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【阪急阪神百貨店】”共感”を呼ぶストーリー、未来の足音が聞こえた13日間

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株式会社阪急阪神百貨店 OMO販売推進部 ストアプロモーション推進部
マネージャー企画担当兼サステナビリティ担当 山下 達也氏(左)
株式会社ヘラルボニー アカウントシニアマネージャー 新井博文(右)

「異彩を、放て。」をミッションに掲げるヘラルボニーは、この世界を隔てる先入観や常識というボーダーを超えるべく、福祉を起点に新たな文化を日々創り出しています。今回ご紹介する取り組みは、阪急うめだ本店とコラボレーションし、2022年10月に開催したヘラルボニー最大規模のイベント「ヘラルボニーアートコレクション」です。ヘラルボニーのミッションやビジョンに共感し、阪急うめだ本店の全館イベント「HARMONY FOR THE SMILE」の象徴的な存在としてヘラルボニーを据え、スペシャルコンテンツとして開催されました。
なぜヘラルボニーにお声がけいただいたのか、またコラボレーションの成功の秘訣を株式会社阪急阪神百貨店 山下氏と当社担当者 新井に聞きました。

まずは担当社員の共感を呼ぶため、あえて “遠回り”で

ーまずはじめに、ヘラルボニーにお声がけいただいたきっかけを教えてください。
山下氏:
阪急阪神百貨店の旗艦店である阪急うめだ本店では、2018年からサステナビリティの取り組みに注力し、毎年6月と10月の年2回キャンペーンを行ってきました。これまで地球環境にフォーカスした取り組みが多かったのですが、我々としてもさらに次のフェーズに進みたいという思いがあり、人の未来にフォーカスしたテーマに決めました。ただ、テーマは決められるものの、テーマに基づいたコンテンツを開発することに課題意識があり、どこかの企業様としっかりタッグを組んでいく必要性を痛感していました。ヘラルボニー 松田代表のお話を聞いて、我々が提供したいことと親和性が非常に高いと率直に感じました。ヘラルボニーさんとであれば、お客様に素晴らしい価値をお届けできると思い、お声かけさせてもらいました。

新井:今回のお取り組みで、阪急うめだ本店の約90坪の9階祝祭広場を活用させていただけると聞いた時には、あまりの規模の大きさに正直最初はリアリティがありませんでした。私たちがこれまで取り組んできたイベントでいうと、ほとんどがフロアの一部を利用したポップアップストアだったからです。全フロアを活用した空間作りや売上、集客に対して正直不安がありましたが、お声かけいただいたからには一生懸命やっていこうという思いでした。
もし仮に、阪急うめだ様から「ポップアップストアだけ設置してほしい」というご要望があったとしたら、難しかったかもしれません。当初から出店だけではなく、阪急うめだ本店全館とコラボさせてほしいというお声かけだったので、大きな胸をお借りしてチャレンジすることができました。共に新たな階段を昇っていけたらという思いでした。


ー今回のお取り組みでは、ポップアップストアだけでなく、コンコースウィンドーでのアート作品の展示や他ブランドとのコラボレーションも行いました。これまでもそのような全館あげてのコラボレーション事例はあったのでしょうか?

山下氏:これまでも世界的な有名キャラクターやクリスマスなどの大型キャンペーンで、祝祭広場やうめだギャラリー、コンコースのウィンドーを用いた事例はあったものの、どうしても各階とのコラボレーションができないことに課題感を持っていました。ただ、ヘラルボニーさんにはアート作品をプロダクトに転用できる強みがあります。そこで、百貨店である我々が最も差別化できるポイントとしては、各ブランドとのコラボレーションではないかと考えました。結果、弊社の総勢約100名のバイヤーが各ブランドにこの取り組みのビジョンを伝え、交渉しました。

新井:各ブランドにコラボレーションのご依頼をする際にも、まずはバイヤーのみなさんの心を動かしたいと話していましたよね。前例のない取り組みだったので、踏むべきステップをしっかり捉え、良い意味で遠回りして推進することができたと思います。

山下氏:取引先の前にまずバイヤーの共感を呼ばないと最高のプロダクトは作れないという想いで、そこには特にこだわりました。

新井:社員のみなさんに火がついたことが大きかったですね。

山下氏:例えばですが、有名キャラクターで何か商品を作ろうとすると、事業性があるから動きやすい面があります。当時、ヘラルボニーさんを知っている社員は正直いませんでしたが、そのビジョンに共感して動いてくれる社員が多くいました。

新井:バイヤーやバックオフィスの方々が会期中に来てくださり、自分たちが取り組んだものを感慨深そうに見ていらっしゃったのが印象的でした。
ヘラルボニーは、既存のプロダクトやサービスを使って面白いことができそう、と初めからゴール設定いただくことは多いのですが、そのプロセスを共に創り出していくことに本来強みを持った会社だと考えています。だからこそ、ただコンコースウィンドーにアートを掲載して終わりという取り組みではなく、我々の想いを伝えるにはどうすれば良いのかというところからご一緒できたことがありがたかったです。

最終的に6社8ブランドとのコラボレーション商品が登場した。
写真はfamiliarとコラボした阪急限定デニムバッグ。

大切なのはストーリー、ありのままを伝えるために

ー共に前例のない取り組みだったと言うことですが、成功させられた要因は何だと思いますか?

