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呉市の円形校舎、耐震不足で揺れる ~稼ぐ文化財ニュース(2022/1/28)

稼ぐ文化財ニュースでは、近現代の文化遺産を後世に残すべく保存と活用の両立に取り組む全国の最新事例を紹介し、各事例の特徴や今後の動きについて考察していきます。

◆今日のトピック

中国地方で唯一、呉・港町小の「円形校舎」岐路 築60年で耐震不足、希少さ再評価も(毎日新聞社 2022.01.27)

【記事概要】
1950~60年代に全国各地で採用されながら建て替えで姿を消し、中国地方では唯一現役で使われている呉市立港町小の「円形校舎」が、存廃の岐路を迎えている。築60年で耐震強度が不足し、市教委は「現地での建て替えとなれば解体することになる」と説明。希少な建築として存続を願う声もある。

【背景・経緯】
港町小校舎は1962年に建設された鉄筋4階建てで、1~3階は円形のフロアを扇状の教室がぐるりと囲み、4階は体育館となっています。
この円形校舎は、ベビーブームの時代に狭い敷地で効率的に教室をハイツするため、全国で110か所建設されました。現在残っているのは20か所程度とのこと。
市の呉市教育委員会は、議会報告で「耐震補強ではなく建て替えを計画している」と説明しましたが、市議からは「単に壊すだけでなく教育の一環として利用すべき」との意見が出たようです。

【ポイント】
この円形校舎は、間違いなく時代を象徴する建築物の一つであり、希少な建築物として再評価する動きもあるとのこと。
例えば、日本最古の円形校舎である鳥取県倉吉市の明倫小学校旧校舎は、民間企業に譲渡され、「円形劇場くらよしフィギュアミュージアム」として生まれ変わっています。

円形劇場外観
https://enkei-museum.com/about/


また、三重県朝日町の朝日小学校は、「町のシンボルである」との認識のもと、国の登録有形文化財に登録したうえで現役の校舎として利用されています。円形校舎のデメリットである「増築が困難」という点にもチャレンジしており、円形校舎の横からウィングを伸ばすように矩形の校舎を増築し、児童数の増加などに対応しています。

朝日小学校円形校舎
https://web.archive.org/web/20131109162138/http://www2.town.asahi.mie.jp/menu3465.html


行政サイドの活用ニーズがなく立地もそこそこ良ければ、倉吉市のように民間活用の可能性はあるでしょう。また、小学校として継続利用するのであれば、朝日町のように既存校舎を残しながら増築を試みることも可能です。

【今後に向けて】
残すのか、壊すのか。ポイントは活用方法にあるようです。
記事でも、有識者コメントが寄せられており、この建物を保存するだけでなく、資産として活用することで、よりよい地域づくりにつなげることが大切だと説かれています。
港町小学校校舎をめぐる議論がどのような着地点を見せるのか、経緯を見守っていきたいと思います。

藤木准教授は「学術的価値があっても、場合によっては『負債』にもなるのが建造物。よりよい地域づくりにつながる資産として活用できると望ましい」と指摘した。

https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=828155&comment_sub_id=0&category_id=112


余談ですが、一つ気になる点があります。

過去の入札情報を見ると、港町小学校は2015年度に耐震補強工事が行われていますので、当面は建て替えの必要はないはずなのに、なぜ今、「耐震補強ではなく建て替えを計画している」という議会説明が必要だったでしょう。
もしかしたら、議員のだれかが円形校舎の歴史的価値や活用方法について質問したのかもしれませんね。
時間を見て、議会の議事録をチェックしてみようと思います。

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カバー写真出典:中国新聞社 https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=828155&comment_sub_id=0&category_id=112

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