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桃の節句とお雛様

 生家には、母方の祖父母からいただいたお雛様がある。
 漆塗りの七段のお雛様は、お雛様の髪飾りから牛車に至るまでひとつひとつを飾り付ける。幼い私どころか、今の私でもすっぽり入ってしまいそうなほどの大きな箱に、雛人形やお道具の箱がまるでパズルのように仕舞われていて、私は雛人形を飾るよりもこのパズルを解く方が難しくて嫌いだった。
 今思えば、こんな立派な雛飾りを買うのは大変だっただろう。決して裕福ではない母方の両親が、私のためにこれを贈ってくれたのだ。

 人形というのは人と同じで個性がある。人の形をしているからなおさらのこと、目や鼻筋、頬の輪郭など様々で、私はこの時期が近くなると百貨店で販売のために並ぶ雛人形の数々を見るのが好きだ。
 そして一周回り終えて、やっぱり私の生家の人形が一番美しいと思う。春らしい桃色と黄緑の衣に身を包み、いつも柔らかく微笑んでいるような顔立ちなのだ。あられや甘酒を備えると、心なしか笛の音や鼓の音が聞こえてくるような気がする。その瞬間が、いつも愛おしく感じる。

 このところ数年、なかなか生家に帰る回数も多くはなく、愛しい姫君の顔を直接拝むことができていないけれど、いつの頃からか母が写真を送ってくれるようになった。
 私はまだ嫁入り前なのでこうして毎年飾ってくれているのだけれど、できることなら代々、この家に生まれる女の子のために飾られると良いなと思う。私は遠い地で桃の節句を祝う料理を食べている。昨年は手作りのうなちらしにハマグリの吸い物だったけれど、今日はさらに遠い地にいるので、地場産の蟹をいただいた。
 また来年も、この時期に。

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