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【第7回】ポリオ

執筆:伊藤 舞美
   はしもと小児科看護師長
   日本旅行医学会認定看護師/保育士養成学校講師
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ポリオって、いったいどんな病気なの?

 ポリオ、めったに耳にしない病気です。ポリオは、「小児まひ」ともいわれ、感染して発症すると、子どもの手足に一生治らない麻痺(まひ)を残す、重要な感染症です。日本では、1960年ころまではポリオの大流行がありましたが、予防接種の導入で、1980年からは国内での発生はありません。しかし、現在、アジア、アフリカの一部の地域に流行がみられるため、知っておかなければならない感染症です。

ポリオの感染経路

 ポリオに感染したヒトの便の中には、多くのポリオウイルスが含まれています。その便中に排泄されたポリオウイルスが、ほかのヒトの口に入り、のどに付いて増えます。のどで増えたウイルスは、さらに腸の中で増えていきます。そして、腸の中で増えたウイルスは、血液の中に入り込んだり、神経の中に入り込んだりして、麻痺などの症状を起こします。
 ポリオウイルスに感染して5日程度経過すると、最初は、発熱、咽頭痛、頭痛などのいわゆる「かぜ」のような症状になります。そして、発熱、嘔気、手足や背中の痛みがあった後に、手足の麻痺が起こります。ただし、感染しても「かぜ」症状だけで治ってしまうヒトは20人に1人、手足の麻痺が起こるのは100~1,000人に1人です。つまり、感染しても100人中約80人は、「無症状」ということになります。

 不顕性感染(ふけんせいかんせん)を覚えよう!

 一般的には「感染」と「発症」は同じ意味として使われることが多いのですが、医学的には別の意味を示します。「感染」とは、ウイルスが体の中に入り込んで、たくさん増えた状態であり、「発症」とは発熱などの症状が出ることです。また、ウイルスに感染しても発症せず(症状が出ず)、無症状の状態を不顕性感染といいます。ポリオでは、100人感染しても80人は無症状であり、この80人が不顕性感染の状態にあります。この不顕性感染の状態にある人は、ほとんど何の変化も起こっていないため、はた目からは「今この人が感染しているかどうか」は判断できません。あとになって、その感染症の抗体検査をしたときに、初めて感染したことがわります。
 「100人が感染しても、80人は無症状または軽症」は、最近よく耳にすることです。それは、今現在起こっている「新型コロナウイルス感染症」にもあてはまります。この「8割が不顕性感染」の状態は、ウイルス感染ではよくみられることです。

過去には国内でポリオの大流行があった!

 今から60年以上前の1960年代には、国内でポリオの感染者が5,000人以上となる大流行がありました。それを受けて、旧ソ連やカナダから飲むタイプのポリオワクチンである「経口生ポリオワクチン」を緊急輸入して、13歳未満の子どもを対象に接種しました。その後、1964年には国産の経口生ポリオワクチンが登場して、定期接種となります。ワクチン接種が進んだことで、1980年の患者を最後に、国内でのポリオ感染がなくなりました。

ポリオワクチンは飲むワクチンから注射のワクチンへ

 国内でポリオが流行していたころは、より強力な免疫を付けるために、生ワクチンである経口生ポリオワクチンを使用していました。ですが、本当にきわめてまれでしたが、この生ワクチンが原因で麻痺を起こす人がいました。そこで、「生ワクチン」よりは強くはないけれども、副反応が少ない「不活化ワクチン」に切り替えて新しいワクチンを導入しました。それが、注射のポリオワクチンである、「不活化ポリオワクチン」です。これは、2012年のことです。そして、2012年11月には、今までの3種混合ワクチン(百日せき・ジフテリア・破傷風)に不活化ポリオワクチンを追加した4種混合ワクチンが登場しました。4種混合ワクチンは、定期接種の仲間入りをして現在に至ります。4種混合ワクチンの接種スケジュールは以下の表のとおりです。

表 4種混合ワクチンの接種スケジュール

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※1期は、生後3~90カ月未満が定期接種となる。

不活化ポリオワクチンの追加接種

 60年前に導入した飲むワクチンである経口生ポリオワクチンに比べると、今の4種混合ワクチンに含まれる不活化ポリオワクチンは、免疫の持続に関しては弱くなります。赤ちゃんのときに接種しただけでは、ポリオの免疫が持続しない心配があるため、5歳くらいに不活化ポリオワクチン(単独)を接種することが勧められています。ただし、この接種は定期接種ではなく、任意接種(自費接種)となるため、かかりつけの医師と相談してください。自治体によっては、無料で接種を行っています。
 ポリオはいまだ根絶せず、海外では流行している地域があります。まずは、定期接種である4種混合ワクチンをしっかり接種して、ポリオの免疫を付けることが重要でしょう。

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【著者プロフィール】
・東京都立駒込病院消化器外科病棟
・東京都立八王子小児病院(現・東京都立小児総合医療センター)NICU主任
・1999年より、医療法人まなと会はしもと小児科にオープニングスタッフとして勤務
・へるす出版の月刊誌『小児看護』にて、連載「外来で役立つ小児看護技術」を2014年より約3年半にわたり執筆
・所属学会:日本外来小児科学会/日本ワクチン学会/日本旅行医学会/日本在宅医学会

伊藤 舞美さん近著:クリニックナースがナビゲート 子ども外来ケア

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へるす出版月刊誌『小児看護』

☆2020年11月号 特集:子どものがん薬物療法における曝露対策
https://www.herusu-shuppan.co.jp/sn202011/

☆2020年10月号 特集:子どものEnd of Lifeと「こどもホスピス」
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☆2020年9月号 特集:病気や障害をともなう子どものきょうだい支援
https://www.herusu-shuppan.co.jp/sn202009/

★2020年7月臨時増刊号 特集:基礎疾患のある小児のフィジカルアセスメント
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