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【マイブロークン・マリコ】突然死んだ親友との旅の向こうにあるもの

マイブロークン・マリコ

「親友」を描く作品は「恋人・パートナー」のものより少ないと思うし、この作品からは一切の男女の恋が排除されている。突然訪れた親友の訃報。そこからマリコの遺骨とシイノの旅が始まる。

マリコは人生からいろんなものを搾取された結果、自殺することになる。なんで親友の自分に何も言わず、死んだのか。怒りとも悲しみともとれる感情を処理しきれないシイノは包丁片手に、マリコの人生を初めて搾取したマリコの実の父親のもとを向かう。

会社の喫煙所で、タバコを吸っていたシイノは、まだまだ吸えるタバコを足で踏みつけ、自宅から包丁だけを持ち出す。このシーンはシイノの感情が静かに劇的に動いた瞬間で、タバコの吸い殻からシイノの走り去る足元を映す画がかっこよかった。実際にマリコの自宅では、きわめて冷静で、シイノ自身の器用さもうかがえる。自宅に潜入してから、遺骨を奪うシーンは、マリコがシイノに憑依したような演出で、ずっとずっと言いたかったけれど言えなかったことをシイノに言って欲しかったし、シイノはマリコのために言いたかったのに言えなかったことをやっと言えたというのもあったのだと思う。

マリコを何度も守り、助け、説いてきたシイノはマリコを助けていたようで、マリコに助けてもらってきたことに、シイノ自身が気づいていく時間だった。
親友とは、友とは、そういうもので、頼られ、信頼されることで、自分の存在証明になる。大して明るい性格でもなく、きっと友達も多くないであろうシイノはマリコが唯一無二の友達であり、かけがえのない親友だった。

そう思える人がいる人には、「その人を大事にしよう」と思える映画でもあり、そう思える人がいない人にとっては、「シイノとマリコのような関係が羨ましい」と思える映画でもある。

どちらにせよ、突然死んでしまった大切な人のためにできることは後を追って死ぬことではなく、ただ生きること。その人の記憶をただひたすらに覚えておいてあげること。自分が生きている限り、その人の記憶が消えないから、一緒に生きるってことなんだよ、とマキオがシイノへ伝えたメッセージはとても愛が溢れている。


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