見出し画像

『張山光希は頭が悪い』第17話:楽と楽しい

第1話(末尾に全28話分のリンクあり)
(文字数:約7800文字)


第17話 楽と楽しい

 十七の、誕生日だなって光希には、お寺ごとにお土産も買ってるしそんなには余裕も無いから、地元ゆるキャラ(何のかの言ってお気に入り)のシールくらいしか、買って帰れなかったけど、
「うわーい! ありがとー!」
 って光希は全力で喜んで、
「今日から八月までは半年間、僕の方がお兄ちゃんだからねーぇ」
「光希毎年誕生日の度にそれ言うよな。実質的に同い年だっての」
 ソファーに二人並んでおでこで押し合いしているところを、見られて茉莉花から呆れられたりしている。
「間に割って入りようがないから、もう二人まとめてお兄ちゃんだって思うしかないのよねー」
 ダイニングのテーブルで、俺が集めて来た御朱印帳を眺めていた、光希のお父さんが、
「あれ?」
 って声を上げて立ち上がって来た。
「うちの近所のお寺には、まだ行ってないの?」
 おでこを離して二人とも、同じタイミングでお父さんを振り向いて、
「あそこの御本尊、地蔵菩薩じゃなかった?」
 まずは光希が訊いていたけど、
「本堂はね。だけど、鬼神楽の舞台のそばに建ってるお堂、あれ、大日堂だよ」
 聞かされて俺はソファーにへたり込んだ。
「盲点……」
「毎年鬼神楽で聞かされてるからカオちゃん、全国大会に選んだんじゃなかったの?」
「それが大日如来を讃えるお歌だって話は、後から前の副部長から聞かされたんだよ」
 光希が答えている間にお父さんは、早速みたいに携帯端末を取り出して、
「檀家だから僕御住職の携帯番号も知ってるから、連絡付けてあげられるから、光希も一緒にお話聞きに行っておいで」
 当たり前みたいに言ってきたけど、話が早すぎて光希すら呆然としている。
「僕も? 今から?」
「バイクで行く必要ないし、歩いて行けるすぐそこだし。時間は……、御住職に確認してからになるけど」
「俺御住職と直接話できるほど、仏教とかに興味無いんだけど……」
「興味が無い人にも必要ならお話ししてくれるのが、お坊さんだよ」
 って答えながらお父さんはもう呼び出し音を鳴らしていた。

