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赤地蔵で這いつくばる

 霊宝館を出て、
 大方の観光客には謎の建物であろう大師教会を左手に見ながら、
 進んだ先には私にも謎の建物、

 赤地蔵があるのでせっかくだから入ってみた。


 前の記事にも書いたのだがお賽銭は、
 10円玉だろうが5円玉だろうが1円玉だろうが、
 本当のところは構わないのだが、

 私はなるべく100円玉を落とす。

 しかしながら今回は、
 赤地蔵、とあるからには地蔵菩薩がいるだろう、
 お賽銭を落とさなければと財布を取り出し、
 中を見て100円玉がある事を認識しながら、
 私の指は10円玉を取り出していた。

 と言うのも地蔵菩薩というものは、
 地域ごとに祀られその地域を守り、
 その地域の人々の思いを引き受けているものだからして、
 たまーに相性が合わない地蔵もいらっしゃるので
 (あくまで私個人の肌感覚では)、

 要はどういったお地蔵様か分からない段階では、
 私は100円玉を惜しんだわけだが、

 振り返って考えればお賽銭を落とすと決めた時点で、
 縁があったものと心得て、
 私は他の仏像と何ら差別無い取り扱いをすべきであった。

 10円玉を落として手を合わせ、
 お顔をじっくり拝見したならば、
 全身を真っ赤に塗られたお姿は一瞬ギョッとするけれども、
 子供らしいお顔立ちはそれほど不快にも感じられない。
 相性が合わない事もなさそうだ。

 由緒書きを見れば幸運に財福を授けてくれるとある。

   しまった。100円玉を落としておけばよかった。

 ……とも思いかけたが現世利益を当て込んで、
 後から額を増やすという拝み方も、
 私としてはしっくりこない。

 幸い建物の中にはロウソク立てがあったので、

   そうだ。ロウソク代として支払おう。

 とガラスの引き戸を開けて取り出した、
 ロウソクの絵が付いた小箱を、
 スライドさせて引き開けたはずだった。

 しかしロウソクの絵柄は、
 箱の裏面の言わばスポンサー表示であり、
 表面にはマッチの絵柄があったらしく、

 スライドさせた幅分のマッチ棒、
 推定2、30本を床にぶちまけてしまった。

   おう。
   コイツは試されているな。

 もちろんただの偶然と認識して構わない話だ。
 むしろ多くの方がそれで片付けるだろう。

 しかしながら、
 この日が旧正御影供の当日であり、
 観光客もお寺の方々もこの時間は誰もが、
 奥の院の御廟に赴いていたからなのだが、

 お寺関係者も誰もいない建物の中で、
 タイミングによっては観光客が列を成している建物の中で、
 私は今ただ一人床に這いつくばり、
 マッチ棒を一本一本指先で拾い集めている。

   否。拾わせて頂けている。

 大変に失礼を致しました。
 箱を手に取った時の重みや大きさに、
 ロウソクにしては違和感がありました。
 もう少し気を留めていれば防げたはずです。

 ……といった私の心持ちまでおそらくは見透かされている。
 これをほったらかして逃げた日にゃ、
 功徳は得られないどころか存分にバチが当たるだろう。

 無事に拾い集めてロウソクを2本立てた。

 大体いつも2本立てるのは、
 左右でバランスを揃えたいだけ。


高野山の旅まとめ

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