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稼ぐ文化財ニュース(2021/12/1-12/19)

稼ぐ文化財ニュースでは、近現代の文化遺産を後世に残すべく保存と活用の両立に取り組む全国の最新事例を紹介し、各事例の特徴や今後の動きについて考察していきます。

◆今日のトピック

市庁舎本館(登録有形文化財)の活用にかかる市場調査結果/大牟田市

【調査結果】
登録有形文化財の本庁舎を有する福岡県大牟田市が、庁舎建て替えと現庁舎(本館)の保存活用にかかる検討をおこなっており、このたびサウンディング調査の結果が公表されました。
サウンディングに参加したのはゼネコンやコンサルタントなど10社で、本館活用は庁舎整備と切り離して実施するべきとの意見が多かったようです。
また、本館の利活用では庁舎全体か一部を活用する、と答えた会社が5社あり、うち4社は2階以上を使ってテナントへの転貸やホテル、レストランの運営を行いたいとのことです。
ただし、収支はかなり厳しく、初期投資を回収することは難しい見込みです。不動産開発やリース業を営む会社(2社)は、いずれも独立採算での実施は難しいと回答しており、施設の運営費についても財政負担が必要との見解が示されています。

【今後の動向】
もともと本事業は、本館の保存と解体をめぐって市民意見が分かれており、市が2020年に行った市民アンケートでは、「保存/解体/財政負担により判断」がそれぞれ3割ずつと拮抗しています。
特に「財政負担により判断」が3割を占めるということは、『財政負担が大きい場合は解体する』ことを意味しており、調査では「いかに財政負担を軽減しながら保存活用できるか」を把握することが求められていました。しかし、上述の通り、一定の市の財政負担は不可避との結論に至っています。
今回のサウンディングは、あくまでも条件を定めずフラットに意見を聞いた結果であり、この結果をもってただちに「解体」されることはないと思いますが、今後、本館の収益化の道筋が描けなければ、早晩、この建物は取り壊されてしまう可能性があります。
この規模の建物の耐震補強費は数十億円規模になるため、軽々に「保存すべき」とも言えませんが、活用部分と保存部分を区分けして耐震補強の水準を調整するなど、コスト縮減の工夫の余地はありそうです。
今後、市民との対話を経ながら本館の保存・活用の道筋を探ることになると思いますが、拙速に「保存か・活用か・解体か」を判断するのではなく、丁寧に折衷案を探っていってほしいものです。

https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005206

【主情報】

名称 : 大牟田市役所本庁舎旧館
員数 : 1棟
種別1 : 官公庁舎
種別2 : 建築物
時代 : 昭和前
年代 : 昭和11
西暦 : 1936
構造及び形式等 : 鉄筋コンクリート造4階建、建築面積1378㎡、塔屋付
登録年月日 : 2005.12.26(平成17.12.26)
登録基準1 : 国土の歴史的景観に寄与しているもの
所在都道府県 : 福岡県
所在地 : 福岡県大牟田市有明町2-3
所有者名 : 大牟田市
解説文:JR大牟田駅前に位置する。正面を62mとしたRC造4階建の庁舎建築で,中央背面に議場を張り出す。縦長窓を密に配した採光に配慮したつくりで,複数の蛇腹と中央部の柱形で外観を引きしめる。正面中央部には5層の塔屋を設け,中心性を強調する。

https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005206

【サウンディング調査の概要】


◆その他のニュース

セレクトショップのベル―リアが登録有形文化財に新店出店

セレクトショップのベル―リアが、群馬県桐生市の近代化産業遺産の建物を活用した別邸「日美日美」を新規出店しました。
当時の雰囲気を再現する形で全面リノベーションし、英国アンティーク什器を活用した商品の見せ方にもこだわり、付加価値の高い空間づくりを行っています。


南都銀行の本館移転にあわせて、現本館の利活用を検討

奈良県の南都銀行が新本館を移転するにあたり、1926年の竣工から95年経過した旧本館の利活用を検討しています。
現本館は観光地に近い立地であり、ホテルや商業施設への利活用を検討しつつ、登録有形文化財の指定部分は建物を保存するようです。


新潟市が旧第四銀行住吉支店の貸し出しを開始

新潟市が、市歴史博物館敷地内にある旧第四銀行住吉支店の建物を、個人や団体に貸し出すことになりました。イベントや集会、写真撮影などに使えるようです。
この建物は1927年に建てられた古典的な銀行建築で、2003年に現在の場所に移転してきました。これまでは飲食店として営業してきましたが、コロナ禍で客足のめどがたたず閉店し、新たな活用策を模索し始めたとのこと。
今年の夏に出店者を募集したところ、応募者がいなかったようで、暫定利用として時間貸しを始めたようです。
利用時間は2時間半からで、料金は2千~1万2,650円。1か月前までに市に申請が必要となります。
ユニークベニューの活用に関心のある方は、ぜひ担当課(025-226-2575)までご連絡を。


勝央町教育委員会が旧勝田郡役所の保存活用を推進

勝央町教育委員会は、登録有形文化財である旧勝田郡役場を耐震補強し、歴史資料展示室やギャラリーとして活用する方針を示しました。
これまでは郷土資料館の保管場所として利用され、地域には開放していなかったようですが、今後はギャラリーを町内外の個人や団体に貸し出し、有料化による収益化も見込まれています。


大庄屋の長屋門再生に向け、地域のボランティアグループが修繕費を募る

三条市月岡から下大浦にかけての丘陵地帯(通称・道心坂)にある江戸期の建造物「長屋門」の老朽化が進んでおり、これを再生しようと、地域のボランティアグループ「ノジコの会」が寄付を募っています。
修繕費は250万円以上を目指し、一口1000~2000円以上の寄付金が設定され得ちます。
修繕後は登録有形文化財を目指しつつ、ビジターセンター的機能やイベントも行える場所として建物を活用することを目指しているそうです。
寄付の申し込みはノジコの会事務局(0256(38)5236)まで。

https://www.niigata-nippo.co.jp/news/local/20211206657054.html


山形市が老舗料亭「千歳館」の市場調査を開始

山形市が、コロナ禍の影響で休業した老舗料亭・千歳館の寄贈を受け、都市公園として整備することとなり、利活用アイディアを募っています。
千歳館は1876年に整備され、登録有形文化財にも指定されています。
市は2億5千万円の予算を確保し、2,480㎡の敷地と建物を買い取って、今後の活用についての検討を始めたところ。
今後は文化財の魅力を活かしながら、公園としてより多くの市民の憩いを提供できる方策について、検討が進められると思います。


トップページの写真は、大牟田市役所ホームページから引用しています(https://www.city.omuta.lg.jp/hpKiji/pub/detail.aspx?c_id=5&id=4220&class_set_id=1&class_id=5


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代表社員の中島は、全国の重要文化財、登録文化財の収益化にかかるアドバイザー業務に従事し、PFIやコンセッション、指定管理者、ガバメントクラウドファンディングなどの導入支援の実績も豊富です。
文化財の活用にむけたご相談もお受けしていますので、ホームページよりお気軽にご連絡ください。


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