見出し画像

高野秀行 『コロナ感染の歩き方』その3 快復した今、振り返って思うこと

その1 体調異変からPCR検査、 陽性確認・自宅療養まで はこちら

その2 宿泊療養から退所まで◎必須持ち物リスト付き はこちら

「コロナ感染の歩き方」第3弾! 身近にあるのに、その内情を知る人&語るはほとんどいない、都心の宿泊療養から無事に生還したノンフィクション作家・高野秀行。今回のコロナ感染を振り返り、自分の意識や行動は果たしてどうだったのか。
 驚きや発見、後悔も含めて振り返る総括編。

高野秀行(ノンフィクション作家)

 第1回で発症からPCR検査、陽性判明、自宅療養(家庭内隔離)を、第2回では宿泊療養について書いてきたが、今回はそれらの体験を振り返り、総括してみたい。私は何が間違っていて、何が正しかったのか。コロナに感染するとどういうことが起きるのか。そして、今後、みなさんにお勧めしたいコロナ感染後の対処法などである。

<コロナ感染予防の妥当性>

 私は適切なコロナ感染予防を行っていたのか。
 第1回の【感染経路】において、私は「飲み会などには行ってないが、取材や編集者との打合せ、語学のレッスン、知人と軽い会食など、発症2週間前に遡るといろいろな人に会っている。ときには話が盛り上がり、マスクを外したまま喋ったり笑ったりしていたこともある。つまり、感染して当たり前というほどの無茶はしていないが、積極的に予防策を講じていたとも言いがたい」と書いている。これについては、中には「うん、そうだよね」と思う人もいるだろうが、中には「それ、感染して当然だよ!バカじゃないのか」と思う人もいるだろう。

 リスクの評価は難しい。まず、コロナに感染するかどうかは確率の問題である。私と同様な行動をとっていても感染する人もいれば、運良く免れる人もいる。
 それから、人が何かをするときには「リスク(デメリット)」を「メリット」と比較して考える。今で言うなら、東京五輪&パラ五輪のリスク。国内外から何万もの人が集まり世界規模の祭典を行うのだから感染のリスクは多少なりとも確実に上がる。選手や関係者にPCR検査を義務づけ、陽性者は隔離したりするなど、対策や管理のために国と東京都は多大なリソース(人員、予算、時間)をとられる。だから当然、国民や都民にそのしわ寄せがくる。お祭り気分は人の気持ちを解放させるから警戒心も緩む。
 でも、東京五輪をどう思っているかでリスク全体の評価は大幅に変わる。東京でオリンピック開催することを「素晴らしい!」と思っている人にはその程度のリスク(デメリット)は十分許容範囲だろう。いっぽうで、五輪にあまり関心がないとかそもそも反対している人には開催のメリットがないわけだから、五輪開催でリスク(デメリット)が増えることは耐えられない。
 その人の利害にも左右されるだろう。五輪成功を使命としている広告業界やJOCの人たちとコロナ感染抑制を使命としている医療従事者では、リスクの受け取り型が180度ちがうはずだ。互いに相手を「常識がないのか」と罵り合うことになる。
 会食にしてもそうである。私は世界各地を旅しているが、会食を重要視しない民族や国民には出会ったことがない。食をともにし語り合い笑い合うことは社会的な動物である人間にとって娯楽を超えた「本能」の一つだと思う。マスクをしろと言うが、食べながら喋りながらマスクをしたり外したりするのはひじょうなストレスになり、会食の意味を半減させる。
 だが、これも個人差が大きい。会食の意義を全面的に否定する人はいないだろうが、その頻度や規模についての考え方は人によって異なる。会食マイラブ、会食を抑えるなんて睡眠時間を削れというようなものだと感じる会食本能全開人間もいれば、ごく親しい人たちとたまに集まればよくてそれ以外の人と一緒にご飯を食べる必要性を感じない人もいる。会食本能人間にとっては感染者数がまだ日本の人口の1パーセント程度しかいない状況で会食をすべて否定されるのは、感染リスクよりも本能を削られるデメリットの方がはるかに大きく思えるし、非会食派からすれば、他人とメシを食うために未知の伝染病感染の危険を冒すなんて「頭がおかしい」としか思えないだろう。
 このように感染リスクの評価は個人によって大幅に異なる。だから私が感染前にとっていた行動も正しいかどうか一概に決めがたい。

