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穢土辻斬列伝

明和12年8月中旬、雷門の並木通りも戌五ツともなれば人通りは無い。
手附秀木荏右衛門は提灯を手に家路を急いでいた。

「まったく気に食わぬ」

灯りに寄る羽虫、汗ばむ肌、自身を敬ぬ部下、
あらゆるものが彼を苛立たせる。

そんな折り、前方に提灯の明かりを認める。
流れ者の如き風体の男ではあるが腰に差し物。

(辻斬りの類であれば叩き斬ってくれよう)

物騒な期待をよそに、対向者は軽く会釈をして交差するが
「待てい!」
すれ違いざまに荏右衛門は相手を引きとめ大喝した。

「その装束の文句、俺を愚弄しておるのか!」

殺気をも感じさせる声に些かも動じることなく、男は荏右衛門を宥めにかかる。
「いえいえ、お侍さま、この文句はそういうものでは…」
「黙れ!」
荏右衛門は抜刀し男へ斬りかかった。
男はひらりと初太刀をかわすと腰のものをするりと抜く。
刀ではなかった。
2本の角材を束ねて1本にしたような棍だ。

――数刻後。
荏右衛門の撲殺死体が夜番により発見され、
目撃者である三月屋の番頭与兵は証言した。

「相手様の装束に『どこからでも切れます』って書いてありやして、それにお侍さまが」

【無機物マン番外編「液体ソース人間」おわり】

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