考え、2015年に「Re Loop」を立ち上げました。「広陵町の靴下産業と大事な資源を後世へ繋いでいきたい」という想いを込めて出張さんが命名した、創喜ファクトリーブランド第一号です。

出張社長ご本人やご家族が自分達自身で身につけて本当に良いと思ったものを独自で商品化し、関西圏のマルシェなどの販売イベントに出店するうちにお客さんから、履いてみたらとても良かったのでまた買いに来たよ!と声を掛けてもらうようになったそうです。それから自社ブランド事業を拡大したいと考え、靴下や小物のメーカーでブランド立ち上げの経験のあった私に連絡をいただいた次第です。依頼内容の大枠は「Re Loop」ブランドディレクターとして「Re Loop」広めていくことでした。

現在の工場は1960年ごろに建てられたもの。
繊維関係の工場によく見られるのこぎり屋根が特徴的。
のこぎり屋根の工場は室内に安定した光源が得られ、糸や生地の色を見るのに最適化された構造。
創喜には編機のメンテナンスはもちろん、改造まで行える靴下職人がいる。

プランをデザインする

もともと創喜さんとは以前勤めていたメーカーで協力工場さんとしてお付き合いがあったので見知った関係でした。わたしがメーカーに勤めていた間に数件の靴下工場が廃業するのを見ていたこともあり、出張社長から相談を受けたとき、靴下産業の継続に一役かいたいという思いでこのプロジェクトを受けました。

そして学生の頃に考えていた、アパレル、繊維業界の工場が下請けの仕事に頼らず自走するにはどういった役割をする人が工場にいればいいのか、という疑問に対する答えを身をもって導き出せるのでは、という思いもありました。(この内容に関しては別途書きたいと思います)

さて、一体何からどう始めるか。

スタート時の「Re Loop」の状態は・商品、ロゴ、ネーミング、パッケージが1年前に出来上がっている。・商品構成は靴下をメインにしながら、アームカバー、レッグウォーマー、タイツ、ニット帽などのアイテムが多様な素材とテイストで混在している。・マルシェや青空市で生産者が直接買い手に商品の良さを伝えながら販売している。・展示会への出展、SNSなどでの広報活動はしていない。  ゴールは  “小売のお店に卸して販路を広げたい”

おそらく、出張社長は主に「Re Loop」の販促ツールのデザインや、新商品の企画などを依頼する予定だったと思います。しかし現状の「Re Loop」のままではどんなに販促物を綺麗にデザインしても卸への販路が広がるにはかなり時間がかかるだろうと思いました。

他社と差別化できる生産背景と歴史、しっかりとしたつくり手の想いがあるのに、一つ一つの商品も魅力的なのに、今の商品構成ではそれがひとめで伝わりづらい。つくり手が商品の説明をしながら販売できない小売への卸しでは、様々なものが隣に並ぶ売り場で、通りすがりの人の目に留まる佇まいが不可欠です。それは店頭に並ぶ以前に、卸先のバイヤーの手に取ってもらえるかどうかにも関わってきます。

ブランドを整えながらバイヤーの集まる合同展示会への出展する。その手前で出展に選出されるよう、ブランドと企業のイメージを伝えるHPも必要。ゴールから逆算するとやることはたくさん出てきます。部分的な表層のデザインをしても“中長期的な認知と利益の拡大”に繋がりづらいと考えた結果、わたしがはじめにしたことはプランをデザインしていくことでした。

そこでまず人の“目に留まる佇まい”の要素の一つとして、ブランドの一貫性持たせることを始める。そのために商品構成を整理し、「Re Loop」の名前を聞いた時に人がイメージする意味合いと関連性の高い商品に絞ることを提案しました。それが「Re Loop」を多くの人に知ってもらうための近道だと考えたからです。

当時のRe Loop。工場で余った糸を使って編んだ靴下は丈夫で履き心地も良い。

しかしこの提案は創喜のみなさんで作り上げた、想いのこもった商品たちをふるいにかけるような行為であり、当時のわたしはなぜ今それが必要かをうまく出張社長に伝えることができませんでした。

そして出張社長からの思い切った提案がされたのです。

「森田さんのブランドをつくってください」

え・・・ そ、そんな・・・「Re Loop」作ったばっかりなのに?もうひとつ新しいブランド作ってさらに同じくらい在庫積むの?すごく初期投資かかってしまうし商品管理など大変では!?という考えが頭の中を駆け巡りました。

これはもう責任重大、と当時は悩みましたが、ゴールを目指す手段が増えたということであり、この新しいブランドづくりが株式会社創喜の人格を掘り下げるきっかけにもなっていきました。

というわけで、次回 Hi! Designの「それってデザイン?」:ブランドをデザインする に続きます。