……と言いたいのだが、やっぱりちがうよなあ。なにしろ、私は「まさか、自分がコロナに感染するわけがない」と思っていたのだから。メリットとデメリット(リスク)を冷静に比べていたわけでは全然ない。
 愚かだとしか言いようがない。ただ、残念ながらこの社会には私のように愚かな人が一定数(しかも無視できないほどの数で)存在するのだから、愚かでない人にとっても愚かな人の実情を知るのは無益でないと思う。
 いきなり自分が愚かだという結論に達してしまいガックリだが、気を取り直して先を続ける。

画像4

宿泊療養に持っていった食器類。平たい皿、深皿、コップ、プラスチック製ナイフ(以上、百円ショップ)、スプーン・フォーク・ナイフ・箸セット(30年ぐらい前、アウトドアショップで購入)。
ふつうの旅行でもこれらがあると、ホテルライフが見違えるほど便利になる。


<なぜ私は自分がコロナに感染しないと思っていたか>

 第一の理由は、周りに感染者が見当たらなかったから。自分が感染する前、私の友人知人でコロナに感染したとわかっていた人は一人しかいなかった。私と同じかもっと熱心に会食を重ねる会食本能派の友人たちも大勢いたが、誰も感染したとは聞いてなかった。友人知人のそのまた友人知人まで広げてもいくらも耳にしたことがない。つまり、コロナはひじょうに「遠く」感じた。
 しかし、ここには一つ罠があった。コロナ感染者は感染の事実を公表したがらない傾向が強いのだ。陽性が確認される前から「体調が悪いのでPCR検査を受けています」とSNSで公表する律儀な人(?)は私ぐらいで、多くの人は感染の事実を極力隠すと今回わかった。なぜなら、私が感染を公表してから、何人かの人(私の知り合いや妻の知り合い)が「実は私も感染していて」とか「家族が感染していて」と連絡してきてくれたからだ。連絡の理由は感染したときの体験を伝えて役立ててほしいという同病者ならではの好意である。
 つまり、自分が見聞きする範囲より実際の感染経験者の数は多かったと考えられる。

 2番目の理由は、単純に「自分だけは大丈夫」と思う、いわゆる「正常性バイアス」であろう。自分にとって都合の悪い可能性は無視するのである。
 アフリカのソマリアの首都モガディショではほぼ毎週、無差別爆弾テロでホテルやレストラン、官公庁などが吹っ飛ばされ、その度に何十人という人が犠牲になっている。だが、モガディショに住む友人は「普通だから特に気にならない。むしろ巨大地震がいつ起きるかわからない日本の方が怖い」という。彼は日本に8年ほど住み、大学と大学院を卒業したのだが、日本に住んでいるうちに地震が怖くなくなり、むしろソマリアに帰るのが怖くてしかたなくなったという。でも、帰ってしまえば、テロの方が日常になり非日常の地震の方が恐ろしくなるらしい。正常性バイアスの作用はかくも強い。
 正常性バイアスがあるからこそ、テロの嵐が吹き荒れるソマリアでも、いつ巨大地震が起きて何千、何万という人が死ぬかもしれない日本でも、人は生きていける。
 とはいうものの。正常性バイアスは最低限の精神的セーフティネットみたいなものなので、それにプラスし、自分なりの災害対策は行った方がよい。地震や火事、豪雨被害への準備と同じだ。

