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65.福祉用具と住宅改修

ノーマライゼーションは“標準化”や“常態化”を意味します。

すべての人が平等に生き生きとした生活を送れる社会を目指すということです。
 
ノーマライゼーションと同様の障害の有無を問わず同じ日常生活を実現する為の取組は他にもあります。
 
中でも、よく知られているのが“バリアフリー”と“ユニバーサルデザイン”の2つです。
 
バリアフリーは障害のある人や高齢の人をはじめとする“社会的弱者”と呼ばれる人にとっての日常生活における障害となっているものをなくして、より暮らしやすい社会を造る取組です。
 
例えば、歩行が不自由な人の為に床や地面の段差を取り除くことや、視覚に障害のある人の為に音声案内を取り入れることなどです。
 
近年では設備面での改善に留まらず、社会的弱者とされる人が生活する上で抱えがちな心理的ハードルを取り去る“心のバリアフリー”という考え方も浸透しつつあります。
 
ノーマライゼーションの考え方に基づき、生活環境上の様々な障壁をなくしていくことがバリアフリーということになります。
 
ユニバーサルデザインは、障害のある米国の建築家ロナルド・メイスさんによって提唱されたデザインの理念です。
 
障害の有無を問わず、誰にでも親切で扱いやすい製品や環境を実現する為に施されたデザインを指します。
 
バリアフリーが“障害に当たるモノをなくす”という観点に基づくのに対して、ユニバーサルデザインは初めから障壁を作らないことで、すべての人に有用性をもたらせることが前提になっています。

設計の段階でノーマライゼーションの考え方を取り入れて、誰にでもやさしいものを作っていくことがユニバーサルデザインということになります。
 
多くの人が、住み慣れた地域…それも自宅で老後を迎えたいと考えています。
 
その想いを実現する為に、介護保険制度では介護が必要な人が自宅などで生活できるように、居宅で受けられるサービスの充実化が図られています。
 
しかしながら、一般的な住宅は屋内外に段差があったり、手すりが設置されていなかったりと、老後の介護に適した環境であるとは言い難いのが現状です。
 
住み慣れた自宅で快適に過ごすには、介護に適した環境にする為の住宅改修が必要です。
 
また、介護用ベッドや車いすなどの福祉用具があると、より生活がしやすくなります。
 
介護保険制度を利用した住宅改修の対象者は、被保険者であり、要支援または要介護認定を受けている人です。
 
対象者が居住する住宅を改修する場合にかかった費用の一部を介護保険が負担してくれる仕組です。
 
住宅改修の上限額は生涯で20万円(自己負担分を含む)までで、要介護区分に関わらず定額です。
 
例えば、改修費用が20万円だった場合は自己負担額が2万円(利用者負担が1割の場合)、保険適用額が18万円ということになります。

20万円を超える改修を行った場合は、その超過分は全額自己負担となります。
 
例えば、改修費用が25万円だった場合は自己負担額は2万円(利用者負担が1割の場合)と超過分の5万円の計7万円になり、保険適用額は18万円となります。

ただし、要介護区分が3段階以上上昇した場合や、別の住宅などに引っ越した場合は、既に使用した住宅改修の限度額がリセットされて再度20万円まで使うことができます。
 
そして、住宅改修に要した費用が20万円未満の場合は、残額分でその後の改修費用に充てることができます。

例えば、改修費用が10万円だった場合は、自己負担額が1万円で保険適用額が9万円になります。

残額の10万円は次回の改修費用に充てることができます。
 
住宅改修の種類は次の6つです。
 
・手すりの取り付け(廊下、階段、トイレ、浴室、玄関などの手すりの設置等)
 
・住居内または玄関から道路までの段差の解消(敷居の平滑化、スロープの設置、浴室床のかさ上げ等)
 
・滑りの防止及び移動の円滑化等の為の床又は通路面の材料の変更(畳、じゅうたん等)
 
・引き戸などへの扉の取替え(開き戸、引き戸、ドアノブ交換等)
 
・洋式便器などへの便器の取替え
 
・その他、住宅改修に付帯して必要になる住宅改修(下地補強、壁、柱、床材等の変更等)
 
