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-田島貴男氏が焙りだしたGRAPEVINEの特質- Original Love Presents Love Jam Vol.8 20240121@Zepp DiverCity TOKYO

GRAPEVINEのライブを観に、「Original Love Presents Love Jam Vol.8」に足を運びました。

Love Jam Vol.8のフライヤー 素敵なデザインです

始めにお断りしなければならないのですが、Original Love主催の対バンライブなのですが、今の家庭の体制的に夜遅くまで観ることは難しいので、前半のGRAPEVINEのライブを観終えたら家に帰ることを決めていました。
後半のオリジナル・ラブのライブにはとても興味があるものの、大変申し訳ないのですがいつか観れる機会があることを願いつつ、会場を後にしました。ですのでここではバインのライブレポのみを書いています。
オリジナル・ラブの皆さんにこの場でお詫び申し上げます。。

昨年行われたAlmost thereのアルバムツアーには参加出来なかったので、
短時間のライブとはいえ結果的に最新作から7曲披露される形でアルバムの世界を堪能できたのは嬉しかったです。

今回のオリジナル・ラブ主催の公演は、17時開演という早めの開演時間であることが先ずありがたかったです。そしてオリジナル・ラブ主催ということでトップバッターはバインが出ることが分かっているのもありがたかった。加えて、過去のLove Jamを調べると必ず田島さんがゲストバンドのライブに入って演奏するというお楽しみがあるのも魅力的でした。

唯一残念だったのは、過去回ではライブ配信も行われていたのですが今回はそれが無かったことです。
「オリジナル・ラブのライブは生では見れないけど配信チケットを買って、後でアーカイブ配信でじっくり観よう!」
と思っていた目論見は外れてしまいました。。

Zepp DiverCityの入り口 寒空の下で入場待機・・

場所はZepp DiverCity。このライブハウスでGRAPEVINEを観るのは2016年のBABEL, BABELツアー以来でした。そのときの記憶を辿ると、Zepp DiverCityのスタンディングエリアはフロア中央と後方にそれぞれ段差があり、ステージが見やすかった覚えがありました。

今回のチケットの整理番号は300番代後半でしたが、運よくフロア中央の段差があるポール最前列に着くことができました。
下肢の調子があまり思わしくないので、ポールに身体を預けながら開演まで待つことができたのはありがたかったです。段差があるので視界を遮られずにステージ全体が眺められる最善のロケーションでした。

いざ開演 最新作を中心にしたパフォーマンス

定刻の17時になり、田島さんが一人でステージに登場してご挨拶。
2020年に田島さんがソロでPermanentsと共演した際に田中氏と声質がとてもよく合うと感じたこと、2022年のフジロックでGRAPEVINEのライブを観て共演に向けて動いたことなどを話してくださり、GRAPEVINEを呼び込んでくれました。

バンドメンバーが登場し、ニコニコ顔の田中氏がご機嫌に「Are you ready?」と呼び掛けて始まったのは「Ready to get started?」
爽快な幕開けでしたが、原曲よりもさらに歪みを効かせた骨太なギターサウンドが響き渡っていました。
間髪を入れずに鋭いギターカッティングで「Ub(You bet on it)」へ。田中氏のボーカルがとても伸びやかで、この曲のメロの良さを改めて実感します。

ここで少しMCが入りました。
「元々コロナ前にバインの対バンツアーでOriginal Loveと演る予定だったのが流れてしまったものの、今回こうしてOriginal Loveに呼んでもらえて嬉しい」といった話や、
「今回は対バンというよりも一ファンとして、オープニングアクトのつもりでやらせてもらいます」といったことを話していました。

そして「懐かしめの曲を・・」という紹介から始まったのは「Our song」
この曲は昨年2月から3月に行われたAnother Sky再現ライブの第2部でも演奏されていましたが、やはり季節柄選ばれやすい曲ですね。個人的にもかなり好きな曲なのでまた聴けて嬉しかったです。昨年の再現ライブではバンドを再開するにあたってかなり切迫感のある印象でしたが、この1年でバンド活動が軌道に乗ったことで滲み出る安心感や余裕のようなものを感じました。

Our Songが染み入ったのも束の間、田中氏が急にフラメンコのようなポーズを取りました。そして「お台場のアモーレ達よ」と呼びかけます。
バインリスナーならすぐに意図は分かるものの、果たしてバインを初めて見るOriginal Loveファンの方にはどう映ったのか気になるところですが、、
何はともあれ「実はもう熟れ」が始まりました。
間奏では「アモーレ~♪ あお~み~(青海)♪ ゆりかも〜め~♪」と続きました。実に気持ちよさそうでした。
演奏のほうは、メロを支える金戸さんのベースラインが非常に心地良かったです。一方で、サビは思ったよりもリズムが淡白な印象で、正直なところドラムの手数が少ない分、ビート感が少し物足りなく感じました。

続いては「The Long Bright Dark」。曲に入る冒頭、田中氏が艶やかなアカペラを響かせて歓声が上がっていたのが印象的で、楽曲の世界観をより色濃く装っていて非常に映えていました。