 次の日は日曜日だったから、午後の二時くらいに二人とも予定を入れられて、もとい、御住職相手だから入れてもらえて、お堂の前で待ってくれていた御住職は、
「これはこれは、張山さんのところの、光希くんに」
 まず光希に微笑んでから、俺に向かって、
「小石川薫くん」
 って呼んでくれてちょっと驚いた。この地域の人たちからは普段当たり前みたいに、名字は省略されるから。
 中に案内されて確かに内陣には大日如来が祀られていて、赤い絨毯に二人並んで正座していたらイスを勧められた。最近腰を悪くしたって御住職も、俺たちに向かってイスに腰掛けて、近寄せたファンヒーターも点けてから、
「お二人の、親御さんたちもこのお堂で、高校時代に御詠歌をお唱えした事がありますよ」
 ってまずは懐かしそうに話してきた。
「張山弓月くん、と今は奥さんに、当時の部長とは双子のお姉さん」
 聞かされて俺にはすごく違和感があって、と言うより違和感があった事に違和感があって、
「え、と……、すみません」
 手を上げて御住職の話をさえぎってしまった。
「これまで『母を知っている』とか、『昔の母に会った事がある』って、話してくる人に出会えた事が無くて……」
「そうですか? 張山さんや、小石川のお父さんは」
「それ、以外です。『話でしか聞いた事が無い』とか、部長だったおじさんの事なら知っていても、『双子の姉がいたなんて知らなかった』とか……」
「もしかして、なんですけど御住職……」
 光希もふた重の目を丸くして、俺の話に割り込んでくる。
「知っているんですか? その、毎年『鬼』を務めているのが、小石川の家の人だって」
 何言い出すんだって俺は一瞬、仰天したんだけど、
「はい」
 と落ち着いた雰囲気で返されて、一層言葉を無くしてしまった。
「それこそ高校時代の親御さんたちが、このお堂に来られた時に」
 御住職は、俺の顔色を見て首を振って、
「もちろん、言葉ではっきりとは、教えられていません。しかし、何と言いますか……」
 目を伏せて、少し時間をかけて考えてから、口を開いた。
「『知らない事にする』、あるいは『見えない事にする』といった形での、敬意の払い方が存在、するわけです。しかしながら他所から来られたその土地のやり方を知らない人々にとっては、奇妙に思えて、時にはむしろ見下されている存在のように、勘違いをする。『そのやり方はおかしい』と『隠されたものを明らかにせよ』と、『不正があるなら正す』べきであり、どこに生まれ落ちた何者であっても同じように『平等』に暮らすべきだと、一見正常かつ人権を重んじる文脈に見えながら、そこに本来あった敬意を認めない。ヒト、としか見えていない、わけですから」
 俺たちとの話から遠いような、近いような、ぐるりと回って元に戻るみたいな話し振りで、なんだか、全体が糸みたいだ。
「親御さんたちの世代では、時代的に、そうした見方がひと際強かった気がします。双子のご兄弟は深く悩まれていましたし、今の張山さんご夫婦も、ご兄弟を気遣い思いやっておられた。その様子を私どもも、毎年『鬼』をお迎えする立場ですから、察しただけです。しかし私としてもそれまでは、これほど若い方だとは思っていなかった」
 目を伏せたまま御住職は一つ、溜め息をついた。
「鬼神楽が成立したとされる、一千年以上前には成人であったとは言え、現代の感覚では、高校生です。ヒトの平均寿命も伸びて、一生を、捧げ尽くす意義すら見失う。『普通』と交われば交わるだけ、その若さで、『鬼』として定められてしまう事自体が、過酷に思えるでしょう。正直に、申し上げますと痛ましいほどでした。その、表に出せず言葉にも変えられない葛藤は。見た目は堂々と整っているだけに、尚更」
 聞いていて俺には母親と言うよりも、晃おじさんが浮かんできて、光希に目を移すと「そうだよ」って、聞こえてくるみたいに頷いた。
「それほどの苦行を強いるだけの心根が、果たしてヒトの側にあるのかどうか」
 ゾッとするような口調でそう言ったかと思うと御住職は、一転して笑みを浮かべた。あたたかさを感じて今頃ヒーターの動きが目に入った。
「そうしたところに思いが及びますとしかし、僧侶としては『ある』と、言わざるを得ない。少なくとも『無いとは言い切れない』と口にして、たとえどれほどささやかであっても、希望を後の世に繋ぎたいわけです」

 光希がもじもじと手や指を握り合わせながら、「いいかな? 本題に入って、大丈夫かな?」って聞こえてくる感じに言い出した。
「僕たち今年の全国大会で、『天地のまこと』をお唱えするんですけどー……」
「ああ。聞き及んでいますよ。昨年は会場を、大いに湧かせたそうですな」
「あんまり良い事じゃないよって……、注意はされちゃったんですけどー……」
 それは俺は今初めて聞かされて、軽くだけどショックを受けた。
「ええ。教本通りの解釈をすれば、その通りですが、現実にヒトの目を楽しませ今年も観たいという声が、数多く寄せられている。これも一種の功徳と考えて、差し支えないのではないですかな」
 ですよね、と光希はホッとした笑顔でいる。
「毎年鬼神楽で唱えられているのは、ここで大日如来を祀ってるからですよね」
 俺たちは順番を逆にしていたけど、元に戻すつもりで改めて訊き直したら、
「はい。その通りです」
 と言った後で御住職は笑みを深めてきた。
「……と答えた方が土地の皆さんには分かりやすいので、そうしています」
 一瞬光希と目を見合わせてまた、御住職に向かう。
「しかしお二人にはもう少し、言葉を選んだ方がよろしいでしょう。私どもが鬼神楽でお唱えするのは、この世の真理そのものを、すなわち鬼神楽のために毎年このお堂にいらして下さる、『鬼』を讃えるためです」
 逆のつもりがそのままだった、って分かったけど俺はかえって混乱しそうだ。
「大日如来も『鬼』も、この世の真理を表している点では、違いがありません。ただ人から見た際の、姿形が異なるだけですので」
 光希も聞きながらうつむいて、ちょっと考え込んでいる感じだったけど、
「つまり、『人』に唱えても構わないんですね……? この世の真理が表されていれば」
「はい。表し切れていれば」
 その答えを聞いて一気に明るくなった笑顔を、俺に向けてきた。
「うん。薫。僕なんだか分かってきたよ」
「いや。光希。悪いけど俺は分からなくなってきた」
 この世の真理を、「舞う」って、しかも人の身でってちょっと、カンベンしてくれ。

