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Windows2016.11

先の米国大統領選挙については、知的レベルの高い方々が、様々に論じていらっしゃるけれど、私は先日、間違いなく、日本で最もレベルの低い議論をした自信があるので、ここに披露します。

私は、かなり前に「Windows2016」という記事を書いた。「Windows2016」とは、私たち女子社員が呼ぶところの「2016年時点で、会社の窓際族(死語)であるおじさんたち」のこと。まあ、なんて口が悪いの!ってことなのですが、高い役職に就いているおじさん、つまりはNon-Windowsの中にも嫌われ者はいるし、女子社員に人気が高いWindowsもいる。つまりはWindowsの中にも、良いWindowsと悪いWindowsがいるわけで、今回は勿論、悪いWindowsが登場です。

その日、私は仕事の為、会社の懇親会に少し遅れて参加をした。ドアを開けた途端、エアーポケットのように、とある悪いWindowsの隣だけがぽっかりと空いていることに絶望したが、私は何喰わぬ顔でエアーポケットに着席した。偉いなお前!と自分で自分を誉めたいくらいのスムーズさでもって、「お隣、よろしいですか?」と、Windowsに笑顔でお伺いすら立てて、若者からグラスを受け取った。が、ビールの泡がグラスの上端に到達する前に、そのWindowsは、私に大きなダミ声で問いかけてきた。

「あなたはどう思うわけ?トランプ」と―――若者数名とバチバチと視線が交差する。「あら、トランプの話をしてたんですね」と涼しい声で言ってみたものの、どうしよう、私としたことが、この問題については、「ヒラリーおばさんとトランプおじさんが争って、トランプおじさんが勝ったらしい」という、頭の悪い小学生レベルのことしか知らない。しかし、Windowsの次の言葉で、その焦りは杞憂であることを知った。

「あの髪型はねぇと思わねぇ?」―――あ、それ系ね!それなら分かるわ私、と思い、「あれはすっごいですよねぇ!あのファイバー感、小学生の時に行った、飴細工の工場かなんかで見た時以来の質感ですよ。でも本人は、あれがいいと思ってるわけですよねえ、不思議ですね」と言ってみた。これは絶対に話が弾むはずだという空気の中、Windowsは、難しい顔でこちらを見ている。「ちょっと待ってあなた、トランプが、自身のあの髪型を気に入ってるとでも?」と。「自身の」って……。ああやっぱりこのエアーポケットは地獄への入口じゃないか、そう悟った私は、いっそのこと今日は地獄を覗き見てみようと決意し、気持ち強めにビールグラスを置いてこう返した。

「え?気に入ってないんですか?」「気に入ってないだろう、あんな髪型をよしとするヤツいるかよぉ」と挑みかかって来るWindowsに対し、私は冷静に返す。「彼が自身の髪型を気に入っているであろう理由はいくつかありますね。まず、こんな極東のこんな国のこんな小さな懇親会の場ですら話題になるほどの変わった髪型ですよ。要するに世界中の人が違和感を覚えているのに、彼はあの髪型なんです。その事実こそが、少なくとも全世界で彼だけは、自身の髪型を気に入っている、他ならぬ証拠と言えましょう?」……なんか自分でもよくわからないが、言い切ってみた。

「ほほう。その他には?」とメゲないWindows。「もしも彼の髪質が、仕上がりああなるしかない絶望的なものであったとしても、五番街にあんな金ピカなトランプタワーを所有しているトランプですよ。NY一の、いえ、全米一の、いえ、何なら世界一のカリスマ美容師に唯一無二のカット技術を駆使させ、ロレアルに唯一無二のスタイリング剤を開発させ、ダイソンに唯一無二のドライヤーを開発させれば、絶対に素敵になるはずなんです。でも、仕上がりはあれ。多分、私に言われなくっても、すでに全米一のカリスマ美容師がついてますって。だから、あれがベスト・スタイリングなんですってば。The best。his best。つまりは、彼は彼の髪型を気に入っているんです」
キマッた!古畑任三郎みたい。

一瞬黙ったWindows。もう勝利してしまったのかしら?そう思った私に、Windowsは全く違う切り口をぶつけてきた。「大体さ、トランプタワーって、ほんとに金ピカなのかね?」「え……」「言うほどでもねえんじゃねえ?」「私、NYでトランプタワーの中に入ったことありますけど、実際に金ピカでしたよ。あのファイバー感満載の髪の毛より金ピカでしたね実際」「マー君が住んでるとか?」「住んでませーん。フジテレビが正式に謝罪しました」こうなったら全部答えてやる!段々ヒートアップする私、黙るWindows。

「ヒラリー、あれは気が強いけど、なかなかいい女だ」――これはいっそのこと、沈黙してみた。「そう言えば、モニカって女いましたね」と言うのを必死にこらえて。周りの皆も沈黙していた。沈黙だけが、唯一の勝利なのだと、エアーポケットのふちで、私は悟った。疲れた。

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