【超短編小説】桃源郷に最も近い処(出張執筆)
🔶本作について
本作は羽月さんが9月9日22:00~22:40に実施した、VRSNS(cluster)内有償イベント「CLUB春岸」の様子を書き残した作品になります。
イベント中、モニターによる画面共有で原稿を共有しながら、リアルタイムで小説執筆(出張執筆)しました。
ミステリアスで大人びた魅力に包まれた女性との思い出、写真やイラストと共にご堪能いただければ幸いです!
🔹限定イベントコミュニティ「プレミアムミート」
また「CLUB春岸」は、限定イベントコミュニティ「プレミアムミート」の関連イベントとして実施されました。
プレミアムミートについては、下記の記事をご覧ください!
🔶桃源郷に最も近い処
万華鏡のような世界に導かれた。野点傘の生地では半透明の金魚が泳ぎ、黒曜石の床には幻の花々が咲き誇る。さながら、触れ得ぬ水彩画のように。
「それじゃあ、まずは乾杯しましょうか」
嫋やかな紫に包まれた羽月が、片手のグラスをカウンターの向こうに伸ばす。
「かんぱい」と返したkawatokoは、グラスを互いに打ち鳴らし、鈴の音のように響かせた。一瞬、羽月の長い髪にて咲く桜の香りを、そよ風のように受ける。
「あら三河屋様、今日は立派なお召し物ですね」
右手に眼帯、左手に片眼鏡をつけた、オールバックの男性の隣に立つ羽月。
「ありがとうございます。次のお正月はこれで行こうと思っています」
かつて頼れる黒服だった彼も、いつしか才能が開花して、威厳や風情が身に付いたという。
「あら、凄いじゃないですか。変わりましたね、昔よりも」
と、寄り添いながら写真を撮影する羽月。
「こういう時、どういうツマミを食べます?」
カボチャ紳士の宵が、ワイングラスを傾けながら述べる。ホラーチックな
「カボチャ」の顔の奥に、ニッコリ目を細めたような光が灯る。
「ハガツオの刺身」
と、隣に座るジュンは、ビール片手に笑う。サスペンダーを着た、白くて可愛い二足歩行の猫。
「こういう高級店では、ベルキューブを剥いてお客様に差し上げるものですよ」
カボチャ紳士とジュンの間に割って入った羽月は、カウンターにおかれていた正方形の包装を剥いた。その中身はチーズ、つまようじを通すと「はい、どうぞ」と二人に手渡す。
「最近、こういう店に来なかったけど、久々に来ると良いものですね」
赤いジャケットを着た、これまた赤い髪をしたイヌカンフーが、駆け付けの赤ワインを一気に飲んで舌鼓を打つ。
「今日は甘えちゃっても良いんですよー」
細く、白い指が彼の顔に伸びる。水晶とも、墨染ともとれる瞳に、魂が吸い込まれますように。微かに、その頬も赤くなった。
「どうしたのー? りこちさん」
と、羽月がその場で後ろを向いて、スリーピーススーツを着た二足歩行猫の頭を撫でる。恥ずかしさからか目を逸らすと、羽月は更に「よしーよしよしよし」と可愛がる。ペットのように可愛がられると、真面目な顔も僅かばかり緩んだ。
「ねぇ……もっと滑らかに動く羽月を見てみない?」
人差し指を口元にあてながら羽月が言うと、一同は興味津々に質問を重ねた。曰く、彼の世界では多くの仙女がいて、纏う神秘性もより神妙に薫る処であると。
「……いつかは、そこに案内したいわね」
桃源郷に最も近いと噂される「CLUB春岸」。撮影した写真も、刹那の夢のように儚く、鮮やかに――。
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