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10. 音の無い英語-英語の手話

※今回は思い出話ですが、英語を学ぶ上で大切なことが、たくさん含まれていると思います。

それは、もうかなり前のことになりますが、私は、2学期間(12週間)、コミュニティカレッジの夜間コースで、手話の勉強をしたことがあります。

理由は、以前から手話に興味があったことと、英語と日本語が話せて、ニュージーランドと日本の手話の両方が出来たら、自分自身のコミュニケーションの輪が広がるだけではなくて、いろんな形での通訳が出来ると思ったからです。
もう一つの理由として、その頃は、自分の英語の発音に対して開き直ることが出来ず、まだまだコンプレックスがあったので、手話なら、発音を気にすることなく、会話をすることが出来るだろうと思ったということもあります。

手話の出来るお医者さんになりたいからと参加していた医者の卵さんや、子供達みんなと会話をしたいからと参加していた保母さんなど、いろんな人が集まっているクラスでした。

手話の先生は、「Deaf」の方でした。
※聴覚障害者の方を、「Deaf」と呼ぶことに抵抗を感じる方がいらっしゃるかも知れませんが、Deafであることは、不便ではあるけれど、悪いことでも恥ずかしいことでもない為、”Are you deaf?”とか”He is deaf”というふうに、そのまま使用します。
コースの最初で、「Deaf」というサインを習い、「Deaf」であるか、「Hearing」であるかをお互いに尋ねる練習もありました。

大学で聴覚障害のある生徒さんたちの為に、手話通訳をされているという先生の奥さんも、手伝いに来られていましたが、基本的には、授業中は声を発することなく、手話でのみ会話をするという決まりになっていました。

まず習ったのは、手話という言語(ニュージーランドの手話の特徴を含む)についてと、「Deaf」の人たちの間での習慣の違いです。
これらについては、説明が書かれた用紙が配られたのですが、新しい言語を学ぶ際には、その言語や言語の背景、習慣などを知ることが大切なのだと、実感させられました。

いくつかの例を挙げてみると:
*手話で表現出来る内容は限られていると思うのは誤りであること。
*ニュージーランドの手話は、英語という言語を伝達したり、訳したりするものではなく、それ自体が独自の言語であること。
ニュージーランドの手話は、他の国で使われている手話と同じではないこと。(アメリカの手話よりは、イギリスやオーストラリアの手話に類似している。)

「Deaf」の人たちを含む会話の中では許されるマナー
*人を指差すこと
*足を踏み鳴らすこと(注意を向けさせる為)
*相手の顔の前で手を振ること(注意を向けさせる為)
*部屋の電気をつけたり消したりしてフラッシュさせること(注意を向けさせる為)

実際、背を向けている先生にこちらを向いてもらいたい時は、足を踏み鳴らしたり、会話練習の中で、クラスメートの注意を自分に向けさせる時は、顔の前で手を振ったりする必要がありました。

こういった言語の背景にあることを学ぶことは、見過ごしがちですが、意外に大切だと思います。(次号の名前についての解説は、見過ごしてしまいがちな英語圏でのマナーに繋がります。)

ある時、習っていない単語を、身振り手振りで他のクラスメート達に伝えるという課題がありました。(指文字で綴るのは×)
順番に1人ずつ教室の前に立って、一生懸命、自分の選んだ単語を伝えようとします。
私の順番が来た時に、テーマが食べ物だったので、私はにぎり寿司の手つきをして、「Sushi」という単語を伝えようとしました。
でも、反応はゼロ。ご飯を握って、ネタを乗せて…と、いろいろ頑張ってみたのですが、どうしても駄目。
最後にギブアップして、ボードに答えを書きました。
その後、みんなからのブーイング。
ニュージーランドでは、寿司は巻き寿司なんですよね。寿司を巻く手つきをするべきだったと指摘されたのですが、「寿司」を身振り手振りで表す時に、私の頭の中に浮かんだのは、握りの手つきだけでした。

そういった、単語からお互いが連想するイメージが共通していることも、会話の中では重要だと思います。
同じ英単語から、お互いがイメージする内容が違っていたりすると、たとえその単語を知っていても、上手に発音できたとしても、意志が上手く伝わらないこともあると思います。

それから、手話には、表情で表す文法があります。
疑問文を伝える時ですが、感情表現に関わらず、Yes/Noで答えることの出来る疑問文を伝える時は、眉を上げ(目を大きく開き)、少し前かがみになって、文末の手話の形をしばらく止めておきます。
5W1Hから始まる疑問文を伝える時は、眉を下げ(しかめっ面をし)、少し前かがみになって、文末の手話の形をしばらく止めておきます。(英語の文章とは構文が異なる為、最後に5W1Hの単語がきます。)
手の動きだけに目を奪われていると、表情にある疑問文のサインを見逃してしまうことになります。

会話の際に、表情も意思を伝達する役割の一部を担っていることを忘れてしまいがちですが、英語での電話が苦手な人が多いことからも、分かると思います。
表情は、多くを語ってくれますし、不十分な英語を補ってくれます。(時には誤解を招くこともありますが。)

