【第5回】麻疹(はしか)
執筆:伊藤 舞美
はしもと小児科看護師長
日本旅行医学会認定看護師/保育士養成学校講師
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海外でいまだ流行する「麻疹(はしか)」。いったいどんな病気なの?
麻疹は、「ましん」または「はしか」とも呼ばれ、麻疹ウイルスの感染によって起こる急性感染症です。「はしかは、昔の病気で、今はかかることがないから」と思われている方も多いと思います。たしかにその通りで、今の日本で、はしかの子どもに遭遇することは、ほとんどありません。ですが、世界に目を向けると、途上国ではいまだ流行がみられる感染症です。そして、世界の国のどこかで流行があれば、いつ日本にウイルスが入ってくるかわかりません。日本では、はしかの予防接種がすすみ、はしかの免疫を持っている人が多いため、ウイルスが入ってきても流行にならずにおさまっているだけなのです。
「はしか」の感染力はとても強い!
はしかは、空気感染、飛沫感染、接触感染する感染力の強い感染症です。はしかにかかっている人と接触しなくとも、同じ空間に短時間一緒にいただけで感染します。感染の強さを示す基本再生産数(1人がまわりの何人に感染を広げるか)は、インフルエンザや新型コロナウイルスは2~3人ですが、はしかはそれらの10倍で20~30人となっています。そして、免疫を持っていない人が、はしかの人と接すると100%発症します。
「かぜ」が治らないと思っていたら「はしか」だった!
はしかの潜伏期は10~12日です。つまり、ウイルスの感染を受けてから、約10日後に発症します。はじめは、38℃程度の発熱と、咳、鼻水、結膜炎の症状だけなので、通常の「かぜ」と思いがちです。そして、いったん37℃台に解熱したあとに、今度は首の周りから発疹が出て全身に広がり、熱も40℃台の高熱が4~5日続き、咳や鼻水の症状も重くなります。
はしかに特徴的な症状として、コプリック斑があります。コプリック斑は、口の中の粘膜にできる小さい多数の口内炎です。そして、コプリック斑は、発疹が出る前日より出現して、数日で消えてしまいます。つまり、一番感染力の強い「かぜ」症状だけの時期には、このコプリック斑がないため、はしかと知らずに感染を広げてしまう原因にもなります。コプリック斑を見逃さず、はしかを早期発見するために、昭和の小児科医は、口腔粘膜の観察をていねいに行ったものです。
表 はしかの症状
※1 コプリック斑:まわりが赤く、中心が白い口の中にできる小さい多数の口内炎
※2 クループ:のどの声を出す部分の炎症で苦しい咳が出る
「はしか」を予防するにはやっぱり予防接種
はしかには治療薬がありません。咳や鼻水などの症状に合わせた治療しかできず、自然に治るのを待つことになります。ただし、はしかには、肺炎、中耳炎、クループ(のどの声を出す部分の炎症で苦しい咳が出る)、脳炎などのこわい合併症があるため、注意が必要です。つまり、はしかを予防するには予防接種しかないのです。
はしかの予防接種は、「麻しん風しん混合ワクチン」です。接種スケジュールは、1歳と就学前の、合計2回接種となります。
表 麻しん風しん混合ワクチンの接種スケジュール
「はしか」は社会全体で対応する感染症
はしかは、感染症法でただちに保健所に届け出なければならない重要な感染症です。ただちに届け出が必要な感染症には、最近では、指定感染症となった新型コロナウイルス感染症があります。はしかも新型コロナウイルス感染症と同様に(またはそれ以上に)、社会全体で迅速に対応しなければならない感染症であることに間違いはありません。
その昔、江戸時代には、はしかは「命さだめ」と呼ばれ、はしかで生き残った生命力のある子どもしか生きられない病気として考えられていました。現在は、医療環境が整い、はしかで命を落とす子どもはずいぶんと少なくなりました。そして、予防接種という最大の予防策も持っています。今はあまり見ない病気だからと安心せずに、予防接種で確実にはしかを予防しましょう。
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【著者プロフィール】
・東京都立駒込病院消化器外科病棟
・東京都立八王子小児病院(現・東京都立小児総合医療センター)NICU主任
・1999年より、医療法人まなと会はしもと小児科にオープニングスタッフとして勤務
・へるす出版の月刊誌『小児看護』にて、連載「外来で役立つ小児看護技術」を2014年より約3年半にわたり執筆
・所属学会:日本外来小児科学会/日本ワクチン学会/日本旅行医学会/日本在宅医学会
伊藤 舞美さん近著:クリニックナースがナビゲート 子ども外来ケア (へるす出版)
へるす出版月刊誌『小児看護』
☆2020年10月号:子どものEnd of Lifeと「こどもホスピス」
☆2020年9月号:病気や障害をともなう子どものきょうだい支援
☆2020年8月号:NICUに入院となった子どもの親のこころのケア
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