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理科室まがった問い合わせ【毎週ショートショートnote】

 我が母校の理科室が、ちょっとまがったのはなぜか、という問い合わせが近隣住民から寄せられた。
 母校は県内でも有数の進学校でありながら、市街地から遠く離れた山中に位置し、極めて良く聞こえる言い方をすれば、地域との結び付きが強い。一部の学生しか知り得ないはずの事実すら、いつの間にか保護者達を飛び越えて地域全域に知れ渡っている。
「まがったと言っても本当に『ちょっと』なんですが……」
「その『ちょっと』という認識がよろしくない」
 化学教師がアルカリ性水溶液の恐ろしさを教えるために、一人の生徒を指名し指を漬けさせたのだった。
「指先が、ヌルヌルするだろう。これはなぁ……、指が溶けているんだぁ。今すぐ洗いに行けぇっ!」
 生徒は悲鳴を上げクラスからは笑い声も起こり、傍目からは確かに「行き過ぎた指導」だったかも分からないが、
 そもそもその生徒は化学部所属で教師とは親しく、おかげでアルカリ性の恐ろしさは生涯脳裏に焼き付いたのだが。


(410文字)

 「まがった」はさて理科室に掛かるか問い合わせに掛かるか。

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