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稼ぐ文化財ニュース(2022/1/21)

稼ぐ文化財ニュースでは、近現代の文化遺産を後世に残すべく保存と活用の両立に取り組む全国の最新事例を紹介し、各事例の特徴や今後の動きについて考察していきます。

◆今日のトピック

日本遺産、再審査4件の認定を継続 評価初年度の取り消しなし(毎日新聞社 2022.01.14)

【記事概要】
文化庁は14日、地域のさまざまな文化財を観光振興に活用する「日本遺産」の評価制度で、再審査とした4件の遺産認定を継続すると発表した。評価制度は2021年度に導入。取り組みが不十分な遺産は認定を取り消されるが、評価対象の18件中14件は既に継続が認められており、初年度の取り消しはなかった。

【背景・経緯】
日本遺産とは、地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーや、それに不可欠な有形・無形の文化財群を自治体から公募し、文化庁が認定するものです。
2015年の第一号認定から7年が過ぎましたが、各地での取り組みにばらつきがみられました。
このため、文化庁は今年度から、日本遺産ブランドの維持・強化を目的として事後評価制度を導入し、岐阜県「「信長公のおもてなし」が息づく戦国 城下町・岐阜」や鳥取県「六根清浄と六感治癒の地 ~日本一 危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン 泉~」など4つの日本遺産について、地域活性化計画の目標が未達として『再審査』を行っていました。
いずれの地域も計画の修正案を提出し、無事、認定継続が決定したようです。

日本遺産の特徴
(出典:https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/nihon_isan/pdf/92879101_01.pdf

【ポイント】
日本遺産の再審査制度は、令和2年度に新たに導入されたもの。
今年度はもっとも古い2015年度に認定された18件の日本遺産が審査対象となり、2割超にあたる4件が再審査となりました。

来年度の審査対象になるのは、2016年度に認定された19件ですが、いずれも事業評価があるなんて思いもしなかったでしょうから、計画目標値が未達という地域も多いと思います。

2015年度認定地域(18件)の調査は、「日本遺産フォローアップ委員会」の委員が4月に現地に赴いて行っています。
2016年度認定地域(19件)の現地調査も、来年度早々にスタートする可能性が高いです。

認定地域の担当部署では、今から少しでも成果をあげようと、東奔西走しているかもしれませんね。
認定されたことに安堵して、その後の公民連携などの取り組みが後回しになってしまった地域では、きっと焦りも感じていることでしょう。

いずれにしても、これまでやってきたことに嘘はつけません。
コツコツと取り組みを積み重ねてきた地域は、しっかりと成果を取りまとめていただきたいと思います。
また、後手に回ってしまった地域は、計画目標未達の合理的な理由を整理したうえで、計画変更も視野に入れた交渉を行う必要がありそうです。

【今後に向けて】
文科省は、日本遺産の認定数の上限を100件程度としており、現時点で認定数は104件と上限値ぎりぎりの認定がなされています。
にもかかわらず、新たな認定も募集しており、今年度も3地域が新規認定を受けました。

今回の再審査の動きを見ていると、文化庁は「日本遺産」のブランド価値を高めるため、目標未達の地域と新規認定地域を入れ替えることで、つねに緊張感を持ちながら地域主体の積極的な取り組みを促そう、という意図が見て取れます。

これから事業評価を迎える認定地域の皆様には、今からでも遅くないので、どうやったら計画目標を達成できるのか議論を始めていただけたらと思います。
その際、行政内部だけでなく、地域の企業や住民、団体を巻き込みながら、議論を行うことが大切です。

文化庁の委員会メンバーは、文化財が地域活性化のシンボルとなるためには、単なる行政側のお題目としての「公民連携」ではなく、現地で本当に活動している民間主体の存在が大事だと理解されているでしょう。
そのうえで、これらの民間主体がどの程度、自分事として活動しているのかについても、しっかりと見ていると思います。

公民連携が掛け声だけだった時代から、実効性が問われる時代に代わってきています。
「まちづくり幻想」を著した木下さんも、noteに次のような投稿をしており反響を呼んでいます。

○ 補助金事業で「やった感」
補助金とりました、その予算で事業やりました、予算なくなりました。終わりました。
この繰り返しもすべて「やった感」ですね。最初から予算を消化してやった感を出すだけで、何も活性化しないし、むしろ疲弊して終わる。そのことに気づいているのに、何もしないと不安になる、何もしていないじゃないかと怒られる。だから「やった感」を出すのに次なる予算をとりにいく。
「やった感」の負の連鎖です。

企業は今、SDGs文脈の中でこぞって自治体と連携したがっています。
自治体側も、発注者・受注者といった甲乙関係から脱却し、民間企業をパートナーとしてとらえ、役割分担しながらともに地域を盛り立てていくノウハウを蓄積していく必要があるのではないでしょうか。


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なぜ、調査すらしないのだろう? 報道を見ていて、ずっと分からないことがあります。出雲市斐川(ひかわ)町に残る旧日本海軍の飛行場、大社(たいしゃ)基地跡の問題です。


※トップ画像出典:https://www.pref.tottori.lg.jp/246066.htm

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