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殺生石が割れた日と九尾の狐

 あまりにもぱっくりと割れてしまっていたので、しばらく写真を呆然と見ていた。世が世なら、今頃現地では再び九尾の狐を封印するために町中で大騒ぎになっているに違いない。
 私が最後に殺生石を訪れたのは最近で、昨年の11月。その時に見た殺生石はヒビこそ入っていたものの変わった様子はなかった。そもそも、ヒビというのも私が幼い頃から少しずつ入っていたものであるし、秋晴れの清々しい風の吹く中ではとても禍々しさなど感じるはずもない。

 殺生石に封じられているのは九尾の狐という妖怪で、古来より美しい人の姿で人々を惑わせたという。元は中国にてその美貌で国を傾かせたために、怪しんだ人々によって妖怪であることを見出され、そこから日本に逃げ「玉藻の前」として宮に仕えた。
 しかしそれも後に正体が露わになり、「扇の的」で有名な那須与一によって射止められ、いくつかに散ったその一部がこの殺生石に封印されている。
 というのが私が知っている九尾の狐のお話しだ。

 この殺生石の周辺は硫黄が湧いていて、どんよりとした曇天の薄暗い日や、小雨の降る濃霧の日などはその雰囲気も増して恐ろしく、もうもうと煙が出ている日は危険なので立ち入りが制限されることもある。
 令和の世になってからというもの、まるで平安の暗雲たる時代を見るような恐ろしい出来事が重なっていることに胸が痛むとともに、歴史的瞬間ともいうべき稀な出来事がこうも立て続けに起きる時代に、逞しく生きていきたいと背筋を伸ばすのだった。

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