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本ができるまで(物理)

先日、ひょんなことから製本工場を見学させていただく機会に恵まれた。
出版社勤めとは言え、うちは小さな会社だし、最近はデータのやりとりだけで事が済んでしまうので、実際に本ができる現場を見られるチャンスは意外と無い。

社長や50代の先輩などは、昔は大きな紙に何ページ分も印刷されたのが直接届いたから、自分で折って切って、ページに間違いがないか確認したもんだ、今の編集作業はずいぶん楽になったとしみじみ教えてくれた。

本は、ほとんどが16ページの倍数で作られている。これは、16ページ(もしくは32ページのことも)分をまとめて大きな紙に規則的に配置して印刷(面付け)、刷り上がったら折って、袋になる部分を切って作られているから。この折った紙のことを折丁と呼び、だいたいは16ページで1折。これを並べて1折2折3折……と重ねて本になる。
最近は折を並べる段階まで終えてから印刷会社さんなり製本会社さんなりが持ってきてくれるので、誤字脱字の最終チェックくらいで済んでいる。

さて、そんな数少ない「本ができるまでを見られるチャンス」だったので、誘っていただき二つ返事で喜び勇んで工場にお邪魔してきた。

裁断工程の調整の細かさと刃の鋭さとデカさにビビり(私たぶんウトウトして指落とす)、

紙の折り機のスピード感、その後まとめて端っこを落としてきれいな本になって流れていく様や、スピン(リボン上についてるしおり)をくっつけて挟む工程や、背を角にピッチリしたり特殊な工程で丸くしたりする工程に心躍らせ、

特殊印刷用のレーザーでの切り抜きなども見せていただけて、もう正直、ものすごくはしゃいだ。

お世話になっているデザイナーさんご一家とご一緒させていただいたのだけど、小学4年生の息子さんが静かに淡々と見学している中、私とデザイナーさんは大喜びでキャッキャしていた。

社会見学って、絶対大人になってからやったほうが楽しいよね。

できたてほやほやのあたたかい本を触らせていただいて、やっぱり紙の本が好きだなあ、としみじみ思った。

知りたい情報はネットで検索すればすぐ出てくるし、

エンターテインメントが欲しければ動画サイトでいくらでも映画もドラマもアニメも見られる。

そんな中で、本の役割って何だろう、と考えることがある。

スピード社会で情報を提供するには、どうしても動画などと比べると一周遅れになってしまう。

けれど、そういった目まぐるしい世界から少し離れて、じっくり考察したり、別の世界に浸りたいときには、本は最適な友なんじゃないかな。

ただ流れてくる情報を受けるだけのテレビなどとは違って、
ページをめくるのも文字を追うのも全部自分のペースでできる。

それぞれの媒体にそれぞれの良さがある。

本も電子版が主流になりつつあるけれど、ゆっくり紙の厚みと重みを感じながら、一枚一枚ページをめくる喜びも、ときどき味わっていただけたらいいな、なんてセンチメンタルなことを思った日だった。

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