「大日堂、そのものは真言宗の寺院でしたら、必ずと言っていいほど建てられるか、建てる事を強く望まれるものですので」
「どうしてですか?」
 俺が訊いたら御住職は、一つ頷いてから笑みを深めた。
「空海が、我が国にもたらしたとされるマンダラの、中央に位置する仏である事が一つ」
 多分、信者だったら常識レベルの知識を、俺に合わせて噛み砕きながら話してくれている。
「そしてお大師様の御宝号、『遍照金剛』がすなわち、大日如来を指す語である事が一つです」
「え」
 と光希は丸くした目を瞬かせて、
「そうなんだ。僕知らなかったよー」
 って俺に向かって言ってくる。
「合宿に二年も通っといてそれはねぇだろ光希」
 御住職は小さく笑いながら首を振っていた。
「空海が唐に渡られた際、師匠である恵果けいか和尚わじょうから頂いたお名前、と言っても、マンダラに向けて花を投げ、それが落ちた所の仏と縁を結ぶ、という儀式の中で決まったものです。空海が投げた花は、二回とも大日如来に重ねられた。それ故に大日如来を指すお名前を、そのまま頂く事になりました」
「お大師様が手に持っている道具……」
 光希が言い出して多分、正式な名前知らないだろうなと思ったから、
金剛杵こんごうしょ、って何か関係ありますか?」
 って口にしたら、光希と言葉が揃って重なって、互いに顔を見合わせた。
「調べてたんだ。薫」
「東寺とか行った時に、パンフレットなんかで」
 御住職は一つ大きく頷いて、まずは
「良い質問です」
 と答えてきて、光希はその時点で誉められたと思って「えへ」と笑っている。
「同時に私どもにとっては大変悩ましい、質問でもあります」
 顔を上げて微笑んだままだけど、俺たち二人にしっかりと目を向けてきた。
「それと言いますのも実を申し上げれば、この法具が一体どういった役割を担うのか、何を表した事物であるのか、僧侶の間ですらはっきりと、共通した答えを持っておりません。これまでに悟りを開いたお方は、釈迦如来、ただお一人であり、それ以降の僧侶たちは誰一人、悟りに至ってなどいませんから」
 分からないなら分からない事を説明してくれる感じが、光希のお父さんっぽいなって俺は思い出していた。
「金剛、すなわちダイヤモンドの如く堅固な、強い意志の象徴、であると、経典通りの語句を覚え伝えてそれで良し、とする僧侶もいます。僧侶が悟りを目指そうとする強い意志、であり、空海が衆生を救おうとする強い意志、であると、それも一つの答え方として、また相手によっては決して、間違いとは言えません」
 ただ貴方方お二人に対しては間違いでしょう、と判断した事が伝わってくる。
「しかしながら金剛界マンダラの一画に、羯磨かつまマンダラ、と呼ばれるものがありまして、このマンダラにおいては全ての仏が、それこそ金剛杵、を背に負っていらっしゃいます。しかし」
 そこで目線をほんの少しずらして、俺一人に合わせてきた。
「このマンダラだけが全ての仏を、女体として描き表している」
 ゴク、と言葉で理解するよりも、息として飲み込んだ感じがあった。
「従って羯磨マンダラそのものの解釈が、人によって地域によって、時代によっても大きく、異なっています。仏教の発祥地であるインドや、チベットにおいては、裸体で描かれていたものを、唐に渡った時点でこれは人目に晒すべき図像ではないと、衣服が描き足されました。それ以降の日本やアジアで描かれた図像では、一見しただけでは女性とは思われなくなっています。この時点で本質は隠され、解釈は歪められてしまった、可能性がある。あるいは、唐から東へと向かうアジアにおいては」
 俺一人に向けた笑みを深めて、
「隠される事こそが敬意だったのかも」
 って最初辺りの話にも、戻ってきて重なって、だからやっぱりこの時間の全体が、糸みたいだったなって思った。