付加疑問文やWould you mind?と聞かれた時に、Yes/Noを逆に答えてしまう方がいらっしゃいますが、日本人と会話をしたことがある英語圏の人たちに聞くと、たとえ逆の答えを口にしていても、表情で、YesかNoかは判断するようにしていると言っていました。

手話の中では、位置関係も大切です。
Aさんを左に、Bさんを右に位置付けて話を始めたら、その位置は絶対に変えません。
Aさんの話をする時は、左側で手話をし、Bさんの話をする時には右側で手話をします。
時間を表す場合は、自分の前後位置を利用して、現在過去未来を表現したりします。

こういった位置関係をはっきりさせる手法は、英会話でも使えると思います。
お互いが理解している手話では無いにしても、英語で会話をする時に、身振り手振りを加えることで、より相手に理解してもらえるのではないかと思います。

声に出さなくても、言葉を音として発しなくても、表情と身振り手振りで、相手に自分の意思を伝えることは可能なのです。
手話を体験すれば、分かっていただけると思います。
一定のルールを決めて、そのルールをお互いに知っておくことは必要ですが、身振り手振りで意思の疎通は図れます

自分の英語に自信が無い方が、英語の不十分な部分を、表情や身振り手振りで補うことは可能だと思います。
(英語圏特有の身振り手振りの持つ意味について、事前に知っておく必要はあります。)

ところで、手話も生きています。
最近は、そういう「手話」はしなくなったのよという説明があったり、ご夫婦で意見が分かれることもありました。
地名など、ニュージーランド独自の固有名詞には、略サインが用いられていたり、ニュージーランド国内でも、地域によって、いちいち指文字で綴って名前を伝える必要が無いように、その地域で頻繁に使われる単語については、地域独自の略サインが決められていました。
名前を呼ぶときも、その都度名前を綴るのは大変なので、その人の特徴を表すニックネームのようなものを使用します。
その地域特有のサインは、英語の方言にも共通すると思います。

最後に、手話について、一番印象に残っていることをお伝えして終わりにしたいと思います。

それは、コースが終わった頃にちょうど開かれたクリスマスパーティの時のことです。
そのエリア全体の手話教室の生徒さんや、Deaf Societyの人たち、手話の先生を目指す人たちなど、たくさんの人達が集まりました。
前半は、参加者全員が小さなグループに分かれて、見習い先生たちの手話による説明を受けながら、ゲームを行うというものでした。
先生として教える資格を得る前に、必須とされている教育実習のようなものだそうです。
先生も違えば、ゲームに一緒に参加している人たちも知らない人ばかりという状況で自分の手話を試すことは、緊張はしたものの、新たな表現を学ぶことが出来たりと、とても有意義なものになりました。

が、私が今でも忘れられないのは、その後のことです。
後半は、持ち寄りによる(私は巻き寿司持参)立食パーティだったのですが、食べ物や飲み物を持って歩き回りながら、いろんな人たちと会話をする時に、物を持ったまま手話が出来ないことに、はたと気づきました
今までは、教室の中だけだったので、いつも両手が使える状態だったんです。
コップを片手に持ったままで、自己紹介をしようともしてみましたが、両手に何も持っていない状態でなければ、上手く伝えることが出来ませんでした。
会話をする度に、お皿やカップを置く場所を探しながら、実際に使ってみなければ分からないことがあると、つくづく思いました。

英語もそうだと思います。実際に、自分で使ってみなければ気づけないこともあると思います。
日本国内でも、海外へ行った時にでも結構ですので、機会を作って、間違っても、失敗しても良いので、是非、英語を実際に使ってみて下さい。

今回の技は:

「表情、身振り手振りなど、音以外の会話も大切にしましょう!」



※この記事は、2003年に発行していた「下手英メールマガジン」で紹介していた「下手な英語を使うための技」に加筆修正を加えて、現在無料再掲載中のものです。令和版は、近日有料公開予定!

下手英メールマガジン発行から20年後、「2023年の後書き」:
手話を学んだのは、ずいぶんと昔のことですが、その後、カスタマーサービスの仕事をする機会があった時に、Deafのお客様が来られて、実際の場面で、少しだけ、手話を使うことが出来ました。

人工内耳の発達で、聴覚障害を持つ方の中には、人工内耳を装着するという方も徐々に増えていると聞きますし、公共の場では、手話よりも、口の動きを読む読唇術を使うことにしている方もいらっしゃると聞きます。(ふだん、読唇術で会話をされている方は、コロナ対策のマスク着用によって、読唇術が使えなくて困ったそうですが…。)
でも、まだまだ、会話をする時には、手話の方が便利だという方もたくさんいらっしゃるようです。

ニュージーランドの公用語は三つあって、英語、マオリ語、ニュージーランド手話と、手話も公用語に含まれています。当然といえば、当然ですが。
ニュージーランド手話に興味がある方、オンラインで無料で学ぶことが出来るコース等もあるので、機会があれば、チャレンジしてみて下さい。


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