リモートワークと地方不動産


 昨今のコロナショックにより、東京都心を中心としてリモートワークが奨励されています。
特に東京都では、リモートワーク(テレワーク)に対し、事業継続緊急対策助成金として、諸条件はあるものの、最大250万円の助成金が支給されます。

 そこで、リモートワークやテレワークって一体何なんだろう?という疑問から、リモートワークが不動産業に今後与える影響をお話していきます。

 1.リモートワークとは
 2.リモートワークが与える今後の影響
  ①東京都の場合
  ②東京以外の地方の場合
 3.最後に

 1.リモートワークとは
 最近テレビでもよく耳にするリモートワークとは、一体どのようなものなのでしょうか。
 もともとの始まりは、アメリカで1970年代に始まったテレワークでした。
テレワークとは、「テレ(tele) = 離れた場所」と「ワーク(work) = 働く」からなる造語です。
 (余談ですが、電話をテレフォン(telephone)、テレビはテレビジョン(television)というように、「テレ」がつく英語には遠隔地を繋ぐという意味合いの造語が多くあります。)

 1970年代のアメリカでは、大気汚染の影響から、オフィスに出社せず家で仕事ができるような体制をとろうという取り組みが生まれました。
その結果、テレワークという言葉が生み出されたのですね。

そして、リモートワークは、これまた「リモート(remote)=遠隔地」と「ワーク(work) = 働く」からなる造語です。

では、この2つはどう違うのでしょうか。
諸々の説や解釈はありますが、基本的に同じ意味合いと考えていただいて問題ありません。
テレワークが日本にやってきたのは、1980年代のバブル期で、満員電車が今よりもっと混雑していた時代だったようです。
あまりの混雑っぷりに、大手企業ではサテライトオフィス(当時の意味合いでは、都心のオフィスとは別に社員の通いやすい立地に建てられたオフィス)が設立されました。
しかし、折り悪くもバブルが崩壊し、サテライトオフィスという文化は忘れ去られてしまいました。
そして、その代わりに当時勢いを増してきたインターネットを利用した「ICT」を導入する働き方が注目され始めました。
「ICT」とは、Information and Communication Technology(情報通信技術)の略で、簡単に言えば、ITにコミュニケーションの頭文字Cをつけたものです。
イメージ通り、ITの力を使ってコミュニケーションを円滑にする技術、というものですね。

そして政府や大企業では、こういった「ICT」を活用し「サテライトオフィス」や自宅など、会社ではない場所で働くことをテレワークと呼ぶようになりました。
その後、ベンチャーブームが日本で巻き起こり始める2000年代に、国や大企業が遠隔地でICT技術を使って「テレワーク」と呼ぶのに対し、「そんな呼称はダサいよ」という思いや大企業などへの反骨心から、ベンチャー企業ではこういった働き方を「リモートワーク」と呼ぶようになりました。

そして、2010年代に入り、皆さんも一度はお聞きになったことがあるかもしれない、「クラウド」という技術が生れました。
この「クラウド」という技術は、どこに居ても会社のPCに入っているような資料(WordやEXCELなど)にアクセスできるような技術を生み出し、様々なITサービスを生み出すきっかけになりました。
その恩恵もあり、LINEやFacebookといった誰かとコミュニケーションを取る手段が2010年頃から爆発的に増え、現在はこういったIT技術を使い、遠隔地でも本社に居るのと遜色ないような働き方を実現できるようになりました。

【1.リモートワークとは、まとめ】
 テレワークやリモートワークの成り立ち話は諸説ありますし、テレワークやリモートワークの厳密な定義については推進している協会などによって違いますので、
・テレワークとリモートワークはだいたい同じ意味合い
・リモートワーク(テレワーク)とは、本社オフィスではなく自宅やカフェ、サテライトオフィスなどの遠隔地で、テレビ会議や会社の資料などを操作して働くこと

