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『映画えんとつ町のプペル(2020)』


えんとつ町のプペルは、友達がいないエントツ掃除のルビッチと、ゴミから生まれたゴミ人間のプペルが、町の誰もが信じてくれない煙の向こうにある"星"を見つけるために、信じてくれる仲間たちと突き進む物語です。

作品の評価とは別に、あの”西野亮廣”さんの作品であることが時として作品以上に話題になったことでも知られています。

(『あの西野さん』というのは、キングコングという芸人の枠を超えて、絵本作家、そしてオンラインサロン、クラウドファンディングで、沢山のファンを集める事に成功している、また『集金システムの開発がうまい』と揶揄もされる毀誉褒貶の激しい人物のことを差します。)

そんな西野さんがSTUDIO 4℃と手を組んで、原作、脚本、製作総指揮までがっつり関わって作った映画『えんとつ町のプペル』。
作品だけレビューするのも、西野さん作品としてレビューするのもどこか大事な部分が足りない気がするので、それぞれの視点で観る事にしてみました。

あ、この文章は基本的に『ネタバレ』で書いております。

●作品としての『えんとつ町のプペル』


作品として『えんとつ町のプペル』を観た時に、意外にも『よく出来てるなー』と思いました。(事前情報を聞いてた感じではもっとずっとダメな作品かと思ってましたw)

まず主演の芦田愛菜さんと窪田正孝さんの演技が素晴らしかった。
芦田愛菜さんは天才子役と絶賛され続けてきた女優さんですが、それが子供時代の煌めきではなく現在も十分に希代の女優であることを伺える演技だったと思います。他にもオリラジの藤森慎吾さんや落語家の立川志の輔さんなど、俳優さん以外のキャスティングなどもキャラクターにハマってて、それだけで観てて気持ちよかったです。

また演出に関しても良かったです。
私は同じSTUDIO 4℃の作品『鉄コン筋クリート』が大好きなんですが、それを彷彿とさせる世界観はとても良かったし、(特に日本での)チープな3Dアニメの印象もここまで表現できることは純粋にすごいなーと思いました。
また『絵本』として演出されていることも頭良いなーと。
所々で舞台演出やゲーム画面、アトラクション映画のように撮られている部分も『絵本のように子供に楽しんで貰えるように』という趣旨であると考えれば納得がいきます。

『絵本であることを意識させる演出』にはもっと違う部分で頭良いな~と思う狙いがあったと思うのですが、それはまた後程w。


そして肝心の物語なんですが、これも意外にも『良いな~』と思ったんですよね。意外にも、ではあるんですがw。

えんとつの煙で閉ざされた町。父が信じていた星を信じる少年。
初めて出来た友達は、ゴミ捨て場で生まれたゴミ人間プペル。
星を信じない町の人々。異端を許さない異端審問官。
えんとつ町の秘密。時間と共に腐る貨幣『L』。

なんか物語の要素を抜き出しただけで面白そうな感じしません?
藤森さん演じるスコップが使う重要なアイテムとなる無煙火薬も、煙を打ち払うえんとつ町との対比として面白いなと思いました。
あと、個人的に劇中で出てくるトンボ玉の演出も的確で一人テンション上がってたりしました。まぁこれは蛇足ですけどもw。

ただここら辺はもろ手を挙げて『良く出来てる~!』って感じではなくて、色々と穴も多いんですね。

まず『星』について。
なんで町の人はあんなに頑なに否定するんだろうと疑問でした。そもそも星という概念も理解してる感じも不思議。
『煙の向こうに星があるんだ』というルビッチやブルーノの話は、正直どうでもよくない?あっても別に困る事ないじゃん(異端審問官が困るのは分かる)。なのになんでそんなに頭っから否定するんだろう。それを信じたら何かが壊れてしまうんだろうか。
話の根幹なだけに、そこに『物語上必要だから』以上の理由を見つけられなかったのは結構疑問でしたね。

他にも、『そもそもプペルの心臓はどこから?なんで途中で父親になったの?』とか『船が現れてルビッチたちがセッティングしている間、異端審問官はただ黙って見てたの?』とか、考えれば色々疑問は浮かんできます。

ただそれも『絵本だから』という演出で上手い事言い訳出来てるなーと。
絵本としてのアニメーションだからすべてを説明する必要はないし、感情が繋がってさえすれば、あとはそれぞれの想像で補完してください的な説明は、前述の絵本的(ゲーム的、アトラクション的)演出によって不思議と説得力があるんですね。実際、登場人物の感情の繋がりは途切れてなかったのでそこまでブツ切り感もなかったし。

