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パリ軟禁日記

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2020年3月17日、今日から僕らが当たり前に享受していた移動の自由が奪われる。ここ、自由の国フランスで。外出禁止令が施行されたのは、時が真昼を告げる刻だった。 軟禁状態にある…
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#映画

パリ軟禁日記 40日目 映画についての問い

2020/4/25(土) 好きな映画はなんですか? この問いに答えるのは、簡単なようでとても難しい。付き合って日が浅い人からの場合は特に。 まず、好きな映画の数が多い。基本的には好き嫌いせずになんでも見るタイプだし、見る本数も普通の人より多い自覚がある。それが毎年続いているのでどんどん好きな映画が増えていく。(ある意味、とても幸せなことではある!) 例えば、「ニュー・シネマ・パラダイスです!」と好きな映画を答えたとしよう。すると、この答えを聞いた人は往々にして「この人は

パリ軟禁日記 37日目 短編映画と光

2020/4/22(水) 短編映画は、一般的ないわゆる長編映画とは違った楽しみ方がある。長い尺はもたないけれどもパンチの効いたひねりがあるもの。実験的で尖った意欲作。音楽のPVのように、世界観を提示することのみに特化した作品。起承転結やメッセージがコンパクトにまとまっていて、CMに近い作品もある。その形は実に多様だ。何の予習もなしで見るとき、僕たちは冒頭のタイトルからどのように話が進むのか、数分間ワクワクして見ることになる。この「展開の読めなさ」が面白い。 世界でいち早く

パリ軟禁日記 12日目 休日

2020/3/28(土) 休日。極限状態でがんばる人たちを見て、勇気をもらおう。 1. 『残された者ー北の極地ー』(2018、ジョー・ペナ監督)。飛行機の墜落により北極で遭難生活を送ることになったマッツ・ミケルセンのお話。主人公には役名がついているけれど、覚えられない。もうマッツでいいでしょう。シェルターを構え、魚を釣って飢えを凌ぐマッツ。白熊に遭遇しても発煙筒で撃退し、クレバスに落ちてもめげないマッツ。最後のシーンは声に出して応援。がんばれ!マッツ!! 2. 『Dr

パリ軟禁日記 10日目 パリの映画館

2020/3/26(木) 光と暗闇。まだ見ぬ世界に出会える期待に胸が膨らむ場所。映画館という空間が好きだ。 パリには多くの映画館がある。大手チェーンのシネマコンプレックスから個人が営業しているミニシアター。クラシックばかり上映しているところもあれば、なぜか『ロッキー・ホラー・ショー』を欠かさずやっている劇場もある。フランスは映画の国であり、映画館の国だ。 日本ではない月額定額見放題のサービスも映画ファンとしては嬉しい。僕が入っているのは月額33,90ユーロで2人まで見

パリ軟禁日記 5日目 失われた週末とマルシェ

2020/3/21(土) 『失われた週末』(1945)でビリー・ワイルダーはアルコール依存の小説家が週末、酒瓶を求めて街を彷徨う姿を描いた。幸いなことに僕はアルコール依存ではないし、家にはワインや日本から持ってきた芋焼酎がある。けれど、外出禁止後の初めての週末、頭に浮かんだ言葉はこの映画のタイトルと同じThe Lost Weekendという言葉だった。 多くのフランス人が同じようなことを思ったのではないだろうか。前々からの予定やイベントをキャンセルした人もいるだろう。週末

パリ軟禁日記 2日目 決断と白アスパラ

2020/3/18(水) 人事からメールが来た!朝一番に聞いたのは妻の声だった。 欧州地域での新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑み、希望する駐在員の帰国を認めるという趣旨だった。一方で、日本政府が欧州地域からの入国制限をするという噂もあり、起きたばかりの頭の中で様々なシミュレーションが行われた。一寸先の自分たちの未来が見えない状況。そして、この大きな決断を即座に下さないとならない。 とどまるか、立ち去るか。9年前の大地震の時も似たようなことがあり、この手の決断は初めてでは