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「少女の記憶が飛んで戻るまでのお話。」最終話

最終話 まだ知らない事


 保護者が立ち直ってきたところで、亜希はそういえばと少女に視線を向ける。

「学園には何しに来てたの?」
「転入手続きだよ。別にわたしがいる必要はないんだけど、暇だったからついてきた!」
「そうだったのね。……あ! そうよ、学年は!?」

 相槌を打っていたスアラは急に慌てた様子で問いかけた。

「二年だよ!」
「ん、じゃあ俺たちと同じ学年なんだね」
「よかった年上じゃなくて……タメ口きいてたことになる所だったわ……」

 瞬きして少女を見るルーヴァの横でスアラは安堵の息をつく。

「スアラって変なところ真面目だよね。今回は年齢すらわからなかったんだから仕方ないじゃない」

 気にしなくてもいいのではないかという亜希だが、スアラは納得できないらしく眉を寄せていた。

「それはそうだけど。やっぱり先輩にタメ口は……年長者は敬わなくちゃいけないのに……でも確かに今回は記憶がなかったからどうしようも……とはいえ、記憶があろうがなかろうが年長者は年長者に変わりがないから(以下数行にわたりスアラの台詞が続くがスペースの関係で省略する)」

 何やら独り言を続けるスアラを見ながら少女は首を傾げる。

「どうしちゃったのかな?」
「ああ、そのうち現実に戻ってくると思うからほっといても大丈夫よ」

 亜希は特に気にした様子もなく言う。その横でルーヴァも彼女に同意した。

「そうだね。今回はたぶん亜希に行きついたところで終わるよ」
「へ、なんで私……」
「そうよ、すべては亜希が廊下を走ったのが悪いのよ!!」

 急にスアラは大きい声を出してそう言い放った。

「………………」
「ほらね」
「ほんとだ! あっちゃんで終わったー!」

 亜希は黙り込み、ルーヴァは頷き(どこか満足そうに見える)、少女は目を丸くして可笑しそうに声を上げた。

「むぅ、癪だけどそうなったわね……って、何? あっちゃん?」

 聞き慣れない呼び方をされた亜希は少女を見る。

「うん。亜希だからあっちゃん!」
「あら、良いあだ名じゃない」
「えへへ! スアラはすーちゃんでルーヴァはるーくんだね!」

 和やかな雰囲気の中、いつの間にか一人俯いていた亜希がぽつりと言う。

「……だめ」

 予想外の反応にスアラは勿論の事、ルーヴァも亜希の方に視線を向けた。

「……え?」
「……亜希?」
「……」

 少女も空気が変わったことに気づいたのか、その場で動きを止めている。
 三人の視線が集中した先で亜希は静かに口を開いた。

「あだ名っていうのは親しい人同士の間でつけるものよね」
「え、それはそうだけど」
「でも、私たちの間は親しいとは言えないのよ」
「ちょ、ちょっと亜希?」

 普段の亜希からは想像もつかないような言葉にスアラは狼狽えた。

「なぜなら」

 そこで亜希は一旦言葉を区切る。そして、顔を上げると強い口調でこう言った。

「……私あなたの名前を知らない!!」
「…………」
「…………」
「…………」

 どんな言葉が飛び出してくるのかと思っていたスアラとルーヴァと少女は、暫し無言で亜希を見つめていた。

「友達の名前を知らないなんてありえないでしょ!? 相手の名前なんて大前提もいいところよ!! だいたい、名前もわからないのにどう呼べばいいのよ。そりゃ、藤ちゃん(髪色)とかサイドちゃん(髪型)とか身体的特徴で呼ぶのもありだけど、やっぱり名前っていうのはその人個人を表す重要な要素であって(以下数行にわたり亜希の台詞が続くがスペースの関係で省略する)」

 熱心に力説する亜希を背景に少女がまた首を傾げる。

「……どうしちゃったのかな?」
「そのうち現実に戻ってくるからほっといても大丈夫よ」

 スアラは脱力しながら数分前にも誰かが言った台詞を返した。それから「まったく、変なところ真面目なんだから」と付け加える。自分のことは棚に上げておくようだ。
 その横で数分前にも同じようなことを言ったなと思いつつルーヴァが言う。

「そうだね。今回の終わりはたぶん――」

 そこで亜希とルーヴァの言葉が重なった。

「名前を教えて!」
「名前を教えて」


<完>



ここまで読んでいただきありがとうございました。
 
ちなみにこの最終話には別版(初期版)があったんですが、最終話の続きとして編集できそうなことに今回気づいたんで、冒頭部分を加筆したものを合わせて投稿してます。(他サイトに掲載済みにもかかわらず最終話の投稿が遅れたのはそのため)
よろしければそちらもどうぞ。
※今の終わり方も悪くないかなと思ってるんで、この話の完結の文字はそのままにしてます。
 


<余談>
亜希たち4人と担任以外のキャラは、長編小説には名前ありで登場しています。タピオカ専門店の店員たちは遅めで第5話以降ですが。
(黄色い猫? あ、あれはうん、例外です。うっかりとか後で気づいたとかそんな事はないですハイ

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