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やっぱり魚が好き(奈良:不染鉄展)

 はじめましての人も、
 前から知ってる方も、
 ごきげんよう。

 偏光です。

 揺るぎない評価を得ようとも、
 誰からの注目も得られずとも、

 好きなものを好きなように描いた作品、
 に勝る物など、
 各人それぞれに存在するのか?

(文字数:約2000文字)



既に字面が格好良い

  姓が不染(ふせん)で、
  名が鉄(てつ)って……。

  小説だったら主人公か、
  主人公の師匠にするしかない。

  しかもほぼ本名って何それ。
  (実際は不染哲治。「鉄二」表記もある)
  てっきり号だとばかり思ってたよ。

  名前は結構侮れない呪だと、
  前々から私は思っていて、

  特に姓というものは、
  好みに関わらず生まれた時点で負わされ、

  他家に入籍なり養子縁組なりしない限り、
  生涯に渡ってその人物を、
  多少なりとも風味付けてしまう、
  わりと厄介なものだとも思うんだが、

  不染鉄の父親は僧侶で、

  明治に入り庶民も姓を持つ事になった際、
  父自ら選んで名乗り出した字面という、
  逃れようのなさ。

  リアルに想像してごらん。
  自分の名字が生まれながらにして、
  「不染」であった場合を。

  あちこちで書類にテスト用紙に記入し、
  名乗る度に文字を説明させられるんだぜ。


それはともかく展覧会情報

  行きたいなぁと思いつつ、
  2月は点訳ボランティア等で忙しくて、
  気付けば3月の、
  10日までじゃあないですか。

  それは行けるとなれば行きますよ。
  雨降って寒かった日でしたけど、
  美術館で絵を観る分には天気は関係無いから。

    奈良県立美術館(奈良県庁裏)
      特別展 漂泊の画家
      不染 鉄
        〜理想郷を求めて

    3月10日までですよ皆さん。
    気になる方で行けそうな方は、
    残りほぼ5日の間に是非。


とにかく魚が可愛!

  正直ワタクシ偏光、
  美術的な造詣なんぞ深くないんで、
  感想的なものはざっくり率直にいきますよ。

  伊豆大島で24歳から3年間、
  ほとんど漁師やってたんだってさ。

  だろうなってくらい、
  民家や住民の描写もさる事ながら、
  海には魚を泳がせずにいられないんだろうな。

  海のそばで数年以上を暮らした人間には、
  日々の糧でもあり、
  ペットどころじゃなく親しんでいる、
  血肉に馴染み尽くした生き物だから。
  魚ってヤツは。

  大海原に一艘の船だけ、

  みたいな絵もしばらく描いてたけど、
  続けて描いていくうちに、
  やっぱり魚入れちゃうよね。

  海の底に民家があって人が住んでる、
  みたいな絵、その名も『海』が、
  一番時間をかけて見入ったな。

  とにかく魚が亀が鯰が可愛いんだよ!


海ばかりじゃないけどね

  たまらんかったのが『南都覧古』

  奈良は西ノ京に住んでいた頃に、
  近隣の風景を描いた、
  水墨画の文章入り巻物。

  つまり墨の濃淡オンリー、
  なんだけども、

  稲は実ってるし草は茂ってるし、
  山の奥深くにはさすがに見えないけど、
  そりゃ猿がいるんだろうよ。

  本気で自分の好きな景色を、
  ただ好きなように描き尽くしたな。

  又吉直樹さんの『火花』を読んだ後のように、

  コイツを否定してしまったら、
  自分側の心の汚さ醜さが、
  露呈する感覚に苛まれる。
  (まぁ否定する必要も筋合いも無いんだが)

  別の図屏風に書き込まれた文章だけども、

意自ら紙脊に徹すると言ふ
言葉があります。私はこの画はそのつもり
で、形もさる事ながら、必ず思ふ事は
出来ると信じて描きましょう

『伊豆の海村』中の書き込み

  本気でその文章を地で行ってるし、
  中学(現在の感覚では高校)の、
  美術教師もやっていたそうだから、
  生徒たちに教える心持ちもあったよね。


晩年は圧巻

  27歳頃から数々の賞を取るほど、
  説得力に満ち溢れた細密描写だ。

  そりゃ84歳で亡くなる数年前の、
  昭和40年代には、
  えらい事になりますよ。

  『南都覧古』を観ていた時点で、
  図録を買う事は決めていたけども、
  目の当たりに出来る実物の、
  凄まじさにはかないませんよ。

  黄葉の一枚一枚まで点描して、
  それは多分その中を、
  ミニチュアの自分が歩く様子を思い描きながら、
  ジオラマを作り込む感覚。

  『春』なんか桜の花以外、
  春っぽくなくなっちゃったけど、
  これで良いんだよね。

  また別の作品『ともしび』と、
  そちらに書き込んだ文章に、
  想いは通じているんだよね。

  好きなものを好きなように描いてこそ、
  各人の最善だとは思うけれども、

  描き切れるだけの技量は、
  身に付けておくに越した事が無い。

  

以上です。
ここまでを読んで下さり有難うございます。

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