画像3

無差別テロがあちこちで起こるソマリアでさえ、住んでいる人々はそれが普通になっていく。正常性バイアス恐るべし。


 3番目の理由は、デルタ株の猛威である。従来株とは感染力が1.5倍以上と言われている。私が住む東京都ではデルタ株が全体の9割を占めているという。おかげでいわゆる「第5波」はそれまでとは比べもののない感染者数を生みだしている。つまり、同じ予防対策を行っていた場合、感染する確率はぐんと高くなっていた。その事実に私が気づかなかった、あるいは直視しようとしなかったということだろう。


<ワクチン1回接種は効かなかったのか?>

 私は発症から3週間前に妻と一緒にワクチンを1回接種している。これを「ワクチンを打っていたのに感染してしまった」ととらえる人もいるかもしれないが、私個人的には「ワクチンを1回でも打っていたからごく軽症で済んだのではないか」と感じている。
 感染した人たちの話を見聞きするかぎり、(無症状ではなく)ちゃんと発症して高熱と激しい頭痛、咳、下痢に苦しめられながらも、私ほど短期間で症状が収まった例はめったにない。たいていは1週間以上高熱が続くが、私は三日ほどで下がった。
 また、コロナウィルスは発症前の二日間がひじょうに感染力(他人に感染させる力)が強いとされている。妻は私と同じベッドで寝ていたし、私が作った料理を食べていた。発症した朝など、よりにもよってトッピングに凝りまくった冷やし中華だった。20分近くかけて、トマト、みょうが、キュウリを細く切り、さらに焼きスパム、錦糸タマゴを皿の上の麵に丁寧にのせていた。その間、私の鼻や口からはウィルスが大量に吐き出され、真下の冷や中に落下していたことだろう。冷や中なので加熱せず、妻はそのまま食べてしまった。「おいしい」と言っていたように記憶する。
 なのに、妻は感染しなかった。ただ単に運がよかっただけかもしれないが、彼女も1回ワクチンを接種しており、それが効いたのかもしれない(その後の感染を防げたのは、もちろん彼女の徹底した隔離政策のおかげでもあろう)。
 インフルエンザの予防接種もそうだ。打っていても感染することはある。ただし感染する確率は下がり、感染しても軽くて済むというのが定説だ。
 私たち夫婦の例だけではあまりに根拠に乏しいが(残念ながら1回接種後感染の例は報告がひじょうに少ないのだ)、コロナの予防接種も同様の効果を生んでいるのかもしれない。

