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中学の英語教材は実に緻密に作られている

私たちが作る英語の教材は,小学生向け,中学生向け,高校生向け,社会人向けなど様々です。

中でもいちばん制作に気を使うのは,中学生向けの教材。
一概には言えませんが,中学の英語教材は本当に手間ひまがかかっています。

なぜか。

それは… 単語の未習語・既習語という概念です。


教材は原則として既習語で作る

中学の教科書では,各ページの本文で初登場する語を新出語として学習しますよね。(単語テストで出題されるやつです)

この新出語は学習した時点で既習語として扱われ,そこで初めて教材で使用できる単語となります。
未習語は文字通り,まだ学習していない語。

英語の教材では,原則として既習語のみを使ってオリジナルの問題を作成しています。

これはどういうことか…

中学1年1学期で使用する教材は,使用できる単語が非常に少ないということです。中学3年3学期に向けて,段々と既習語が増えていきます。

…そしてこれは文法についても同様のことが言えます。
(中1ではwillやbe going toを習わないことが多いので,未来を語れない!)

英語教材の編集を始めて日が浅い頃,私はこう思っていました。

「使用できる単語や文法が限られているほうが,作問しやすいから楽なのでは…?」

答えは否。

良質な英語教材に求められるものは,限られた条件下でいかにバリエーション豊かな問題演習をさせることができるか,でした。

また,オリジナルで書き下ろす長文読解においては,トピックやストーリーがありきたりなものにならないよう,いかに工夫して構成をするか。
未習語をやむなく使う場合は語注を出しますが,語注の多い長文は読みにくくなります。

結果的に,執筆者はなるべく既習語だけを使って作成し,校正者は単語を一つ一つチェックして未習語に赤字を入れることになります。

校正ゲラは初校,再校,三校と厳しいチェックを数回くぐり抜けて,ようやく完成に近づいていきますが,最後の印刷の間際,念のためにとる念校で未習語が見つかったら真っ青です。それは直前でうっかり差し替えていた一文だったりします。

教材の多くは教科書別に作る

新出語や新出文法は,本文で登場する順番なので,当然教科書によって異なります。

英語の教科書は,いわゆる検定教科書(文科省で認定されているもの)だけでも2022年現在で6社あります(東京書籍「New Horizon」,開隆堂出版「Sunshine」,三省堂「New Crown」,光村図書「Here We Go」,啓林館「Blue Sky」,教育出版「One World」)。

いずれかの教科書に特化して作られた教材を,準拠教材と呼ぶことがあります。
例えば,New Horizonを使っている生徒が使用する教材として,New Horizon準拠の教材を作るわけです。

この場合は,制作期間中はNew Horizonとずっとにらめっこ状態で,校正ゲラの中に未習語が潜んでいないか,一単語ずつ教科書の巻末単語リストを参照してチェックします。
(実際には独自の検索ツールなどを使用して効率的に単語チェックをしますが,緻密な作業であることには変わりありません)

このように,準拠教材は緻密な作業が要求されますが,さらに難易度の高い教材が存在します。

それは,複数の会社の教科書で共通する単語を既習語として扱う,いわゆる標準版共通版というものです。

中には,主要4社の共通単語で作成しなければならない,という大変厳しいルールも存在します。

そんなこんなで,制約だらけの中学教材。

新学期の4月に学校やユーザー様のお手元に届くその1冊は,およそ1年かけて実に緻密に作られた,編集者の血と汗の結晶なのです。

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