と覚えてもらえれば問題ありません。

2.リモートワークが与える今後の影響
 ここからは、リモートワークが今後の日本にどのような影響を与えるかについて考えていきましょう。
 ①東京都の場合
現在急速にリモートワークが進んでいる東京都(特に23区)では、コロナ対策として
「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」
が急遽作られました。
 もともと東京都ではリモートワークを推奨していたこともあって助成金制度があったのですが、今回のコロナウイルスの影響(私の専門ではないため、ここではコロナウイルス自体の説明や被害予想などは割愛させていただきます)により、大企業を中心としてリモートワークや時差出勤が推奨され、その流れから上記の助成金が急遽始まりました。
対象は、
(1) 常時雇用する労働者が2名以上かつ999名以下で、都内に本社または事業所を置く中堅・中小企業等

(2) 東京都の実施する「2020TDM推進プロジェクト」に参加していること

となっており、その他にも
・環境構築図(導入前と導入後の違いやネットワーク環境の構築環境を明示しているもの)
・要件を選定した上で同内容の複数社からの見積もりが必要

など、なかなか素人が手を出しづらい内容となっております。

また、助成金の上限金額は1社250万円ですが、人数や要件によっても異なり、助成金全体の予算額も「1社あたりの助成上限額を250万円とし、100社分を予算計上しています。」と東京都が回答していることからも、かなり狭き門だと予想されます。

ですが、この助成金に関係なく、リモートワークの流れが止まることはないでしょう。
前章でもお話した通り、もともと社会全体がリモートワーク導入の流れになっており、リモートワークのためのサービスは国内外問わず、ここ10年ほどで数えられないほど生まれてきました。
私が講師を勤めている、不動産オーナー経営学院でも、学校所在地が東京、名古屋、大阪と各都市で開校しているため、他校との打ち合わせはほぼインターネット上のサービスである「無料のテレビ会議システム(zoom)」を使って行っております。

東京都自体が推進しており、大企業もコロナショックの影響で、どんどんリモートワークに切り替わっている。
こんな状況が進んでいけば、どのようなことが起きるのでしょうか。
もともと助成金が出ていたので、今回の「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」が終わっても、東京都では既存の助成金制度が引き続き行われていくでしょう。
それどころか、新しい助成金制度が始まっていくかもしれません。
そうすると、今はまだリモートワークを取り入れていない企業も、自社でIT機器(サーバーなど)を所有するコストや社員の出張コストを考えるより、リモートワークの方が年間コストを下げられる可能性が高いため、大企業に追随してリモートワークに踏み出すことになるでしょう。
そのとき、おそらく東京都の不動産事情も大きく変わってくるのではないでしょうか。
 現在も銀座の飲食店では、企業の出社制限や宴会自粛要請のため客足が減っており、今後の政府の対応にもよるかもしれませんが歓送迎会の中止や東京都からのお花見自粛要請などで、毎年取り込めていた客層が取り込めなくなっています。
逆に、都心でも住宅街の近くにある飲食店は、自宅でリモートワークをされていた方が夜食事に来るようになった、という話をこの頃よく耳にします。

そうなれば、今までは入居希望者が殺到していたビルにも影響が出始めることは、火を見るより明らかです。

②東京以外の地方の場合
地方の場合は逆にリモートワークによる恩恵があるかもしれません。
その鍵を握るのがコワーキングオフィスです。
 コワーキングオフィスとは、東京を中心に広がり始めている、インターネット設備と電源を有した、一席から貸し出されるオフィス形態のことです。
席の場所は決まっていない事が多く、好きな席に座れます。
要するに、「好きなところに座って、インターネットとコンセントが使える権利」を契約するのです。
 料金体系などはコワーキングオフィスごとに異なり、一月ごとに契約するものから、一日貸し、時間貸しなど様々なプランがあります。
このコワーキングオフィスの面白いところは、自由な時間に好きな席に座って仕事ができるため、従来のオフィスと違い坪数に入居者数が縛られづらい、という点です。
 今までのオフィスの考え方ですと、オフィスで働く人は同じ時間帯に働くことが多く、一度に部屋に入れる人数は限定されていました。
そのため、坪単価という一坪いくらで貸し出すか、を単位とした値付けの考え方が一般的でしたが、コワーキングオフィスの場合は、同じ時間に契約者全員が働くわけではなく、席も決められていないため、誰かが席を立てば、その空いた席に別の人が座り仕事をし始める、ということが可能になります。
その結果、契約者数が増え続ければ、本来の賃料相場や既存賃料を超えた賃料を得ることが可能になる、ということです。