画像5

快復後、帰宅したら届いていたパルスオキシメーター。動物には使えないらしい。


<予想を圧倒的に上回る二次災害>

 コロナに感染するとその人は激しく苦しみ、ときには死の危険にもさらされる。でも、それだけではない。見過ごされがちだが、「二次災害」の方がはるかに大きく、自分でも想像しない範囲まで広がる。
 私も自分が陽性と通告されてまず思ったのは、病気が怖いとかショックなどではなく、「うわっ、やっちまったー!!」というものだった。あたかもクルマで家族旅行の最中、旅先で他の車にぶつけてしまったような気分だ。だが、それから状況は自分の想像をはるか超えてヤバいものであると認識せざるをえなかった。
 二次災害とは何か。まず家族、友人知人、同僚などへウィルスを移してしまう。少なくとも濃厚接触者には(直接あるいは保健所を通じて)連絡し、PCR検査を受け、仕事へ行くことはやめてもらい、隔離をお願いしなければならない。職場の同僚がことごとく陽性者や濃厚接触者になってしまう。さらに各々の濃厚接触者の家族や同居人までも陽性者や濃厚接触者となる可能性を秘め、ドミノのようにコロナの濃厚接触者被害は広がる。自分が感染者となるだけで、職場の同僚の息子の友だちのお母さんとかが感染してしまう恐れがあるのだ。
 二次災害はウイルス感染だけではない。2週間ぐらい仕事ができなくなるので、勤め人なら職場に多大な迷惑をかけ、自営業なら収入が減ったり納期に間に合わなくなったりする。チームで仕事をしている人なら、イベントやコンサートや映画撮影、各種プロジェクトなどが吹っ飛ぶ恐れがある。感染していない子供やペット、介護している人をどこに預ければいいかについても悩ましい。
 結果として仕事上の信頼を失ったり、人間関係の悪化を引き起こしたりする。感染を隠す人が多いのもひとえにこれ故だろう。
 私はたまたま連載が一段落したところで原稿書きの仕事には差し支えなかった。イベントを中止せざるを得なかったが、自分が主催者であり、友人が手際よく対処してくれた。イベント参加者のみなさんも私が愚かな人間だと熟知している寛容な方々で、全員が快く延期を受け入れてくれたという。
 ただ、決定的に申し訳なかったのは妻・片野ゆかの映画である。『犬部!』(ポプラ社)という彼女のノンフィクション作品は、十年にも及ぶ紆余曲折の果てにようやく映画化され、私がコロナ陽性と判明したその日(7月22日)に全国でロードショー公開された。映画も同名の「犬部!」(篠原哲雄監督、林遣都主演)である。
 本来は22日の午前中に友人二人と妻の四人で映画を観る予定だった。とてもよい映画だと聞いていたので、おそらくは「めっちゃよかった!」と報告し、宣伝に努めることになったはずだ。だが、それらは全て吹っ飛んだ。妻も濃厚接触者になり、基本的に自宅待機である。「自分の本が映画化されるなんて一生に1回あるかないかの話なのに、どうしてその公開日に夫が感染するかなあ……」と妻はつぶやいた。
 私たちが「犬部!」と見ることができたのは、公開から2週間以上が過ぎた日(8月9日)のことだ。そして観てみれば、想像以上に素晴らしい映画だった。ポスターや予告編からは「ライトな青春モノ」を予想するが、実際に観てみると半分はその通りなのに、半分は全くちがって、鋭角な社会派セミドキュメンタリーという、ほとんど奇跡的な融合を実現した映画だった。これまで類例のない作品ではないか。
 少しでも多くの人に見てもらいたいのだが、公開から2週間という「映画的な感染力」が最も強い期間に、この映画の宣伝普及に何一つ貢献できなかったどころか思い切り足を引っ張ってしまった。本当に申し訳ない。遅ればせながら、ここに公式サイトのリンクを貼るので、ご興味のある方はぜひご覧いただきたい。誰が観てもそれぞれ見所をみつけられる映画だと思う。
https://inubu-movie.jp

画像1


 
 コロナはコストパフォーマンスが極端に悪い病気だ。感染率を下げるためにあまりに多大な犠牲を伴う抑制策をとらなければいけない。そして、感染してしまうと、これまた信じられないくらい多方面に被害を及ぼす。まったくもって割に合わない病気である。


<後遺症>

 私の場合はごく軽症だったので、後遺症らしきものはあまりない。ただ、夜中に咳が止まらなくなることはときどきある。とりあえず薬を飲んで対処している。
 高熱が1週間以上続いた人は快復してからも相当ダメージが残るようである。
 知人のSさん(ワクチン未接種で感染)は宿泊療養中に39-40度の熱が8日間も続いた後に肺炎も起こして、病院に搬送された。3ヶ月を過ぎても倦怠感や体調の悪さなどを感じているという。また、症状の重さに加えて、なかなかオンライン診察をしてもらえなかったとか、薬を処方してもらえなかったとか、強く希望してもなかなか病院移送してもらえなかったとか、食事がとれなかったなどといった精神的苦痛が重なり、快復後もふとしたきっかけでフラッシュバックが起きたり急に涙が流れたりといったPTSD的な後遺症にも見舞われているとのことである。
 コロナは感染症状の重さや種類によって、長く後遺症が残るケースがあると報告されているが、どうやら本当のようだ。
 これもまた、「極端にわりに合わない病気」であるコロナの恐ろしい側面だろう。


☆コロナ感染の歩き方・まとめ

 コロナには感染しないことがベストである。前からくり返し言われている「三密を避ける」「話をするときはマスク着用」など予防策を講じるべきなのは言うまでもない。
 いっぽうで、それでも感染してしまったときの用意はしておきたい。陽性の結果が判明したら嘆いている暇はない。速やかに対策を立て、自分も周囲もむやみに苦しまないようにしたい。
 以下、極力簡潔にやるべきことをまとめた。