住宅が賃貸物件の場合は家主の承諾が得られれば改修できます。
 
ただし、退去の際に原状回復義務が発生した場合は、この費用は介護保険では賄われないで実費負担になるので注意が必要です。
 
介護保険制度を利用して住宅改修を行う場合には、次のような手順を踏みます。
 
➀書類の作成

住宅改修をする前に担当の介護支援専門員などに、申請書、住宅改修が必要な理由書を作ってもらう。
 
➁業者の選定

業者を選択して、見積書作成を依頼する。
 
➂市町村に申請

改修前の写真や業者の見積書などを付けて、改修前に市町村に申請する。

➃業者に発注

市町村の決定が下りてから、業者に改修を発注する。
 
➄改修

業者が改修工事を行う。
 
➅費用の支払い

改修が完成したら、利用者は業者に費用を支払う。
 
➆市町村に書類の提出

利用者は領収書、工事費内訳書、住宅改修完成後の状態を確認できる書類、住宅改修費支給申請書などを市町村に提出する。
 
➇償還払いを受ける

改修にかかった費用の9割(所得により8~7割)が利用者に償還払いされる。
 
やむを得ない場合は完成後に申請することも可能です。
 
介護保険制度を利用して住宅改修を行なう場合、まずは担当する介護支援専門員や市町村窓口、地域包括支援センターに相談してみると良いと思います。
 
福祉用具は介護が必要な人の日常生活をより良くするので、自立した日常生活を営むことができるようにする用具を指します。
 
使用する福祉用具によってレンタルできるものと購入するものに分けられています。
 
車いすや介護用ベッド等の福祉用具はレンタルの対象になっている一方で、排泄用具や入浴用具などの再利用に抵抗感があるものは購入の対象品目になります。

また、使用によって品質が劣化するものも購入の対象品目です。
 
福祉用具の利用にあたっては、利用する人や介護を行う人のニーズに合わせて選ぶようにします。
 
また、要介護区分に応じて利用の制限があるので、すべての用具をレンタルや購入できる訳ではありません。

希望する用具が利用可能かどうかを担当の介護支援専門員に相談する必要があります。

福祉用具貸与(レンタル)の対象は13品目です。
 
➀車いす(自走用標準型車いす、普通型電動車いす又は介助用標準型車いすに限る)
 
➁車いすの付属品(座面に敷くクッションや電動補助装置等であって、車椅子と一体的に使用されるものに限る)
 
➂特殊寝台/介護ベッド(サイドレールが取り付けられてあるもの又は取り付けが可能なもので、“背部又は脚部の傾斜角度が可動調整できる機能”か“床板(ボトム)の高さが無段階に可動調整できる機能”のどちらかを有するもの)
 
➃特殊寝台付属品(特殊寝台と一体的に使用されるもので、マットレス、サイドレール、ベッド用手すりなど)
 
➄床ずれ防止用具(送風装置または空気圧調整装置を備えた空気マット又は、水等によって減圧し体圧分散効果を持つ全身用のマット)
 
➅体位変換器(空気パッドなどを身体の下に挿入することにより、居宅要介護者等の体位変換をする機能を有する床ずれ防止の為のものに限り、体位の保持のみを目的とするものは除く)
 
➆手すり(設置取り付けに際し工事を伴わないものに限る)
 
➇スロープ(段差解消の為のものであって、取り付けに際し工事を伴わないものに限る)
 
➈歩行器(歩行が困難な人の歩行機能を補う機能を有し、移動時に体重を支える構造を有するものであって“車輪を有するものにあっては体の前及び左右を囲む取っ手等を有するもの”又は“ 4輪を有するものにあっては上肢で保持して移動させることが可能なもの”のいずれかに該当するものに限る)
 
➉歩行補助杖(松葉杖、カナディアン・クラッチ、ロフストランド・クラッチ、プラットフォーム・クラッチ及び多点杖に限る)
 
⑪認知症老人徘徊感知機能(徘徊を察知する為の機器で認知症高齢者が屋外へ出ようとした時など…センサーにより感知して、家族、隣人などへ通報するもの)

⑫移動用リフト(ベッドから車いすなどに移る為の移動用リフトで、床走行式、固定式または据え置き式であり、かつ、身体を釣り上げ又は体重を支える構造を有するものであって、その構造により自分での移動が困難なものの移動を補助する機能を有するもの…取り付けに住宅の改修を伴うものは除く…。つり具部分も除く)
 
⑬自動排泄処理装置(尿または便が自動的に吸引されるものであり、尿や便の経路となる部分を分割することが可能な構造を有するもの…交換可能部品を除く)
 
➀~➅、⑪、⑫は原則として要介護2以上が対象で、⑬は原則として要介護4以上が対象になります。

自己負担額はレンタルにかかる費用の1~3割です(所得により異なる)。
 
レンタル費用は福祉用具の種類や品目、業者によって異なりますが、利用者が適切な価格で使えるように同じ製品に関しては全国平均の貸与価格が公表されています。
 
特定福祉用具販売(購入)の対象品目は6つです。
 
➀腰掛け便座(1.和式便器の上に置いて腰掛け椅子に変換できるもの…腰掛式に交換する場合に高さを補うものも含む、2.洋式便器の上に置いて高さを補うもの、3.電動式又はスプリング式で便座から立ち上がる際に補助できる機能を有しているもの、4.便座、バケツなどからなり移動可能である便器(水洗機能を有する便器を含み、居室にて利用可能なものに限る)
 
