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たぶん、一生忘れないであろう、あるクリスマスの話。

2014年12月25日。

出産~産後の里帰り期間を終えて、岐阜から夫が待つ熊本へ向かうために、私は娘と二人きりで飛行機に乗ることになっていた。

予定では、搭乗時間は1時間ちょっと。でも、この世に生まれてからたった1ヶ月しか経っていない、まだふにゃふにゃの赤ちゃんと、初心者マークを背中に貼っておきたいくらい、まだ母になりきれていない新人母の二人旅。これが不安にならないわけがない。

途中で泣き出したら…?オムツを替えないといけなくなったら…?忘れ物ないよね…?

たかだか1時間飛行機に乗るだけなのに、いろんな心配事が次々と出てくる。できることなら、飛行機なんて乗りたくなかった。

飛行機やだ。今すぐどこでもドアがほしい。飛行機やだ。やだやだやだ。

でも、うだうだしていても時間は待ってくれない。あっという間にその時はやってきて、見送りに来てくれた両親に別れを告げた。一人で歩き始めた途端、大きな荷物とふにゃふにゃの娘の重さが、両腕にずんとのしかかる。

搭乗口へ行くと、赤ちゃんと一緒だからと、他のお客さんより先に搭乗させてもらえることになった。とっても優しいCAのお姉さんが「赤ちゃんかわいいですね~!」と言いながらさっと荷物を持ってくれて、少し身軽になって飛行機へと向かった。お姉さんが、女神のように見えた。

機内に入って、席に着く。娘はというと、ずっと抱っこしているのもあって、なんだか眠たそう。いいぞいいぞ。このまま寝ておくれ。

他のお客さんも乗り込み、いよいよ離陸のときがやってきた。離着陸時の赤ちゃんの耳キーン対策にはおしゃぶりがいいという情報をゲットしていたので、ぐずったら使おうとスタンバイ。でも、意外にもケロッとしていて出番なし。泣いたり喚いたりすることもなく、しばらくすると寝てしまった。

やった~~~!寝た~~~~~~!!

歓喜と同時に、緊張の糸がぷつりと切れて、ふっと力が抜けた。

そこからは、ただただぼーっと窓の外を眺めながら、いろんなことを考えた。今、どこにいるんやろ。あとどれくらいで着くんかな。熊本、寒いかな。今日の夜、何食べよう。あっちで娘は寝れるかな。

しはらくして、さっきの女神CAさんがやって来た。飲み物とパンと、「まだ早いですよね」と笑いながらも、娘用に飛行機のおもちゃをくれた。やっぱり、優しい。

娘はまだ寝ていたので、頂いたりんごジュースをゆっくり飲んだ。生まれたばかりの赤ちゃんを抱いて、飛行機の中で一人でちびちびとりんごジュースを飲むなんて、後にも先にもこれが最後だろうな。

そして、飛行機はあっという間に熊本に到着。まだ寝ている娘と荷物を抱えていたら、また女神CAさんが荷物を持ってくれた。結局、最初から最後までお世話になりっぱなし。このCAさんのおかげで、二人旅を無事終えることができたと言っても過言ではない。

飛行機から降りると、そそくさとロビーに向かった。夫と久しぶりの再会。でも、1秒でも早くトイレに行きたかった私に、ゆっくり喋っている時間はなかった。私は夫の顔を見るなり、「はい!お願い!!」と、娘と荷物をバッと夫に託した。

これが、ずっと岐阜に来られなかった父と娘の初対面。そして初抱っこ。本来なら感動的な場面であるはずのそれは、熊本空港のロビーにて、思わぬ形で淡々と終わってしまった。

こうして、母と娘の長い長い1日は、父と母と娘の始まりの1日となった。

この日から、もうすぐ6年が経とうとしている。