【日頃から準備するもの】
 体温計、パルスオキシメーター。除菌シート/スプレー。あとは市販の解熱剤、咳止め薬、その他持病の薬は常に多めに用意しておきたい。

【熱や咳が出たら】
・できるだけ早くPCR検査を受けられる場所を探す。まずは「かかりつけ医」。そこがダメなら、同じ市・区・町内の医療機関など。
・解熱剤と咳止め薬などを多めに入手しておく。
・家族や同居人がいたら、即時「家庭内隔離」を開始すべし。
・保健所の担当者に訊かれるので、発症二日前に出会った「濃厚接触者」の候補リストを作る。できる範囲でいいので、その人たちに前もって「熱が出てPCR検査を受けている」と伝える。
※PCR検査を受け、その結果が判明するまで、たいていは2,3日かかる。その間に二次災害が広がるので、結果が出る前に食い止める準備をしたい。大騒ぎした後でもし陰性なら、みんなで笑って済ませばよい。
※東京都福祉保健局にのデータ(7月〜8月初め)によれば、濃厚接触者における感染経路では「同居」が過半数を占めている。今は不要不急の外出を控えていながら家庭内でウイルスが増殖しているケースがひじょうに多いのである。

【PCR検査で陽性が判明したら】
・家族や同居人がいたら家庭内隔離(→具体的な方法は「その1」を参照)
・その人たちもPCR検査を受ける(保健所が手配してくれる) 
・濃厚接触者に連絡(保健所がやってくれるが、常識的に自分からも連絡すべきだろう)
・症状や家庭環境を考え、自宅療養か宿泊療養(もしくは病院)の希望を出す。ただし、感染拡大期には病床や宿泊施設の部屋が逼迫するのみならず手配も滞るので、希望が通るとはかぎらない。行けたとしても最低2日は待機である。また、病院か宿泊施設かは保健所の判断でなされ、本人の希望は通らないと考えた方がいい。
・食べ物や物資(用意が足りない場合)の買いだし。ネット通販やデリバリーを頼むことが望ましいが、時間がない場合やオンラインショッピングの経験が乏しい場合などは、家族や同居人、もしくは友人知人に頼む(家族や同居人は濃厚接触者となるが、濃厚接触者は「不要不急のとき以外は外出を控える」とされている。逆に言えば、非常時である今、短時間にスーパーやコンビニでちゃちゃっと買い物を済ますことは許容範囲と考えられる)。
・自宅療養でも宿泊療養でも病人が食べやすい食べ物をあらかじめ用意しておいた方がいい。ポカリスエット、インスタントスープ/味噌汁、レトルトのおかゆ、ヨーグルト、栄養ゼリーなど。宿泊療養ではカップ麵不可の場合がある。またポカリスエットのボトルを持ち込むのは現実的でないから粉末を用意した方がいい。
・2〜3時間に一度、体温、血中酸素濃度、脈拍を計り記録。その他の症状も一緒に記録する。ただでさえ高熱とぼーっとしているうえに、症状が長引くと時間感覚が麻痺して記憶が混乱する。自分の容態がどのように変化しているか把握するために必要。また、容態が本当に悪化した場合、明確な記録があった方が保健所を説得しやすく、入院につながりやすいと思う。

