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ただしイケメンに限る

1月14日(火)

ショーケースからお菓子をひとつずつ選ぶように。
缶の中からクッキーを一枚ずつ剥がすように。
チョコレートから蜜だけを吸うように。
そうしていつも選び取ってきたのに、この問題には選択肢がない。それがスイーツ・ハラスメントである。

しゃんぶるぶらんしゅの相方・早乙女ぐりこからもその言葉が出て久しいが、私が今仕事に行く上で一番億劫なことがスイーツ問題だ。正直、くだらない。せめて、仕事の内容で悩みたいいや悩みたくもないけれど、どっちがましかって言ったら、そっちの方がましだ。

上司がお菓子が好きなのは昔からだった。
だけどある時から加速度的に“いつも”、“何かを”、“口に含んでいる”状態になり、それでアメの食べ過ぎで上あごの皮が荒れただの体重が増えただの、そんなことを遅々として進まない打合せの最中にもくもくとヨックモックを食べながらいつもいつも言われても、私には「そりゃそうでしょう」としか言いようがない。ついでに「ものを食べながら意見を交わすことが出来ないので、打ち合わせが進んでいないことにはお気づきですか」と言いたくなる。
いや、言えないからこそ、何かを食べている上司の横で私は味気ない下唇の内側をぎりぎりと食み、咀嚼音を聞く羽目になるのだった。私が聞きたいのは、このたたき台における次の叩き方だ。

あ、進捗報告よりおせんべいが先ですか。待ちますよ、待ちますとも。
割と仲がいいと思われる弊職場の休み明けは、お土産のお菓子でいっぱいだ。特に、年末年始は帰省イベントも多いから、他の長期休みよりもたっぷりとした宝の山が積まれる傾向にある。先輩たちの厚意と義理堅さに敬意と感謝を表しつつ、こんな時は、少しだけ恨めしくもある。

うんざりとした顔をする代わりに、こっそりスマホを起動してしれっとイケメン劇団員育成ゲームをプレイする。上司がお菓子を食べれば食べるほど、私のソシャゲプレイ時間が増えていく。

そしていつの間に席を立っていた上司は、戻ってくるなりこう言うのだ。
これ、半分食べない?

私を悩ませる争点はまさにここにある。シェア問題。
お菓子を食べるのが好きなくせに、コンビニスイーツや袋物のお菓子を買ってきては、毎度シェアを求められる。
いらない、と言ってもまともに取り合って貰えないのはわかっている。食べるしかない。特に、半生菓子であれば猶更。

なぜ、食べられる分だけを買って来ないのか。
なぜ、答えの決まっている問いを寄越すのか。
このふたつの理不尽が、ぐるぐると手を繋いで私の中を走り回る。
与えられるからといって、何かを献上させられるわけではない。ただただ純然とした、ひとつのお菓子のシェアなのだ。
わけがわからないよ、と言いたくなる。いや、言えないからこそ何かに導かれるがごとく、腹が減っていようといまいとバナナロールケーキを食べ、体を冷やしたくない日もプリンを食べ、カフェインやチョコを控えたいような日でもリキュール入りガトーショコラを食すのだ。

女性あるいは私個人がいつでもお菓子を食べたいと思っているとしたらそれは間違いだし、「食べたい」って言うとはしたないから言わないけど食べたいとか、そんな裏側もない。
おなかの調子が悪いといって断る日もあるけれど、そういうことを口に出すと私は本当におなかが痛くなってきたりするし、元気のない様を装う必要があるので、なるべくこの手段は使いたくない。

私はきっと明日も、何がしかのお菓子を食べることになるだろう。
ああ、今からいらいらする。いっそ、明日出てくるお菓子を当てたらいいことがあるとか、そういうイベントにして凌ごうか。

まあ、だけど、憧れている先輩たち(別にイケメンではないし、そもそも恋愛感情的な憧れではない)がくれるものは素焼きアーモンドだろうがミルキーだろうがホワイトロリータだろうが(私はホワイトチョコが苦手)ミレービスケットだろうがようかんだろうが何だって嬉しいので、要は「ただしイケメンに限る」ってやつなんだよなあ、と最大の理不尽を前に矛を収めることにする。

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