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大切なのは、難しいパズルを解き続ける覚悟。電子カルテ「Henry」を通じて”医療課題の本丸”に切り込む開発チームの話

「医療系プロダクトの難しさから逃げない」

これは、クラウド型電子カルテ・レセプトシステム「Henry」を開発するヘンリー社がこれまでたびたび表明してきたスタンスです。

ではその難しさを作っている原因はどこにあるのか、そしてHenryの開発現場ではその難しさを乗り越えるために日々どのような努力が重ねられているのか。プロダクト開発に携わるエンジニア二人へのインタビューを通じて、Henryが解こうとしている高難易度のパズルの全貌について掘り下げてみました。

インタビュー話者

坂口 諒:家具屋での販売員、金融関係のSEを経て、前職のウォンテッドリー株式会社ではアプリエンジニアとして働く。2020年にヘンリー入社。ドクターが診療記録や投薬の指示書を書くインターフェイスの開発を主に担当している。

縣 直道:慶應大学理工学部で情報工学を修了後、ウォンテッドリー株式会社でバックエンドエンジニアとして機械学習やデータ分析を担当。2021年にヘンリー入社。診療行為を元に診療報酬の計算を行うシステムであるレセコンの開発を主に担当している。

外側からは見えづらい医療の現状

ーー まったくの別業界からヘンリーにジョインしたお二人ですが、医療の現場が抱える課題について入社前から興味があったのでしょうか。

坂口:正直、僕は医療について大きく関心を持っていたわけではありませんでしたし、もちろん電子カルテとレセコンの違いなんて入社前には知りませんでした。ただ、ITの恩恵が染み渡っていない領域をITの力で大きく前進させる手助けをしたいという思いがずっとあったんです。

共同CEOの逆さん(逆瀬川)は僕らの前職であるウォンテッドリー時代からのつながりですが、かねてから「社会にとっていいことをビジネスとして成立させる」ことに関心を持っていた人だったので、医療分野のDXに挑戦すると聞いて面白そうなことを始めたなと思いました。

縣:僕も入社前の医療に関するドメイン知識はほぼゼロだったのですが、複雑そうな業界だというぼんやりとしたイメージがあったので、そこにあえて挑戦する逆さんの胆力はさすがだなと思いましたね。ちょうど僕自身もなるべく世の中の幅広い人に価値を提供できて、かつ持続可能なビジネスに携わりたいと思っていたタイミングだったので、ヘンリーの選んだ挑戦はど真ん中でした。

ーー 医療DX、中でも電子カルテが世の中に生み出す価値とはどんなものなのでしょうか。

坂口:これは自分がヘンリーに加わって初めて知ったことなのですが、病院って意外に赤字経営なんです。で、実際に病院のバックヤードにある本棚をみてみると、『ハード・シングス』などWeb系のスタートアップ企業で読まれるような経営についての本がたくさんある。 そういう一面を見て、「お医者さんもまた“経営者”である」という学びを得ました。

もちろんお医者さんも赤字経営をなんとかしたいと思っていて、生産性をあげるための余白がどこにあるか日々考えています。ただ、電子カルテは一般的に高価なのでなかなか中小病院の現場にまで浸透していないという問題がある。だからもしこれまでツールの恩恵に授かることができなかった病院にも手が届く価格帯で電子カルテを提供できれば、地域医療の抱えた問題が一気に前進すると思っています。

縣:保険診療である限り患者さんからもらうお金は変えられないですから、売上をあげる余地が大きくない中で、赤字経営を脱するためには生産性を上げるしかない。そして医療現場のワークフローのど真ん中にあるのがカルテであり、あらゆる業務コミュニケーションがカルテを起点として行われるので、電子カルテの導入は“生産性向上の一丁目一番地”なんですよね。