 お堂の前で御住職には、お礼を言って頭を下げて、坂道を光希と二人並んで下りて行って、本堂側の境内に差し掛かったところで、
 ぎゅ、と音がしそうな感じに光希が隣から俺を、抱きしめてきた。
「……どこででもくっつくなっつってんだ光希!」
「御住職の、お話聞いてたらなんか途中から、薫を思いっきり抱きしめたくなったんだもん!」
「意味が分かんねぇって普通それ!」
「僕だって、分かんないけど抱きしめたい時に抱きしめたい人抱きしめて、何が悪いのさ!」
 無人駅から本堂から張山の家の前の道路から、この辺りに立ち並んだ家々からも、しっかり視界に入っている坂道なんだって、お互い身長も伸び切った高校生男子がやる事かよって、頭の中の言葉では抵抗しているけど、
「薫だって、僕から抱きつかれたってイヤじゃないよね。口じゃ言うけどいつもちっとも、逃げないじゃない!」
 言われるまでもなく実感しているけど、もっとずっとちっちゃな頃からで慣れ切ってしまっている。
「僕だって、薫じゃなきゃやらないよ! 薫にだって、ずっと一緒に暮らしてなきゃやってない! 家族みたいに大好きって、普通じゃないって変に思われて、笑われなきゃいけない事なんかじゃ全然無いだろ! 時間掛けてしっかり話聞いてくれれば、分かる事じゃないか!」
「その時間を、掛けてもらえないんだって普通は!」
「そうだよ! だからつまんないって言ってんだ普通なんか!」 
 だんだんと、涙声になってきて仕舞いには、俺が着ていたフライトジャケット濡らし始めたから、根負けしたみたいに自分の頭には言い訳して、ぎゅ、と光希を抱きしめ返した。
「あったかい」
 って腕の中から呟かれて、身長差があるから光希の方が有利だなって、ちょっと思った。
 気が済んだみたいで光希の、腕が離れて、俺の方も離して、また坂道を二人並んで下って行って、
「道の駅行く?」
 って言われたけど徒歩だとちょっと遠いから、
「ひと駅分電車に乗っておにぎり屋で、おにぎり一個とスープのセット」
 って提案して「いいね」って返された。
「僕仏教ってなんなのか、ぼんやりとだけど分かってきた気がするんだけど」
「すげぇな。俺にはまださっぱりの大難問だよ」
「人によって言い方って変わるから、『違うよ』って聞いた人からは思われて、言われちゃうかもしれないけど、僕にとってはこういう事で良いのかなって」
 話している間に無人駅にたどり着いて、ホームに向かう階段を上りながら、
「何だよ」
 と訊いたら、
「楽してちゃダメなんだよ。本気で心から楽しく、生きたいんだったら」
 上り階段とか気にしてない感じに、息も乱さずしっかりした声で答えてきた。
「それで、心から楽しく生きられているんだったら、『楽するな』とか『甘えるな』とか、『怠けて遊びまくっててズルい』とか、他所から見ただけの誰かから言われる筋合いなんか無いんだ」
 隣の俺も追い抜いて一足先に改札を抜けて、
「と言うより他人見て笑っていられる余裕なんか、どこにも無いよ」
 ちょうど聞こえてきた踏切の音に、目を移した。

