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【第9回】日本脳炎

執筆:伊藤 舞美
   はしもと小児科看護師長
   日本旅行医学会認定看護師/保育士養成学校講師

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日本脳炎って、いったいどんな病気なの?

 日本脳炎は、わが国の名前が付いているように、日本を含むアジア地域で流行のみられる感染症です。今から60年前の1960年代には、年間1,000人を超える患者数が確認されています。その後、日本脳炎ワクチンの普及とともに患者数は減少していますが、現在でも年間10人程度の報告数があるため、注意しなければならない感染症です。
 日本脳炎は、ヒトからヒトには感染せずに、日本脳炎ウイルスをもった「蚊」に刺されることによって感染する病気です。蚊に刺されて感染する病気を「蚊媒介感染症(かばいかいかんせんしょう)」といいます。蚊媒介感染症には、日本脳炎のほかにもいくつかあります。今回は、蚊媒介感染症の話も含めて解説します。

日本脳炎の症状

 日本脳炎は、日本脳炎ウイルスに感染した100~1,000人に1人が脳炎症状を発症します。発症すると、高熱、頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんなどの症状が出ます。脳症を発症すると、致死率が高い病気です。特に、幼少児や高齢者では死亡のリスクが高く、注意しなければなりません。また日本脳炎は、発症すると治療法がなく、症状に合わせた対応しかできません。日本を含めて、流行国に住んでいる私たちは、予防接種をして感染を予防する必要があります。

日本脳炎の感染経路

 日本脳炎の原因ウイルスは、日本脳炎ウイルスであり、ヒトに病気が感染するときに重要な役割を果たしているのが、ブタと蚊です。まず、ブタが日本脳炎ウイルスに感染すると、ブタの血液のなかでウイルスが多量に増えます。しかし、感染したブタは日本脳炎を発症せずに、元気でいます。そのブタの血液を蚊が吸血して、ウイルスを保有します。そのウイルスを保有した蚊がヒトを刺し、刺されたヒトが日本脳炎に感染するのです。ただし、ウイルスに感染したヒトが日本脳炎の症状である脳症を発症するのは、100~1,000人に1人です。
 日本脳炎ウイルスを媒介する蚊は、コガタアカイエカ(写真1)です。コガタアカイエカは、「小型赤家蚊」と表記できるでしょうか。日中は家の中(押し入れなど)でじっとしていて、夕方から夜になって活動し始めて、ヒトを吸血します。国内でよく見かける家蚊(イエカ)の一種です。
 日本脳炎のウイルスを保有しているのは主にブタですが、最近では野生のイノシシやウシ、その他脊椎動物もウイルスを保有することがわかっています。

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蚊媒介感染症

 蚊に刺されることによって感染する病気は日本脳炎だけではありません。日本脳炎以外にも、マラリア、ジカウイルス感染症、デング熱などがあります。これらは、海外の熱帯地方の病気と思われがちですが、ジカウイルス感染症やデング熱は、過去に日本でも流行がありました。この2つの感染症は、ネッタイシマカとヒトスジシマカを媒介として感染します。ネッタイシマカは国内では生息していないため、ヒトスジシマカを介して感染します。ヒトスジシマカは特別な蚊ではなく、いわゆるヤブ蚊として知られている黒くて白い縞模様がある蚊です(写真2)。そして、ヤブ蚊が多く発生する大きな公園などでの感染が報告されています。

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 蚊を増やさない、蚊に刺されない工夫を

 蚊媒介感染症は、ヒトからヒトには感染しません。コガタアカイエカやヒトスジシマカなどの日常的に見る蚊から感染するならば、徹底的に蚊を駆除してしまおう、と考えてしまいがちです。ですが、これらヒトにとっては衛生害虫といえる蚊であっても、動物世界の食物連鎖の重要な一員です。決して、絶滅してよい昆虫ではないと考えます。そこで、わたしたちにできることは、①蚊を増やさないこと、②蚊に刺されない工夫をすること、です。それぞれの予防策について概説します。
① 蚊を増やさないこと
 蚊は、少しの水たまりにでも産卵して、繁殖します。子どもが生活する場所での蚊の繁殖を減らすには、水たまりをなくすことです。水たまりの場所は、植木鉢やじょうろ、古いタイヤの中、バケツの中、発泡スチロールの中などです。雨が降った後は特に注意が必要ですが、古く濁った水たまりにでも蚊は産卵するため、日常的に水たまりをなくす工夫が必要です。

② 蚊に刺されない工夫
 蚊に刺されやすい時期や場所での活動の際には、皮膚が露出しない工夫をしましょう。例えば、長袖シャツや長ズボンの着用、裸足でサンダルを履かない、などです。また、虫よけスプレーなどの忌避剤(きひざい)の使用も有効です。イカリジン(ピカリジン)配合の忌避剤は、年齢制限がなく、子どもでも安心して使用できます。

予防接種で予防しよう

 ジカウイルス感染症とデング熱に関しては、現在、国内で利用可能なワクチンはありません。しかし、日本脳炎には有効なワクチンがあります。日本脳炎は不活化ワクチンです。不活化ワクチンは、感染防御に有効な抗体価を得るためには、規定の回数の接種が必要です。日本脳炎のワクチンスケジュールをに示します。日本脳炎に限らず、ワクチンで予防できる病気は、確実にワクチンを接種しましょう。

表 日本脳炎ワクチンの接種スケジュール

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【著者プロフィール】
・東京都立駒込病院消化器外科病棟
・東京都立八王子小児病院(現・東京都立小児総合医療センター)NICU主任
・1999年より、医療法人まなと会はしもと小児科にオープニングスタッフとして勤務
・へるす出版の月刊誌『小児看護』にて、連載「外来で役立つ小児看護技術」を2014年より約3年半にわたり執筆
・所属学会:日本外来小児科学会/日本ワクチン学会/日本旅行医学会/日本在宅医学会


伊藤 舞美さん近著:クリニックナースがナビゲート 子ども外来ケア

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