見出し画像

【第8回】百日咳

執筆:伊藤 舞美
   はしもと小児科看護師長
   日本旅行医学会認定看護師/保育士養成学校講師
--------------------------------------------------------------------------------------

百日咳って、いったいどんな病気なの?

 百日咳、ときどき耳にする病気ですが、本当に100日間も咳(せき)が続くのか、疑問に思ってしまうでしょう。百日咳は、強く激しい咳発作がある急性期の時期が、数週間から1~2カ月間続きます。そして、急性期の時期を過ぎても、100日間はせきが残るため、百日咳といわれます。つまり、本当に100日間、せきが続く病気なのです。
 また、子どもや大人が百日咳にかかると、強く激しい咳発作を起こしますが、6カ月未満の赤ちゃんが百日咳にかかると、逆に無呼吸(呼吸をしなくなる)の状態になり、命にかかわることがあるため注意が必要です。

百日咳の症状

 百日咳は、百日咳菌を含む飛まつを浴びることによってうつる急性の気道感染症です。約7~10日間の潜伏期を経て、かぜ症状で発症します。最初は、せきや鼻水などのかぜ症状ですが、徐々にせきがひどくなります。せきがひどくなると、けいれん性のせきとなります。けいれん性のせきとは、短いせきが連続的に続き(スタッカート)、その後息を吸うときに「ヒュー」という特徴的な音が出ます。この特徴的な音を、英語ではwhoop(ウープ)と表現します。そして、スタッカートとウープが繰り返すことをドイツ語でReprise(レプリーゼ)と呼んでいます。レプリーゼを言葉で表現するのは難しいですが、「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ヒュー」という感じでしょうか。夜間帯に症状が悪化することが多く、連続したレプリーゼがあり、少し落ち着いたかと思えば、またレプリーゼを繰り返すといった状態になります。そして、強く激しい咳発作のため、顔がむくんだり、顔に点状出血が出たり、目が真っ赤になったり、鼻出血があったりします。この咳発作を起こさないためにも、なんとか予防したい病気の一つです。

赤ちゃんが百日咳になると大変です!

 生後6カ月未満の赤ちゃんが百日咳にかかると、レプリーゼのような特徴的な症状が出ません。「かぜ」のようなせきをしていたかと思ったら、急にチアノーゼ(くちびるや顔が紫色になる)になり、呼吸困難になることがあります。また、激しい咳こみが続くことによって、脳症を合併して無呼吸になり、命にかかわることもあります。特に、4種混合ワクチンを接種する前の赤ちゃんが百日咳にかかると、百日咳に対する免疫がないため、大変危険な状態になります。

4種混合ワクチンは生後3カ月になったらすぐに接種を!

 赤ちゃんは生まれてくる前に、お母さんから病気に対する免疫を数多くもらって生まれてきます。そのため、生まれてすぐはお母さんと同じくらいの免疫力をもっているため、病気にかかりにくい状態で過ごすことができます。これを母子免疫といいます。ただし、この母子免疫の恩恵も長くは続かず、生後6カ月くらいにはなくなってしまいます。その後、赤ちゃんは自分のちからで免疫を付けなければなりません。病気にかかれば免疫は付きますが、赤ちゃんが病気にかかることはリスクを伴います。そこで、病気にならずに効率よく免疫を付ける方法が必要であり、それが「予防接種」です。百日咳に関しては、残念ながら母子免疫はあまり期待できない病気です。生後3カ月になったならば、すぐに4種混合ワクチンを接種して百日咳を予防しましょう。

表 4種混合ワクチンの接種スケジュール

画像1

※4種混合ワクチン(百日せき・ジフテリア・破傷風・不活化ポリオ)

3種混合ワクチンの5回目接種って何?

 ここ数年、年長児やおとなの百日咳の患者が増えてきています。百日咳のワクチン(4種混合ワクチン)は、赤ちゃんのときに3回、1歳のときに1回、合計4回の接種となっていますが、その後の接種はありません。11歳のころにDT(ジフテリア・破傷風トキソイド)ワクチンを接種しますが、そのなかには、百日咳は含まれていません。百日咳の免疫は長く続かないことから、百日咳を含むワクチンの追加接種の必要性がいわれてきました。「それならば4種混合ワクチンをもう一回接種すればよい」と思ってしまいますが、4種混合ワクチンは、ルール上合計4回しか接種できません。そこで、3種混合ワクチン(DPT)を、就学前の年長児に接種することが勧められています。この接種は、任意接種(自費接種)となりますが、百日咳の免疫を維持するためにも、接種を検討してみてください。詳しくは、かかりつけ医とよく相談しましょう。

--------------------------------------------------------------------------------------

【著者プロフィール】
・東京都立駒込病院消化器外科病棟
・東京都立八王子小児病院(現・東京都立小児総合医療センター)NICU主任
・1999年より、医療法人まなと会はしもと小児科にオープニングスタッフとして勤務
・へるす出版の月刊誌『小児看護』にて、連載「外来で役立つ小児看護技術」を2014年より約3年半にわたり執筆
・所属学会:日本外来小児科学会/日本ワクチン学会/日本旅行医学会/日本在宅医学会

伊藤 舞美さん近著:クリニックナースがナビゲート 子ども外来ケア

956-6_子ども外来ケア_H1_h3643CMYK_original

へるす出版月刊誌『小児看護』

☆2021年1月号:その症状は“かぜ”?;まちがいやすい病気イロイロ

☆2020年12月号:日帰り・短期入院で検査・手術を受ける子どもの看護;限られたかかわりのなかでの最大のケア

☆2020年11月号:子どものがん薬物療法における曝露対策

★2020年7月臨時増刊号:基礎疾患のある小児のフィジカルアセスメント

#クリニック #外来看護 #予防接種 #百日咳 #4種混合ワクチン #ホームケア #出版社


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?