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<包み紙をたためる>ということ

かつて連載を担当していた俳優Aさん。Aさんがデビュー時、まだ私も駆け出しというか超生意気だった頃、撮影を見て「この人はくる!」と、とにかく上がった。腰の位置は低めでお尻の幅が広く、完璧なモデル体型ではない。だが、とにかく魅力的だった。お決まりのポージングでなく、自由に「動ける」のだ。写真なのに生き生きしている。「同性に好かれる」と直感した。

当時の勘が当たり、押しも押されぬ存在になった頃、ご縁があって連載を担当することになった。手間とコストがかかる撮影は数カ月に1回、インタビューは毎月というスケジュールだ。

ある撮影時。昼時にかかるので、ケータリングを入れることになった。予算はなかったが、知り合いの編集者に、野菜たっぷりでお魚も選べる、味付けも和・洋と豊富、お値段も非常に良心的なお弁当屋さんを教えてもらった。

時間になって入室したAさんに恐る恐るお弁当の種類を説明すると、「わぁすごい! どれもおいしそうですね。ありがとうございます!」と弾んだ声で喜んでくれた。そして撮影終了時、「余ってるんだったら、夕飯用に持って帰っていいですか?」と、いくつか残っているお弁当から1つをチョイス。「すごいヘルシーでしかもおいしかった」と一言添えて。

差し入れは、スタッフさんに行き渡らないのが一番まずいので、少し多めに用意するのが鉄則だ。余った際、袋入りのお菓子やペットボトルの飲み物など持ち帰りやすい物はすぐ売れるが、お弁当など賞味期限が近いものは残りがち。そういう意味で、「夕飯に食べる」と言ってくれたAさんの心遣いはとてもありがたかった。何より、華やかな芸能界のど真ん中にいて、美味しいものをたくさん食べ飲みしてるだろうに、800円ほどのお弁当を本当に気に入ってくれたのに驚いた。庶民的なのだ。

また、あるときは、地方の名産のせんべいを差し入れたのだが、「開けていいですか?」にはじまり、取材終了時には、「じゃあまた来月」と笑顔を見せながら包み紙を丁寧に折りたたんでいた。

タレントがずっと同じ状況で売れ続けることは、本当に難しい。お店だってずっと続くのはわずかだと思うが、それと同じだ。だがAさんは今も第一線にいる。業界にいる限り、結果はもちろん大事だ。でも「この人はいい人だな」「また仕事をしたいな」と思わせる人間力は、改めて大事だと思った。人は、心で動く。そしてそれは、本当に細部に現れる。

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