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みんなが出来る「10分ガイド」-スタッフ、ボランティアのガイド育成はこうやってしています―

書いてる人重岡伸泰(しげおか のぶひろ)
植彌加藤造園株式会社 指定管理部 無鄰菴、岩倉具視幽棲旧宅 主任学芸員。
 私の所属する指定管理部は、京都市所有の国指定名勝・無鄰菴および国指定史跡・岩倉具視幽棲旧宅の二施設を指定管理者として管理運営する部署に当たります。私自身は、両施設で主任学芸員として、展示、解説などの仕事やボランティアガイドの育成などを主に仕事として担当しております。
無鄰菴
岩倉具視幽棲旧宅

 弊社が指定管理者として管理運営を行っている無鄰菴、および岩倉具視幽棲旧宅では、入場していただいたお客様への無料のサービスとして「10分ガイド」という、直接お客様と相対してスタッフ、ボランティアがガイドを行うサービスを提供しています。今回は「10分ガイド」についてご紹介したいと思います。
 この10分ガイドですが、両施設で仕事をする社員はもちろん、アルバイトスタッフやフェローと呼ばれるボランティアの皆さんも一定の訓練を受けて、ガイドを行えるようにしています。このような文化財施設においては、録音された音声によるガイドを行う施設もありますが、弊社では「顔の見える接客」という点を大事にしており、現場にいるスタッフが毎日お客様の前で直接ガイドを行うようにしております。
 なぜ人が直接お客様の前でガイドを行うか、ですが、録音された音声によるガイドですと一度聞いてしまえば、内容の更新がない限りは二度目をわざわざ聞く来場者はなかなかいないため、より多くの来場者に再来場をしていただき、リピーターとして施設を楽しんでいただくために、四季折々の見どころや現在咲いている花の情報などを盛り込み、何度聞いても常に新しい発見がある、いつ聞いても、何度聞いても楽しめるようなご案内を目指して行っています。

岩倉具視幽棲旧宅での、筆者による解説風景

 では、ガイドの育成はどのように行っているのでしょうか。弊社では、まずガイドの内容を学術的に精査し、合理的、実証的な内容を来場者の方々に提供出来るように、さまざまな資料を参照しながらガイドのテキストを作成しています。具体的には、無鄰菴では『公爵山縣有朋公伝』や『続江湖快心録』、『山縣有朋関係文書』など、岩倉具視幽棲旧宅では『岩倉公実記』や『岩倉具視関係文書』などにあたっています。
 各ガイドの具体的な育成過程は、まず実際に行っているガイドを見て、最終的に自分がどのように来場者の前に立って解説するかのイメージを作ってもらいます。次にガイド教育担当のスタッフ(筆者がこれにあたっています)と一緒にテキストを音読して、読み方を確認しつつ、なぜこのような説明をしているかというガイドテキストの背景にも触れて学びます。実際には10分しか解説しませんが、その背景となっている知識は多ければ多い方が良いですし、思いもよらない質問が来場者から飛び出すこともあります。最も来場者とのふれあいが多いのがガイドですので、テキストを読みつつ、追加の解説を聞くことで、それぞれの持っている疑問も解消してガイドに臨むことで自信もつきますし、テキストの何倍もの知識の蓄積を行っているため、思わぬ質問にも対応出来るようにもなれるという訳です。
 上記のような学習を経て、ガイド教育担当などの実地のテストを行い、合格した方だけが来場者の前に立って解説出来るという仕組みを取っています。
 また、ガイドについては、テキストに基づいて行いますが、必ずしも全く同じことをそれぞれのガイドがお話しているわけではありません。というのも、出来る限りその施設の良い所を知っていただきたいと弊社では考えていますので、それぞれのガイドがその施設の最も美しいと思うポイント、好きなところについて重点を置いて説明をしていただいています。このようにすることで、より実感を持ってその施設の良さを説明することが出来、来場者の方々に、興味がなかった点にも新たな魅力に気付いていただける、という工夫から、ガイドの個性を生かした解説が行えるようにしています。
 次回(一一月)は、指定管理部 平野から「文化財運営者の一日 朝の鍵開けから、夜の鍵閉めまで。見えないところでこんなことしてます。」といった内容について掲載する予定です。

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