【オンライン診察】
 医師の処方する医薬品はたちまち不足する。そして、自宅療養の場合はもちろん、宿泊療養でもオンライン診察を受けたり、薬を処方してもらったりするのは至難の業である。なので、まだ体力がある初期の段階で、オンライン診察を行っているクリニックや病院で診察を受け、薬を出してもらうこと強くお勧めする。
 一度オンライン診察を受ければ、要領がわかるので、その後はもっとスムーズに診察を受けられるだろう。仮にその後、症状が改善しない場合も相談ができ、ひじょうに心強いはず。体力気力が衰えてからオンライン診察を受けようと、高熱にうなされながらネット検索を始めるのは得策ではない。
 オンライン診察では薬を受け取る方法が2つあるようだ。一つは自宅へ発送、もう一つは薬局での受け取り。処方箋を扱っている薬局ならどこでも受け取れるようだが、家族や友人知人が代理で取りに行かなければいけないので(しかも濃厚接触者は公共交通機関は避けなければいけない)、受け取りの方法と場所については診察を受ける前にきちんと確認した方がいい。

【宿泊療養が決まった場合】
・買いだしと荷造り(→宿泊療養持ち物リストは「その2」参照

【宿泊療養中の対策】
・前述したように、少なくとも東京都福祉保健局にでは基本的にオンライン診察も薬の処方もやってくれない。やってくれたとしても、ひじょうにハードルが高く、その交渉だけでコロナの病人は消耗するので、自分でクリニックや病院を探しておきたい(早い段階でやっておいたほうがいい)。
・差し入れの煩雑なルールは病人の状態を無視しているとしか思えない。差し入れ人がいつ何を持っていってもよいように変えてほしい。差し入れが禁止されているものについては、その場で断ればよい。
・とはいえ、都がやり方を改善するかどうかはわからないので、「差し入れには頼らない」「差し入れを頼むなら早め早めに」の二つをお勧めする。

画像7

快復後に保健所から「コロナ陽性による2週間の就業制限」という通知が来て驚いた。家庭内隔離の方法も詳しく書かれていた。発令はPCR検査で陽性が判明した7月22日、届いたのは2週間後の8月6日。おそらく人員不足で手配が遅れに遅れたのだろうが、残念すぎる。メールやLINEを利用したすばやい通知が望まれる
(職場に提出する公式書類は遅くていいと思う)。


☆終わりに

 いろいろ書いたが、最後に私のコロナ感染でお世話になった方々に感謝したい。
 かかりつけ医の内科クリニックの先生と職員の方には診療終了間際に無理にPCR検査を行っていただき、大変助かりました。
 区の保健所、東京都福祉保健局にの担当者のみなさんには大変お世話になりました。感染者数が爆発的に拡大している時期に対応をするのはひじょうに苦労が多いことと察しますが、少なくとも私のときまでは、思った以上にテキパキと対応していただきました。
 宿泊療養はいろいろと構造的に問題があるとは思いますが、私のようなごく軽症の人間には薬以外の面ではたいへん快適でした。料金も無料。都民のみなさんの税金からまかなわれているので都民のみなさん全てに御礼申し上げます。
 アパホテル新宿御苑は病気でなければ、魅力的なホテルだと思います。
 陽性であることを公表したあとでひじょうに大勢の方から激励とお見舞いのメッセージやアドバイスなどをいただきました。
 「辺境チャンネル」の杉江由次氏、小林渡氏にはイベントの延期など参加者の方々への対応をしていただきました。参加者のみなさんにも突然の延期を快く受け入れて下さりました。
 そして、妻は多大な迷惑をこうむりながらも、気にする素振りをいくらも見せず、家庭内隔離や私の世話などに邁進してくれました。
 みなさんに厚く御礼申し上げるとともに、みなさんがこの「コロナ感染の歩き方」を極力利用しないで済むことを心よりお祈りしております。



画像2

高野秀行(たかのひでゆき)
ノンフィクション作家。1966年東京都生まれ。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」をポリシーに多数の著書を発表。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で酒飲み書店員大賞を、『謎の独立国家ソマリランド』(集英社文庫)で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。主な著書に『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)、『西南シルクロードは密林に消える』(講談社文庫)、 『幻のアフリカ納豆を追え!』(新潮社)等がある。オンラインイベント「辺境チャンネル」も配信中。Twitterアカウント @daruma1021


高野秀行自著コメント付き作品ガイド
https://note.com/henkyochannel/n/n4d2976f36f52


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?