そして、契約者の観点から考えると、コワーキングオフィスを選ぶポイントは、大きな駅の近くにあったり、繁華街にあることだけが理由になるのではなく、契約者の生活の仕方によって選ぶポイントが変わっていきます。
 例えば、主婦のかたや小さいお子さんを育てられながら働かれる場合は、ご家庭や学校、保育園、幼稚園の側で働かれることを優先するでしょうし、学生の方で自習や起業に利用する場合は、大学や下宿先などを選択することになります。
また、立地以外にも、Wi-Fi(インターネット無線)はどれくらい使いやすいか、どんな飲み物が無料で飲めるか、持ち込みの飲食は可能か、おしゃれか、海外の方がいらっしゃるか、定期的にイベントが開かれたり交流する場はあるか、などサービス面で選ばれることが多くなり、既存の不動産業とは一線を画す選択理由が増えてきます。

そして、このコワーキングオフィスとリモートワークという働き方、すこぶる相性が良いものになっております。
今までは、コワーキングオフィスで働く人というのはデザイナーさんだったり、ライターさんだったりという、個人で仕事を請け負っている方が中心でした。
ところが、先述のリモートワークの流れから、ベンチャー企業を中心にコワーキングオフィスで働く人が2010年頃から急激に増えはじめました。
そして今回のコロナショックにより、大企業でもその流れが増加し始めています。

 ここで、本項の趣旨、東京以外の地方での不動産業への影響に話を戻しましょう。
さて、東京以外の不動産業にはどのような影響があるでしょうか。
 まず、大企業の東京本社に勤めながら、「支社のない地方」で生活するという働き方が可能になっていくでしょう。
 今までは、働く場所と生活の場所は切っても切り離すことができない問題でした。
しかし、今後は地方のコワーキングオフィスで働きながら、所属としては東京本社という働き方も可能になっていきます。
 企業としても若者がどんどん減り、採用コストが激増していく時代、教育コストをかけて一人前になった若手社員や、実力ある他社エースを高いフィーで引き抜いても、家族の介護や遺産相続などの帰省理由で手放すことは最も避けたい事項の一つです。
しかし、リモートワークで働いてもらえれば、そんな貴重な人財を失わずに済みます。

 また、地方に居ながら東京や遠隔地の仕事を請け負うフリーランスの方が増えていくと思われます。
 現在でも、千葉県の富津市や徳島県の神山町など、リモートワークでフリーランスの方が、自然に囲まれた環境で働かれる、という事例が増えてきています。
 また、地方に居ながら海外からの仕事を受ける、という人も増えてくるでしょう。
昨今、グローバル化の波が押し寄せ始めていますが、日本に海外の方が来られるだけでなく、今後は海外から仕事を依頼されることも増えていきます。
特に、時差の関係から、他の国が夜の間、日本は昼間という地域もあるため、海外の方の仕事を引き継いで進めていくという働き方も増えていくでしょう。
何かあっても、チャット(簡易的なメッセージのやり取りができるサービスの種類、LINEもその一種です)やテレビ会議を定期的に行えば、情報の齟齬も起きません。
これらの手段は国際電話をかけるわけではないので、コストも低額で済みます。
大都市に出ずとも、好きな場所で暮らしながら働いていける。
これにより、東京一極集中は緩和され、地方分散型の社会が訪れる。
これが、リモートワークが及ぼす地方不動産への大きな影響となります。


【2.リモートワークが与える今後の影響、まとめ】
・リモートワークの影響により、東京一極集中型の社会は地方分権型社会に移行する。
・それに伴い、日本全体の不動産の価格差は落ち着きを見せ、立地だけでの不動産業は成り立たなくなってくる。
・東京以外の地方では、働き方がより自由になり、コワーキングオフィスが人気になり始める。
・コワーキングオフィスでは、立地よりもターゲットを絞ることとサービスのクオリティが求められる。

3.最後に

今までお話してきたことは、もちろん今日明日に起きてくる変化ではありません。
しかし、今後確実に起こりうる変化でしょう。
現に、今回のコロナショックが起きる前からリモートワークによって、地方へのIターン、Uターンを始める方が増えています。
決して他人事だと思わず、東京、東京以外の地方に関係なく、今後来るであろう働き方の変革という波に、対策を立てていきましょう。

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