②自動排泄処理装置の交換可能な部品(尿を吸引する機械チューブ、タンク等)
 
③排泄予測支援機器(膀胱内の状態を感知して尿量を推定するものであり、排尿機会を介護を行う人等に通知するもの)
 
④入浴補助用具(入浴に際して座位の保持、浴槽への出入り等の補助を目的とする用具であって、次のいずれかに該当するもの)
・入浴用椅子 シャワーチェア…座面の高さがおおむね35センチ以上のもの、またはリクライニング機能を有するもの
・入浴台 バスボード…浴槽の縁にかけて浴槽への出入りを容易にすることができるもの
・浴槽用手すり…浴槽の縁を挟み込んで固定することができるもの
・浴室内すのこ…浴室内に置いて浴室の床の段差解消を図ることができるもの
・浴槽内いす…浴槽内に置いて利用することができるもの
・浴槽内すのこ…浴槽の中において浴槽の底面の高さを補うもの
・入浴用介助ベルト…居宅要介護者等の身体に直接巻きつけて使用するものであり、浴槽への出入り等を容易に介助することができるもの
 
⑤簡易浴槽(空気式の簡易浴槽、折りたたみ式で居室内に運べる浴槽)
 
➅移動用リフトのつり具部分
 
自己負担額は購入にかかった費用の1~3割です(所得によって異なる)。
 
利用者は特定福祉用具を取り扱う事業者(都道府県が指定)から購入し、全額を支払った後に市町村に申請します。
 
その後、自己負担分を除いた金額が福祉用具購入費として返還されます(償還払い)。

福祉用具の購入限度額は、上限10万円/年度までです(自己負担分を含む)。
 
破損を除き、同じものを同一年度内で再購入することはできません。
 
福祉用具は福祉用具法(1993年制定)で“心身の機能が低下し、日常生活を営むのに支障のある人、または心身障がい者の日常生活上の便宜を図る為の用具及びこれらの者の機能訓練の為の用具並びに補装具”と定義されています。
 
このうち、介護保険においての福祉用具は上記の通り、貸与と販売で給付されます。
 
給付の対象である要介護者や要支援者は、日々の経過で身体状況が変化しやすい傾向があるので、適時適切な福祉用具を利用できるように貸与(レンタル)が原則ですが、排泄、入浴など直接肌に触れるなど、貸与に馴染まない用具は販売の対象とされています。
 
介護保険でレンタルできる福祉用具は上記の通り13品目で、それぞれ厚生労働省の告示によって定められています。
 
利用する為の要件を満たして一定の手続きをして認定(認定手続き)を受ければ、月額1~3割の自己負担でレンタルすることができます。

介護保険でレンタルできない福祉用具として“他人が使用して再利用することに心理的抵抗感が伴うもの”6品目は、購入費を保険料で負担してもらうことができます。

ちなみに、福祉用具の種目、種類の追加については、厚生労働省老健局が運営する介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会で検討されます。
 
次に、障がい者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)により給付される福祉用具を見てみます。

補装具と日常生活用具に分類されます。
 
補装具は身体機能を補完もしくは代替、かつ身体への適応を図るように制作されたもので、基本的にオーダーメイドのものになります。

そして、日常生活において又は就労、就学の為に、同一の製品を長期間に渡って継続して使用されるものです。

この補装具は医師などの専門的な知識に基づく意見や診断に基づいて使用されることが必要と認められるものです。

これらのことが補装具の3つの要件になります。
 
補装具の種類としては、義肢、装具、座位保持装置、盲人安全つえ、義眼、眼鏡、補聴器、車いす、電動車いす、歩行器、歩行補助杖、重度障害者用意思伝達装置があります。
 
日常生活用具は補装具とは違って障害の状況に応じて個別に適合を図るものではないので、介護保険と同じ対象種目(特殊寝台・体位変換器・歩行器・移動用リフト・自動排泄処理装置・入浴補助用具・簡易浴槽など)になるものは介護保険が優先されます。
 
自己負担額としては、介護保険の場合は所得に応じて1~3割ですが、障害者総合支援法では1割負担になります。
 
住宅改修の制度も、介護保険法によるものと障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)を根拠とする“日常生活用具給付等事業”によるものがあります。