坂口:たとえば患者さんのレントゲン写真を撮るときに、お医者さんが放射線技師への指示を電子カルテ上で行ったり、患者さんの記録を書いて、その記録にコメントをしたり、そしてもちろん診療報酬のデータをもとに会計をしたり…… そうしたデータの一元管理ができるという意味で、電子カルテにはCRMツールみたいな側面もあると思います。

ーー Henryがレセコンも兼ねた電子カルテであるのは、そういった業務に必要な機能のすべてを網羅するという意思の現れでしょうか。

「全部やる」という覚悟を語る縣さん

縣:まさしく、「全部やる」という覚悟があるからこそ、電子カルテとしては後発のプレイヤーでもなんとか戦えているのだと思います。その裏には、レセコンには20年近く新規のプレーヤーがいないという事実もあります。そこにHenryは新しい風を吹き込もうとしているのかな。

たとえばワークフローの一部に電子システムを導入できていても、部分的に紙も織り交ぜた煩雑な運用が続いているのが医療現場の現状です。先生は紙でカルテを書いて、会計はシステムで…… これをワンストップで簡単にできるように、ツール側にも進化が求められています。

医療現場の複雑なパズルをどう解くか

ーー 「全部やる」という覚悟は、裏を返せば複雑なワークフローをプロダクトに落とし込む開発難易度を引き受けるということでもありますよね。実際にお二人がHenryの開発を通じて直面した一番の難しさはなんでしたか。

縣:レセコンを作っている人間としては、お医者さんが日々診療行為に用いているカルテの裏側には、ものすごく複雑な会計の仕組みがあり、それを考慮した上で電子カルテという「表の世界」を作らなくてはいけないということが一番難しいポイントですね。プロダクト開発の観点からみて、医療会計はルールブックに書いてある通りに実装すれば良いような単純なものではないんです。

坂口:ルールブックをいかに解釈するかが重要で、ルールが曖昧な領域をプロダクトで線引きしなくてはいけないんですよね。

縣:さらに、医療会計のルールは2年に一度必ず改定があるので、診療報酬のシステムが直列になりすぎないようにあえて分離してレセコンに実装しています。その上でプロダクト上での協調はさせないといけないという難しさがある。

ーー 曖昧なルールを解釈するという、本来なら人間が請け負っていた部分の判断をプロダクト側で行うということですね。さらに裏側ですごく難しいことをしながら、電子カルテの表側ではそれをシンプルに見せなくてはいけないと。

坂口:他にも難しいところでいうと、ユーザビリティーの高い電子カルテを作るには、病院の現場におけるワークフローを知ることが必要で、そこにも病院特有の習慣が介在するから一筋縄にはいかないんですよね。

縣:まさしく、医療会計のルールを医療現場の特異なワークフローとセットで解釈してプロダクトに落とし込まなくてはいけない。その解釈の仕方にクリエイティビティが求められるんだな、というのがヘンリーに入社して得た大きな気づきです。

ーー 医療現場のワークフローの特異性とは、例えばどんなところにあるのでしょうか。

縣:ドクター/看護師/医療事務のコミュニケーションの粒度がバラバラで、同じ職場で働いていても各々が自分の慣れ親しんだ方法に則して業務を行なっているためコストがかさんでしまうことです。

たとえばドクターや看護師のオペレーションでは診療報酬のルールまで考えることなく患者さんにとって必要な処置を考えていたい。その一方で、医療事務のオペレーションでは国の定めるルールのもとドクターの診療行為を会計に落とし込まなくてはいけない。こういった風に、それぞれのロールが参照しているプロトコルが異なるので連携がうまくいかない局面が生まれてしまいます。

そこでたとえ全てのロールに携わる人が医事(=医療事務)会計の知識を持っていなくても、ドクターがこの薬を出したいという、院内薬局の人がそれを見て薬を決める、それを割り振る人がいる、作業して完了をチェックする人がいる…… これらのロール間におけるプロトコルの差異を乗り越える調整をプロダクトの方でしてしまおうというのがHenryの思想です。

