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超短編童話「女狐」

ある森の山奥に2匹の狐がおりました。
その内の1匹は人間に化けるのがとても上手く
うまく化けれないもう1匹の狐にとって
色々コツを教えてあげる兄貴分のような存在でした

しかし持って生まれた天分の違いか
一生懸命努力しても化けるのが下手な狐が
うまく人間に変身することが
出来るようにはなりませんでした

それでも化けるのが上手い狐は
下手な狐を見捨てるようなことはせず
慰め続け励まし続けていました。

そんなある日 いつものように
2匹の狐が遊んでいると
1人の男が歩いてくる気配を感じ
2匹はそっと木陰に隠れました

そして男の様子を伺い
化けるのがうまい狐は下手な狐に向かって

「よし今からあの人間を騙すからよく見てろよ!」
と自信満々に呟くとドロンと人間の女性に化けて
颯爽と男の前に姿を現すと「おや、お兄さん こんばんわ」
と自然に色っぽく挨拶をした

そう声をかけられた男は何の疑いもせず
むしろ人間に化けている狐に見惚れているようでした

「こ・こ・こんばんわ」

「お兄さん かっこいいわねぇ。わたしと遊ばない?」

「あ・あ・遊ぶって!?オラそんな金もってねえだ」

「お金なんていいわよ。それより何か食べるものでもくれないかしら?」

「え!?おまえ腹減ってるだか?いまはこんなものしかねえが」

そう男は答えると背中に背負っていた風呂敷を開け
中から握り飯を何個か取り出し化けるのが上手い狐に手渡した

「ありがとうお兄さん」

化け狐はお礼を言って受け取ると勢いよくガツガツと握り飯を食べ始め
その様子を見守っていた男は
「はぁ〜おまえ美人なのによく食うだなぁ」
とその食べっぷりに驚いていた

そして化け狐が握り飯を食べ終え
タイミングよく逃走を図ろうとしていると
男はなにを思ったか突然

「おら おまえが好きだ!結婚してけろ!」

と急にプロポーズをしてきた
化け狐は驚いて
「もうお兄さん何言ってるのよ」とかわそうとしたが
「おら!本気だ!おらと結婚してけろ!」と迫ってくる
その勢いに恐怖を感じた化け狐は思わず変身を解いてしまい
「あっしまった!」と声を漏らしたが時すでに遅かった

元の狐の姿をみた男は怒り狂って
「オラを騙したな~!!」そう叫んで狐を捕まえようと
全速力で追いかけてきた
狐は慌てて「逃げろ!逃げろ!」と叫びながら
もう1匹の狐に合図して2匹は必死に逃げた

そして「はぁ!はぁ!はぁ!オラもうダメだ・・」
と男がその場にへたり込み追いかけるのを諦めたのが分かると
2匹はようやく安心して走るのをやめて呼吸を整えた

「はー!はー!しんどっ!なんだあいつ!」

「やばかったね!」

「ほんとだよ(笑)」

「やっぱり人間て恐いよね」

「そうだな。でも握り飯はうまかったぜ」

「そうなんだ。いいな~」

「そういうと思って。ほら!」

「なにこれ?」

「じつは1個取っといたんだよ。おまえにやろうと」

「マジで!?いいのもらって(喜)」

「うん 食ってみ!」

「ああ ありがとう。 あっ。うまっ! 」

「だろ!うまいよな。やっぱ人間の飯って。
だからまた騙して奪いたいけど
変な人間いるから怖いんだよな」

「うん。まぁ俺 化けれないけど・・」

「いやできるようになると思うけどね。きっと」

「そうかな~」

「そうだよ。まぁ焦らずさ気長にやってこうよ。それで今度は
おまえが人間騙して ごちそうしてくれよ!」

「うん。でもあんまり上手く化けないようにしないと(笑)」

「そうそう。俺みたいに上手すぎると ああやって変な人間に惚れられちゃうから(笑)」

「アハハハハハ(笑)」

そう笑い合って2匹は楽しそうに帰り道を喋りながら戻って行ったとさ


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