その他には、保険や福祉制度ではないですが、リフォーム等に関する助成制度があります。
 
介護保険法の第1条では“加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排泄、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じて自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行う”と、介護保険制度の目的が示されています。

この目的に沿って介護保険法の第45条では“市町村は、居宅要介護被保険者が、手すりの取付けその他の厚生労働大臣が定める種類の住宅改修を行ったときは、当該居宅要介護被保険者に対し、居宅介護住宅改修費を支給する”ことを定めています。
 
一方で、介護保険を利用する際には単に利便性を図る為の住宅改修ではなく、要介護状態等の軽減または悪化の防止に資するものでなければならないこと、医療との連携に配慮することを充分に理解して利用する必要があります。
 
利用の流れとしては、担当のケアマネジャーに相談し改修内容の見積もり等を作成して市町村に申請し、住宅改修施工後に改修費の申請をすることで償還されます。
 
施工前および施工後の申請の際には、それぞれ提出書類が指定されているので確認する必要があります。
 
住宅改修を行うタイミングは次の2パターンが多いと考えられます。
 
1つ目は入院又は入所している方が自宅に退院することになったタイミングです。

この場合、退院前訪問として、ケアマネジャー、療法士、福祉用具専門相談員などで在宅に伺って在宅生活での課題を確認することになりますが、この時に住宅改修も一緒に検討すると思います。
 
2つ目が、退院後に訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションの介護保険サービスを開始したタイミングです。
 
この時に契約も兼ねて実態調査を実施しますが、同時に住宅改修の検討をすることも多いと思います。
 
日常生活用具給付等事業は、市町村が行う地域生活支援事業の内、必須事業の1つとして規定されています。
 
障がい者などの日常生活がより円滑に行われる為の用具を給付又は貸与することなどにより、福祉の増進に資することを目的とした事業です。
 
障害者総合支援法を活用する場合は介護保険と異なり支給限度額ということではなく、原則として、その費用は国が50%、都道府県が25%、市町村が25%を負担することになっています。

しかし、利用者負担が0ということではなく、一般的な基準としては購入価格の9割を公費負担で、1割を自己負担で…という市町村が多いと思われます。
 
また、個人の収入によって公費負担額が変わるケースもあるので、詳しくはお住みの市町村の障害福祉課に確認する必要があります。
 
日常生活用具給付等事業の対象者は“日常生活用具を必要とする障害者、障害児、難病患者等”であり、難病患者などは別に政令で疾病が定められています。
 
給付を受ける上で、機能障害や乳幼児の病変については制限があるので注意が必要になります。
 
➀下肢機能障害、または体幹機能障害があり、その障害等級が1~3級の方

②乳幼児期以前の非進行性の脳病変による移動機能障害があり、その障害等級が1~3級の方

③肢体不自由のみの障害等級が2級以上で、下肢機能障害、または体幹機能障害がある方

④難病患者等で下肢または体幹機能に障害を有する方
 
また、要介護認定も受けていて障害者総合支援法の対象者にも該当する場合もあると思います。
 
この場合、65歳以上の方は介護保険における住宅改修費支給制度の利用が優先されます。
 
40歳以上65歳未満で介護保険法の定める特定疾病に該当する方も、介護保険における住宅改修費支給制度の利用が優先されます。
 
申請は市町村長に行い、給付等の決定後に給付等を受ける“事前申請”が原則になっています。

まずは市町村の担当窓口で確認、相談してから話を進める必要があります。
 
介護保険法と障害者総合支援法は国の法律に基づいた支援の制度になりますが、これらとは別に市町村で支援を制度化している場合もあります。
 
都道府県や市町村によっては、家屋のリフォームの目的、例えば、バリアフリー化、耐震化や省エネルギー化などに対して、補助や融資などが受けられる場合があります。
 
都道府県や市町村での相談に加えて、建築家などの専門家に相談することも広義の対象になる可能性があります。
 
介護保険法と障害者総合支援法、この2つの制度は、いずれも“福祉用具の導入”や“用具の設置”に必要な小規模の改修が対象になっていることが特徴です。
 
それを踏まえた上で、対象者の生活に即した住宅改修計画を立案することが重要になります。

住宅改修に関わる上で最も重要なことは、対象者が安全に生活できるように適切な助言をすることや、視野を広くもって問題点に気づくことができることです。
 
そして、自分が属する市町村の制度を確認しておく必要があります。

住宅改修を検討する際は、介護保険法と障害者総合支援法の制度活用と合わせて、市町村独自の制度が利用できないかを問い合わせることも重要になります。
 
使える制度は有効に使うべきです。
 
 
写真はいつの日か…倶知安町から羊蹄山を撮影したものです。 

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