 おにぎり食べてスープとほうじ茶飲んで、そこそこあったまって家まで帰り着いた時には、夕方の五時近くになっていて、
「いやぁ。薫くぅん。言うてくれたらええんにぃ」
 家族よりも先に笑顔のマツイさんから出迎えられて面食らった。
「御朱印集めに行ってたんやてなぁ。若いのに偉いわぁ。お小遣いあげるでばあちゃん」
 と肩から下げた手作りのポシェット(とマツイさん本人が呼んでいる)を探ってお財布を出し始める。
「いえ。いいですよ。そんな」
「もろときもろとき。お金いるやろて。お賽銭やらお土産やら」
 ものすごく困っていたんだけど、続いて居間から出てきたおばあちゃんが、声も出さずに頷いていたから、
「じゃあ……、すみません。ありがとうございます」
 って一応はお礼を言って受け取った。
「ほいじゃなぁ。全国大会、見に行くで楽しみにしとるでなぁ」
 家の玄関戸が閉まり切った瞬間に、おばあちゃんが笑みを消して、ドッ、と音が鳴りそうなくらい一気に老け込んで見えた。
「おっ……おばあちゃん大丈夫っ?」
「つかれたぁ……。ホンッ……マに、しんどかったでぇ……」
 光希と二人で左右から、支えて仏間と続き部屋の居間に連れて行って、布団を敷いてくれていたお父さんも、手伝っておばあちゃんを寝かせてからだけど、胸の奥底からみたいに深い溜め息をついた。
「お寺の前の坂道で、二人が抱き合ってるとこ見たんだって……」
 和室に合わせた背の低いテーブルの上に置いてあった、見るからに冷め切ったコーヒーのカップを取り上げて、
「どういう事だ付き合ってんのか男同士でとんでもないって、家によっては相当な火種を、ぶち込みに来てくれたよ……」
 そんなのでも構わないからカフェインを取り入れたいんだなって、伝わる感じにカップの底まで一気に、飲み干していた。
「田舎の人間関係ってのは、こういう所もあるからねぇ……」
「去年の全国大会の……」
 横たわったら人心地ついたみたいで、布団の中からはおばあちゃんが呟いてくる。
「ビデオ見せてな、パンフレット見せてな、来年も出るんやでぇて話してな、薫が集めてくれてた御朱印帳も見せてな……」
「お寺で良いお話でも聞けたんじゃないですか、来年に向けて、励まし合ったりしてたんじゃないですかぁって……、話し続けてようやく納得して、下さったってわけ……」
「ごめんなさい……」
 いたたまれずに口にした言葉も、隣の光希と重なって舌先を噛んだ。
「ああ。二人が謝る事無いよ。どれだけどんな感じに仲が良いかくらい、家族なんだから普段から見ているんだから分かってます」
 言いながらお父さんは立ち上がって、申し訳無いのと心配だから俺たちも後をついて行った。
「だけど、『お父さんが悪い影響を与えたんじゃないのか』って、言われちゃったのはキツかったって言うか……、『どうしてですか?』って聞いてみたら、別に何にも知ってるわけじゃない。僕が『男らしくしっかりして見えないから』だってさ……」
 ブツブツ呟き続けながら、キッチンに入ってガサガサと、戸棚の中から白い粉状の物が入った袋を掴み出して、
「男らしいって、何だろうねぇ……。僕が見てきた限り、普段から強そうに立派に振る舞わなきゃ、って思い込んでる人たちの方が、いざって時にもろいし、すぐに折れるよ?」
 キッチンを出て玄関口に降りて、表に出るなりわりとしっかりめに、袋に手を突っ込んで握り取ったあら塩をぶちまけた。
 男らしいかどうかは別として、俺はお父さんを怒らせるのが一番怖い。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

何かしら心に残りましたらお願いします。頂いたサポートは切実に、私と配偶者の生活費の足しになります!