そういう意味で、穴が無い事も無かったけどそれは他の作品でも珍しくはないし、強み(世界観設定の良さやキャスティング、演出などの的確さ)を生かした作りは成功していたように思いました。それが西野ファンで無くても『感動した!』という人が少なからずいた理由なのかなーと。

私も楽しめましたし、よく出来てると思いました。
これが西野さん作品ではなくても(なかったとしたら)、普通に良い作品だと思いました。


●西野亮廣さんプロデュースとしての『えんとつ町のプペル』


ただ、この作品はそれだけで語れない部分があるんです。言わずもがな『西野さんプロデュース』としての部分です。
なんでこれが大事かというと、この作品は作品としての出来以外に、『西野さんの考え方を知るための道具』としての役割が与えられているからです。

例えば作中で出てくる星。
多くの人はここに『夢』や『信念』を当てはめて観るのではないでしょうか。
他のみんなが信じてくれなくたって、自分と、自分を信じてくれる仲間が一致団結して力を合わせれば『星』を見る事は出来る。想いは強く持ち続けることで叶う事が出来るんだ。
そんな風な物語として見る事が出来ます。
一方で、(主に西野さんアンチは)この物語にオンラインサロンを重ねる事が出来るんです。

誰もがバカにする夢を、西野さんは『持ち続けていいんだ』と言ってくれる。この人についていけば、また集まる人たちと手を取り合えば、一人で出来なかったこともきっと出来るはず』

こんな感じで読み取れません?私はがっつりそう感じましたw。
それが正しいかどうかはともかくとして、『プペル』は最初からそういう役割を持って生まれてきたようにも思えます。
完全分業制にするためにクラウドソーシングして作業を分担、その費用はクラウドファウンディングで賄うという、絵本としては異例の制作体制で作られました。映画に際しても『プペル』は、オンラインサロンのメンバーにチケットを割安で売って転売する(儲ける)ことを許可するなど、『プペル』という作品を中継点にして西野さんのファンを増やす企画が多数進行して話題となってました。

それは『えんとつ町のプペル』という劇場映画以上の役割を担わせるもので、そういう意味では新海作品やディズニー映画とも明確に方向性が違いました。
もちろん『えんとつ町のプペル』に魅力や訴求力があるからこそ可能な事でもあるので、内容が全く関係ないことでもありますし、その内容も上記で示したように『西野さんの考え』を知るには最適な"教材"だったりするわけです。

で、そういう騒動を観てると、映画を楽しみたい人はげんなりしちゃうわけです。『金儲けかよ』と。

作品の『よく出来た部分』と、西野さんプロデュースの『(悪い意味で)よく出来たところ』が相まって、この作品の評価がより難しくなっているのかなーと思いました。

端的に言えば『クオリティとしては酷評するほどではないが、褒めたくもない』という部分がすごい邪魔している感じw。


●総評『残念よりな普通』

というわけで、作品視点と作者視点の二つから『えんとつ町のプペル』を見てみました。
どちらから見ても『えんとつ町のプペル』という作品はよく出来ていると思います。作品としても『絵本』という言い訳は上手に使っていたし、作者としても自分の考え方を広めたりファンを広げるために作品をてこにして効果的に使っていたなーと。

ではそれらを合わせて本作を評価するとどうなるかというと『残念よりな普通』になるのかなーと思いました。

作りとしてよく出来てるし、作者の信念を作品に込める事は何ら批判されることではない。そういう意味では(伝わり方も含めて)すごい良い作りとも言えます。だけど一方で、よく出来ていることや、信念を込めることが必ずしも成功しない場合もあると思うんですね。それが今回にじみ出て来てるのかなーと。

夢を見る事は必要だし、なんら悪い事でもない。固定観念でガチガチの人の中で打破するために努力することの大切さは多くの作品で言及されています。
だけどそこに『その答えは僕です。僕について来てください』というメッセージが見え隠れすると一気に覚めるんです。そしてこの作品は確実に西野さんがチラッチラするんです。

もしそれ(=西野さん)が居なかったとしたら普通に面白い作品だと思いますが、けれどこの作品は西野さんが居てこその作品です。作品としてもエンタメとしても切り離せないし、もしいなければこれほどの興行収入(27億円の大ヒット)は得られなかったでしょう。
チラついたらダメだけど、いなかったら成り立たない。まるでブレーキとアクセルを同時に踏むようなジレンマ。それがこの『えんとつ町のプペル』という作品なのかなーと思いました。

総評としては、面白さとしては評価出来るものの、西野さんという存在がマイナスとなり、物語がどこか白けてしまう。でもそれは仕方ない要素でもある。

結果、残念な普通。ファンなら3倍増しで楽しめる。

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