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【表現】消えてしまった文字たち

最近の文字はとにかく消えやすい。

昔、文字というものは消えないものだった。
文字の原初である岩に刻みつけられた印や記号。植物や皮や石に鉛で書きつけられた文字。
昔の文字は、筆記される媒体と不可分のものだった。文字を消すことは、それが書きつけられたモノを壊すことであり、文字通り破壊的な行為だった。
でも、いつしか、文字は簡単に消えるようになった。書きつけられる媒体と、書いた本人である僕たちを置き去りにして。
破壊的だった行為は、静かな離別へと姿を変えた。

文字が文字だけで消えるようになったのは、500年くらい前、鉛筆が誕生したころだろうか。かつては指や布、パンくずで文字は消されていたんだろう。
それから500年、文字を消す技術は格段に進歩した。
僕らがパソコンやスマホに打ち込んだ文字は、物理/仮想キーボードをクリック/タップするだけで、たやすく消えていく。
この短い文章が書かれる間にも、たくさんの文字たちが消えていった。

僕たちは、いくつの文字を消してきたんだろう? 消えてしまった文字たちは、どこへ行ったんだろう?
消えてしまった文字たちが、どこか僕らの知らない場所で幸せに過ごしているといい。
願わくば、消えてしまった文字たちが一つずつ寄り添い合って、僕らが思いもよらない意味合いを持つ、思いもよらない文や文章になっていてほしい。
そうして形作られた言葉が、いつかそれとは分からない形で僕らの元にもう一度戻ってきてくれたら嬉しい。
そうしたら、今度はもっと大切にしてあげられるはずだから。

今度作る本の構成が定まらず、企画書を書いては消し書いては消ししている男より。

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