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【エッセイ#3】印象的

 日常で印象的な瞬間というものは突然やってくる。

 この直近で一番目に焼き付いたのは、白髪のロングパーマで黒縁メガネの白いTシャツに、黒い長ズボンのリュックを背負っていたお兄さん。

 電車から降りて改札に向かう間、漫画『ゴールデンカムイ』を読んでいるそのお兄さんは、エレベーターを上り少し離れたところで止まって、見入るように続きを読み進めていた。
 その場で読破するのではないだろうかというくらいの集中力。
 人によってはただ邪魔だと思うくらい道を遮ってはいたが、あまりにも熱心に読み進める姿になぜか感銘を受けてしまった。
 一生懸命な人を応援したくなる人間の心理というものだろうか。



 ある夏の日は、霧雨の中を進むバスで聴くクリスマスソング。 
 肌寒さが残る初夏の朝。会社に向かうためバスに乗り、『She & Him - The Christmas Song』を聴きながら外を眺める。
 このワンシーンは、映画の中を覗き込んでいるかのようで、場面を切り抜いてさまざまな角度で吟味したくなる空間であった。

 しっとりした歌声と、雨の湿感がぴったり合うような不思議な感覚。
 夏に聴くクリスマスソングは、北半球しか経験のない自分にとって、アンバランスでありながらも冷房で冷える心も暖かく包み込んでくれるので好きだ。 
 さらに木々が生い茂る夏の生命力に圧倒させられる窓の外の世界は、キラキラしていて美しかった。
 忙しい現代人でも四季を大切したい心をくすぐる。
 夏、生長、成長の季節。
 東洋医学の養生を思い出させる。
 今日もたくさん体を動かし汗を流して頑張ろうかな、と職場に向かうのである。


 そして秋も深まり、鈴虫の鳴き声もだんだん聴こえなくなる。
 さて、どんな秋を過ごそうか。



 日常のふとすれ違う一瞬を捉え、その一場面でどこに心を惹かれたか考察し、楽しむ。
 私の「印象的」を味わう方法である。




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