続いて披露されたのは「雀の子」。この曲は音圧が強めに出ておりサウンドのスケールが大きいですね。一方で、サビ部分は観ていて少し迫力に欠けていた印象があって、何が物足りなかったのかというと照明のような気がしています。たとえば「豚の皿」や「Core」で使われるようなフラッシュライトがサビで使われるとサウンドのスケール感も含めてより映えるんじゃないかと、個人的には思いました。また、サビ前で原曲には使われているオートチューンが入っていないように聴こえたのも、オカズとしては少し物足りない印象でした。

「雀の子」よりもさらにヘヴィに響いたのは「アマテラス」でした。
重厚なサウンド、オートチューンのようなボイスエフェクトも多様に入っていて、メロ部分の田中氏のフロウもよく映えていました。

GRAPEVINE with 田島貴男のセッションタイム

ここで田島さんをステージにお呼びしてセッションタイムに入りました。
何を演るのかと思ったら、「ねずみ浄土」のイントロが!
思わず歓声が上がります。
私は生で田島さんのパフォーマンスを見るのはこれが初めてだったのですが、思ったのは、田島さんという人は非常に独特なグルーヴを持っているんだな、ということです。
身体全体から発せられる田島さんのグルーヴが、この曲により一層の巨大な渦を巻き起こしていました。バインが起こしているグルーヴに、田島さんの放つ独特なグルーヴが交じり合い、また違う形の芳醇なグルーヴが生まれる。「ねずみ浄土」の中では、歌唱部分よりもむしろ間奏におけるソロパートで、大きな唸りを上げていました。

そして次に披露されたのは「ピカロ」。ここでは田島さんと田中氏の歌唱が重なり合い、非常に粘度の高い、濃厚な世界が生まれていました。この曲は2020年にビルボードで共演していた時にも演奏されていたので、田島さんとの相性の良さが際立つ名演でした。終盤のギターソロも田島さんのバッキングが冴え渡っており、熱量の高い素晴らしい瞬間が何度も訪れていました。

田島さんがステージを去って興奮冷めやらぬ中、「最後にあと1曲だけ」という紹介でラストは「SEX」
田島さんが放った熱量を優しく消化するように、艶のあるハイトーンとメランコリックなシンセに包み込まれます。間奏での西川さんのギターソロは寂寞とした音色を奏で、ただただ美しかったです。

田島貴男氏が焙りだしたGRAPEVINEの特質とは

今回、バインの演奏にセッションで田島さんが入ったことで、GRAPEVINEの持つ特色が浮き出てきたように感じました。その特色とは何だろう?と考えて思い至ったのは、「目立った特色、際立った特色が少ないというのがバインの特色なのではないか」ということです。

GRAPEVINEのレパートリーは多様なジャンルを取り込んだ楽曲で溢れています。アルバムの内容も、ライブのセットリストも実に多様な世界を構築しています。しかし、演奏力と歌唱に突出した際立った特色はあまり見受けられないように思います。

西川氏のギターには職人技術と斬新な独創性を感じるし、田中氏の歌唱力、表現力も実に幅広さを感じるのですが、それがバンドの強烈な個性になっているかというとどうでしょう。高野氏のシンセはバンドサウンドにストレンジな彩りを与えているし、金戸さんのベースは適度なグルーヴを生み出していますが、強烈に引っ張って目立つ場面は少ない印象です。亀井氏のドラムは、どっしりとしたビートを兼ね備えていますが、楽曲のジャンルによっては物足りなさを感じる場面もあるのが正直なところです(亀井氏のソングライティングはバインの根幹を成している生命線であることは間違いありません!)。
田島さんの身体から溢れ出る強烈なグルーヴと歌唱を目の当たりにして、バインはそんなに強烈な個性を持っていないバンドなのではないかと、そう感じたのでした。

器用なバンドであることは確かなのですが、突き抜けた何かを持っていない。それは良くも悪くもなのかもしれませんが、だからこそ、「聴き飽きない何か」があります。その何かとは、私は「余白」だと思います。それは楽曲を能動的に聴くことで味わえる感覚なのかもしれません。
田中氏は一時期、ライブのMCやインタビューで「聴いてくれる皆さんの解釈に委ねます」とよく言っていました。「何を演っても、どう転がってもGRAPEVINEになる」と田中氏が自認していますが、際立った個性を持たないバンドだからこそ、聴き手のどんな感情や感覚にも寄り添える存在なのではないか、と。

そんなことを思いながら、ゆりかも~め~♪に乗って帰路に着いたのでした。

Zepp DiverCity、いつの日かまた。

セットリスト
1.Ready to get started?
2.Ub(You bet on it)
3.Our song
4.実はもう熟れ
5.The Long Bright Dark
6.雀の子
7.アマテラス
8.ねずみ浄土 with 田島貴男
9.ピカロ with 田島貴男
10.SEX

以下の記事では2023年最新作「Almost there」の個人レビューを書いています。

以下の記事では2023年2月に行われたanother sky再現ライブの様子を書いています。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
ご意見、ご感想等ありましたらお気軽にご連絡ください。


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