山下氏:毎週定例会議を行う上で、どんな課題が出てきても納得のいくまで議論し、解決策を共に見出せたことかなと思います。ただ、一番思うのは、新井さんのようなナイスガイなグッドパートナーと仕事できたことでしょうか(笑)。

新井:それはこっちのセリフです(笑)。山下さんともう一名、キックオフから最後まで伴走いただいた近藤さんも率直に包み隠さずお話しいただけたことが大きかったです。課題も抽象的でスタートはパッション先行でしたがビジョンも。なのでお互いに、何ができるか、ではなく、何をするべきかでお話しできたことが、関係性を土台とした素晴らしいプロジェクトに昇華できたと思っています。


ー阪急うめだ本店だけでなく、合わせてECサイトもオープンしていました。その狙いを教えてください。

山下氏:このキャンペーンで共感を呼びたいという原点に立ち返った際、会期中に店舗に来られない方々がいることを考え、日本全国に届けるためにはECサイトが不可欠だと判断しました。

新井:共感を呼ぶためにはいきなりECサイトを表示するのではなく、まず最初にテーマをしっかり訴求するようにしました。購買率だけを考えると、例えばSNSを見ていたお客様がすぐにECサイトに飛べる方が効果的です。でも、我々が本当にやりたいのはテーマを伝えた上で心を動かし、共感してもらった上で購買につなげることでした。Webではなるべく要素を削ぎ落としていくことが求められるように思いますが、ただ売上を優先するだけではなく、想いを届けるために細かな導線作りまで一緒に進めていきました。

山下氏:ECサイトに限った話ではないですが、今回の取り組みでヘラルボニーと一緒にストーリーを作ることができたと感じています。
例えば店舗でも、ただ単に商品を並べるのではなく、ストーリーを前面に押し出した空間作りを心がけました。松田副代表が小学生の時に書いた、障害がある人々に対する周囲の視線に疑問を投げかけた当時の作文を大きなパネルにして掲示したり、会期中毎日実施したアートクルーズも重要な手法の1つになったと思います。

実際に会場に展示されたパネル

新井:また、今回は初めてポップアップストアの中に作家のアトリエを作らせてもらいました。ライブペインティングを行うという手法もありますが、アトリエを用意したことで、作家のありのままの姿をお伝えし、異彩を届けたいという想いがありました。障害のある作家にお越しいただくということもあり、本人の行動は日によってさまざまです。

例えば、アトリエに来てもアートを描かない日もありましたし、向かっている途中に公園に行ってしまった日もありました。でもこれらは全てが作家の表現方法なのだと考えています。絵を描くということはあくまで1つの手法にすぎない、アトリエを通して作家のありのままを見てもらうことがヘラルボニーが皆さんにお届けしたことでした。アトリエに来なくても、アトリエでアートを描かなくても、それが「アリ」で、面白さだと感じていただけたらと考えました。

阪急うめだ様の大きな胸をお借りできたからこそ、このような本質的な取り組みになったと思います。


3,000点以上の購入実績、成功の秘訣は?

ー「ヘラルボニーアートコレクション」を経て、実際の反応はいかがでしたか?

山下氏:3,000点以上購入いただき、これほど多くのお客様に価値提供できたことを非常に嬉しく思います。購入いただいたお客様の割合としては、ヘラルボニーのファンという方と全く知らない方それぞれ半々という形だったように思います。3,000点以上というのは我々としても大きな反響でした。

新井:キャンペーン開始前の最後の定例会議の際、「売って欲しいという気持ちはあるけれど、想いをしっかり伝えていけば絶対大丈夫。数字は必ず後からついてくると思う」と山下さんから声をかけてもらったのが印象に残っています。そのような想いでいてくださったからこそ、実際に良い数字も出せ、素晴らしいコラボレーションになったのだと思います。


ー障害あるなしに関わらず皆が入り混じる世界、そしてありのままを伝えられる場所というものを13日間で創れたと思います。テーマ「HARMONY FOR THE SMILE」は達成できたと思いますか?

山下氏:伝えるということを一番に考えて営業した結果、その想いがお客様に通じたと思います。ヘラルボニーの持つストーリーや世界観を大切にすることがこの取り組みでは何よりも大切だと思っていたので、社内でもそのように伝えていました。

このようなキャンペーンをどのような指標で測るべきか、まだはっきりと見出せていないものの、確実に多くの方の笑顔に繋がりました。それはお客様だけでなく、作家さんやそのご家族、我々社員もです。目に見えて皆が笑顔になれる取り組みに携わることができ非常に光栄です。

新井:最終日に会場の撤収作業を終了させてから、最後の終礼を行いました。皆テンションが上がっていて、「本当に楽しかったね」「やりきったね」と話していたのですが、当社の代表が「発表します、来年も阪急うめだ様とお取り組みします」と言った瞬間、急にシーンと静寂が訪れました(笑)。決して悪い意味ではなく、自分たちが表現できる全てを出し切ったという気持ちがこの時全員に共通していたのだと思います。この感覚は、我々スタートアップとしては非常に大きなステップでした。


ー最後に、今後両社でどのような未来を作っていきたいと考えていますか?

山下:我々であればできないことはないと思うし、様々なフィールドであらゆる取り組みができると信じています。これからの道のりも大変なことがあるとは思いますが、当社の調和した未来を構築するというビジョンと、ヘラルボニーさんの “障害” のイメージを変えたいというビジョンが合致しているので、これからのコラボレーションにも期待しています。

新井:今回の取り組みで得られた最も大きな成果は、これからも共に歩んで行こうと思えたことだと考えています。来年もポップアップストアを任せたいというような単発的なものではなく、中長期的に一緒にできることが確実にあるというのは大きいです。遠い未来を見ながら、阪急うめだ様とヘラルボニーで引き続き一歩一歩、歩みを進めていければと思います。


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