見出し画像

世界でいちばん好きな疲労

 やりたいことリストのひとつに「5つの国立博物館を制覇する」を挙げている。5つとは「東京国立博物館・奈良国立博物館・京都国立博物館・九州国立博物館・皇居三の丸尚蔵館」を想定しており、そのうち、前者の2つはすでに訪問したことがあった。

▼5つは国立文化財機構の施設

 そして、先月の京都旅行にてようやく、念願の「京都国立博物館」へ行くことができた。以下、簡単な紀行文です。

きっかけ

 国立博物館への興味が芽生えたのは、東京国立博物館が最初だった。国も時代も超え、多岐にわたる展示を見れることに、ひどく感動したのだ。田舎生まれ田舎育ちの自分にとっては、新鮮な驚きだった。地域に根づいた小さな博物館や資料館も好きだけれど、趣を異にするおもしろさ・楽しさが国立博物館にはあると思った。

 章によって展開される展示は、まるで人文書のなかに入り込んだ感覚になる。分かりやすい解説と、実際の展示物、それらが文脈に沿って並んでいる。そのなかを、ゆっくりと、歩きながら、咀嚼する。読書をするときと同じように頭も使うが、目でみて足を動かして、体も一緒に使う。知識を全身で浴びることができる。

 それに、思いがけない出会いも多い。目的とする対象のものがあっても、単純に展示物の母数が多いこともあって、対象としていなかった「それ以外」が必ず目に入ってくる。すると「それ以外」が、予想外に面白く、輝いて見え、気づけばそっちが「目的」に……なんてこともあり得る。興味の入り口が、ずらりと並んでいる。

 そして、定期的に行われる規模の大きな特別展も好きだった。期間限定のレア感があったり、ユニークなグッズが展開されたりと、お祭りのようでわくわくするのだ。

 こうして、他の国立博物館にも行ってみたいと思うようになり、冒頭の通り、やりたいことリストに加わったのだった。

いざ、京博へ

 11月某日。京都を自由に観光できるフリーの日が、丸1日あったので、永観堂と京都国立博物館に目的地をしぼった。

▼京都紀行文 永観堂編

 永観堂にてみかえり阿弥陀像を拝観した後、蹴上駅(すごい駅名だな……)まで徒歩にて移動した。そこから電車に乗り、七条駅にて降車。さらに10分弱歩いて、京博へ。

 南門の方でチケットを購入し、入場。晴天のもと、そびえる明治古都館は圧巻だった(訪問したタイミングでは、閉館中だった)。

入場してすぐの案内図
14時半の明治古都館


 明治古都館を通り過ぎ、平成新知館へ。開催されていたのは、特別展「東福寺」。開催期間は10月7日〜12月3日ということで、後半すべりこみの訪問となった。

 平成新知館に入り、案内された通り3階までエレベーターで上がった。3階〜1階へとくだりながら、章ごとに辿っていく流れだった。

 東福寺は、京都にある禅寺のひとつで、円爾(えんに)さんという僧を開山に迎えて創建されたとのこと。奈良にある東大寺の「東」、興福寺の「福」をとって名前がつけられたというその由来が、思いのほか素朴な印象で親しみがわいた。

 そんな創建の歴史から、円爾さんの肖像画、東福寺で活躍した絵仏師・明兆(みんちょう)さんの絵、海外との交流がわかる資料、そして仏像。縦に横に、多角的に、東福寺について触れることができた。以下、特に興味の惹かれた展示品を3つ挙げてみた。

①彫木柄払子(ちょうもくえほっす)

ほっ‐す【払子】
 獣毛や麻などを束ね、それに柄をつけたもの。もと、インドで蚊などの虫や塵を払う具であったが、のち法具となり、中国の禅宗では僧がこれを振ることが説法の象徴となった。……

https://kotobank.jp/word/払子-133525

 円爾さんの所用として伝わる払子。「虫や塵などを払う」という用途から、「払う」という意味が引き継がれ、法具として使われるようになった、という払子自体の歴史が面白いなと思った。また、展示されていた払子は、持ち手(柄)の部分に細やかな彫りが施されており、毛束もしっかりしていた。それ単体で展示されていても、確かな存在感があった。

②五百羅漢図(ごひゃくらかんず)

ごひゃく‐らかん【五百羅漢】
 仏典の第一結集に参加した釈迦の弟子五百人、または第四結集のおりの五百人の聖者をいう。……

https://kotobank.jp/word/五百羅漢-65863

 絵仏師・明兆 筆とされる五百羅漢図。10人の羅漢さんが描かれている絵 × 50枚で、500人が描かれているとのこと。掛け軸となっていて、その大きさの迫力に加え、描写は繊細かつユニークで、全く飽きずに見ることができた。1枚ごとに、場面のストーリーを想像させられ、何より羅漢さんたちの表情が一人ひとり異なり、豊かで喜劇的。また今回の特別展では、漫画のようなコマわりのパネルも一緒に展示されており、より一層、親しみがわいて愉快だった。

③仏手(ぶっしゅ)

 焼失してしまったという大仏の、左手。本尊であった釈迦如来坐像の残ったいちぶとのこと。全体は、相当の大きさだったのではないかと想像させられた。

 個人的に、如来像の「水かき」を見るのが大好きで、こちらの仏手も例に漏れず最高だった。木造で、指と指のあいだの薄い水かきを、繊細に彫り出している様に惹かれる。間近で見るたびに、決まってどきどきする。薄く柔らかそうな水かきを、かたい木で表現するという、実際の材質とのギャップを見事に超えている点が、心底萌える。

おみやげ
京飴の入った仏手イラストのミニトート 

 スケジュールの都合で、今回の京都旅行にて実際の東福寺へは行けなかったけれど、この特別展で歴史をテーマごとに辿ることができ、とても楽しかった。途中で何度か小休憩を挟むほどには、ボリューム満点、見応えたっぷりだった。

復習に、参考サイト

▼特別展 東福寺 特設サイト

 出品目録に各章の説明や、一部展示の解説もあり。特別展自体は終了してしまったが、改めて読んでも、とても勉強になる。



▼京博公式キャラクター・トラりん 虎ブログ

 トラりんが、予習として実際に東福寺に訪れた様子や、研究員さんと特別展の解説までしてくれていて、わかりやすく、大変助かります……。あとシンプルに、トラりんがかわいい。


おわりに

 平成新知館を後にし、外に出る。エネルギーを使って、ほんのりあつくなった体が、11月のつめたい風に包まれた。博物館を堪能したあとの、心地よい疲労感。これが、たまらなく好きだった。この瞬間のためにも、また来たくなるのだろうなと、改めて実感するのだった。

16時半の夕日と考える人

この記事が参加している募集

#一度は行きたいあの場所

54,283件

#わたしの旅行記

1,382件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?