暴れん坊ジェネラル
「御家老様、この度の開墾も上手くいったようで、何よりにございました」
「いや、おぬしら商人と工夫達の働きあってこそだ。儂は何もしておらぬ」
「またまたご謙遜を」
刻は超勤四年、錆斬(さびざん)藩江戸屋敷では家老堀田香取守定時(ほったかとりのかみさだとき)が御用商人矢住屋(やすめや)らを迎え入れて、大規模開墾事業の成功を祝い宴の真っ最中であった。
「百姓たちにもだいぶ苦労をさせてきたが、これで藩の蔵にも余裕ができるであろう」
「はい、お上への上納分を差し引いても、十二分にゆきわたる獲れ高になりましょう」
「いやめでたい! ささ、矢住屋、おぬしも飲め!」
定時が上機嫌で盃を高く掲げたそのときだ!
「悪だくみもそこまでだ」
中庭から何者かの声!
「何奴!」
ターン!
勢いよく襖を開けるとそこには一人の侍の姿!
「ここは錆斬藩の江戸屋敷ぞ、お主何者!」
定時が誰何の声を上げる。
「愚か者!余の顔を見忘れたか!」
侍の一喝に驚きながらも定時がその顔をよくよく見れば、侍の顔は江戸城で謁見した2代将軍徳川黒家の顔に瓜二つであった。
「う、上様!何ゆえこのようなところに! 皆の者、こちらは上様じゃ!控えい!」
たちまち平伏する定時一同。
「堀田香取守、その方、新規開墾の成功にかこつけて、通年どおりの税率で
年貢を徴収し、藩の私腹を肥やさんとしたこと既に明明白白!いさぎよく腹を切れぃ!」
「お、お言葉ながら上様、上がった石高の分もきちんと通年どおりの税率で年貢を納めておりますが…」
「たわけ!」
矢住屋の反論も通じない!
黒家は2代目なので他人の苦労がわからないのだ!
「獲れ高が上がったのであれば税率も上がる。これ自然の摂理であろう!」
「「「えぇ…」」」
もう全員ドン引きだ。
「腹を切らぬというのであれば余自らが天誅を下してくれよう」
黒家が刀の柄に手をかける。
「う、上様! せめてお裁きの場で改めて申し開きを!」
「たわけ!」
定時の言葉は通じない。
黒家は2代目なので他人の気持ちがわからないのだ!
もちろん罵倒のバリエーションも少ない。
黒家が鞘から愛刀を抜く。
御用鍛冶の手になる名剣「ネックカット」だ。
両刃のロングソードなので殺意しかない!
定時は覚悟を決めた!
【続く】
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