坂口:そもそもドクターがカルテに走り書きした字が読めなかったりもしますからね。 今Henryが取り組んでいるのは医療事務の負荷軽減ですが、目指す先では看護師のオペレーション量を減らすまで実現したいと思っています。

ドメインの壁を超えて、「世界にとっていいもの」を作り続けるために

ーー 医療系プロダクトという難しいドメインに身を置くことにより実現する、エンジニアとしての成長可能性はどんなところにあると思いますか。

縣:電子カルテの開発にはつねに「ドメインを深く理解した上で、ちゃんと使えるものを作る」ことが求められるので、複雑なもののモデリング経験が得られると思います。

技術そのものよりも、ドメイン理解の方に難易度の比重があるというか、「あとは実装するだけ」までの状態に持っていくのが常に大変ですね。もちろんそれだけ複雑なものを実装していくにあたっては技術面での困難もありますが、そこに関してはある程度自信を持てる開発メンバーが集っているという前提はあります。

ーー 元々ドメイン知識を元々持ち合わせていなかったお二人が、その難しさを乗り越えてプロダクト開発に向き合い続けられるのは、ヘンリーの組織文化によるところなのでしょうか。

ドメインの理解について語る坂口さん

坂口:そうですね。ドメイン理解については、エンジニアチームの中に医療一筋でやってきている知恵袋みたいなメンバーがいて、その人を中心に医療に関する勉強会を頻繁に行なっています。ただ、いかにもお勉強的な堅苦しいものだけでなく、そこで得た知識をもとに「Henryはこれからどんなプロダクトであるべきか」というロードマップ構想のための意見交換の機会もたくさんある。

だからかつての僕たちのようなドメイン知識のないメンバーであっても、自ずと解像度が高まるし、目指すところの視線があっていくのだと思います。

縣:勉強しないと作れないものがあって、それを作ると世の中が良くなるとわかっている時に、それを勉強しようという意欲に満ちた人たちの集まりでいるところがヘンリーのユニークな点ですね。

ーー 世の中が良くなるという話題が上がりましたが、「ノーベル平和賞を目指す」という会社の目標についてエンジニアのお二人はどう受け止めていますか。

坂口:面白いのは、逆さんの中ではノーベル平和賞はあくまで中間目標なんですよね。全然知らない人が言ってたら「何言ってるんだこの人は」ってなってしまうかもしれないところですが、ソーシャルグッドな目的意識とそれをビジネスとして成立させるための勘所の2つをどちらも押さえたCEOたちが言うからこそ面白いし、ついていきたいと思うんです。

なんだか、必死でやってたら死ぬまでに実現しててもおかしくないなと思えるというか、僕自身大きな目標を掲げるに足るハッピーなプロダクトを作りたいと思っていますし、そういう意味でも面白いゴールだなと思っています。

縣:医療に限らず、「お金を稼ぎづらい・解決の難しい社会課題をビジネスとして持続可能な形で解決する」というのがヘンリーの存在意義なんですよね。

お金になりにくいのでこれまで積極的に手がつけられてこなかったけど、それを解決することで社会に大きなメリットを生み出せる領域は世の中にたくさんあって、そういう課題をあえてビジネスの形で解決していくことを連続的にやっていく集団でありたいです。

ーー では最後に、お二人が今後一緒に働きたいエンジニア像について教えてください。

坂口:難しいことに取り組み続けても深刻化しない人ですかね。難しいことを難しいまま捉えるというか、「難しいっすねこれ、難しいけどまあやりましょうよ」と軽いノリで捉えられるメンタルは大切な気がします。

縣:複雑なことをモデリングする設計力をベースに、自分のカバー範囲を広めにとれる人ですね。自分にはわからないことがあったときに「そこから先のことは考えておいてください。言われた通りに作るんで」では通用しないですし、ドメインの壁が分厚い分、それを自分から乗り越えて協調できるチームでありたいですね。

ヘンリー社オフサイトの様子


インタビュー:加勢 犬


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