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パリの実質的中心地:凱旋門【ヨーロッパの旅2000年】

 はじめましての人も、
 前から知ってる方も、
 ごきげんよう。

 偏光です。

 エッフェル塔は2000年記念の、
 特別イルミネーションで彩られていた。

(文字数:約3800文字)



事前準備:言葉編

  旅行に同行する友人、
  マリー嬢から受けたレクチャーは、

ボンジュール(こんにちは)
パルドン(失礼 注:礼儀、であり謝罪、ではない)
メルシー(ありがとう)
シルヴプレ(お願いします)

  「フランスに限らずどこの国に行こうとも、
   その国の言葉でこの4フレーズは、
   とっさに口から飛び出すくらいに慣らしておけ」
  だけだった。

  「どうせ八割方聞き取れないし発音できないから、
   慌てたところで意味が無い。
   それよりは周りの状況をよく見て、
   相手が言っている事をよく聞いて、
   なるべく単語を拾い出せ。

   あと単語で言うなら」

スシ(なるべくなら指差した上で「これ」)
ムニュ(大抵の飲食店で「セットメニュー」)
アン カルテ(「カード1枚」)

  「この辺は便利だから覚えておけ。
   最後にシルヴプレを忘れるな」

  あと今現在の私が、
  当時の自分に付け加えるとしたら、
  やはり電子辞書くらいは持って行って、

ジュ ヴドレ 動詞の原形 目的語 シルヴプレ
(私は〜したいです)

  は言えるようにしといた方が、
  色々スムーズに運んだなと思う。


何せ学割プランなもので

  ところでこのフランス語研修旅行全体が、
  大学生向けの学割プランで格安だ。
  だからこそ私もどうにか参加できたわけだが、

  泊まるホテルはもちろんパリの中心部ではなく、
  住民が増えるごとに増設されていった、
  10以上、それもひと桁部分は後半6〜9の、
  街区になるので、

  大抵の観光地にはメトロ(地下鉄)で向かう。

  メトロの窓口に向かって早速、
  「アン カルテ、シルヴプレ」を使う。
  つまりは割引回数券を買えるわけだ。

  そして最初に赴いた観光地の受付でも、
  「アン カルテ、シルヴプレ」を使えば、
  主要観光地の周遊カードが買えて、
  各地ごとにチケットを買うよりも割安だった。

  

ルーヴル美術館

  ところで私はパリの初日を、
  思いっきりベタに楽しむことに決めていた。

  それはモナリザに、
  サモトラケのニケに、
  ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』を、
  観ずにはおれんだろ。

  「いかにもおのぼりさんだな」と、
  鼻で笑う人もいるだろうが、
  現に父からは笑われたが、
  そこは内心「貴様とて真っ先に観るだろ」
  と思ったが、

  心して聞け。

  飛行機はおろか、
  成田空港までの新幹線すら、
  私は今回の旅が人生初だったんだよ。

  最寄りの線路に駅を走るのは、
  電車ではなく一両のみのディーゼルカー。

  二時間に一本、
  しかもそれすら2000年には廃線になった、
  陸の孤島の限界集落出身なんだよ。

  この旅行自体が、
  おそらく帰国した後の一生涯に至るまで、
  我が人生唯一の享楽!
  (……になると当時は思っていた。)
  奇跡にも等しい好機!

  観光客には観光客然となるだけの、
  事情や経緯があるんだ。
  都会に生まれ育ち切れた者たちは、
  ただ自らの幸運に感謝しろ。

  それにしてもルーヴルは広い。
  できる事なら滞在期間中通い詰めたかった。
  あと時計・宝飾品コーナーは、
  海外への貸出中で観られず大変に残念だった。


オペラ・ガルニエ

  ところでマリー嬢は、
  『オペラ座の怪人』が大好きだ。

  ガストン・ルルーの原作を読んでいなければ、
  知るはずもない「エリック」という名で、
  ファントム(怪人)を呼び慕うほどだ。

  私もマリー嬢に貸してもらって読んだが、
  確かに原作のエリックは、
  憐れさが過ぎて愛さずにおれん。

  「なのでオペラ座にだけは行かせてくれ」
  と珍しくマリー嬢からの要望があった。
  「あたぼうよ」
  なんせ翌日は付き合わせまくる予定だからな。

  しかしガルニエ氏が設計したオペラ座は、
  ちょうど補修中で麗しい外観が覆われており、
  二人して涙を飲んだものの、

  補修期間中の特別措置として、
  地下部分にまで入らせてもらえて、
  まさにエリックが住んでいそう♪

  ……と言うよりは、

  「ここ確実に何かはいるよな(察)」
  「大戦中は避難所だったらしいしな(震)」

  まぁパリ全体が主にナポレオンの指揮で、
  元あった町を全て埋め尽くして、
  嵩上げして築き上げた都市だからな。


シャンゼリゼなんか歩いちゃって

  「凱旋門に行くにあたって、
   一つ提案があるんだが」
  と私。

  「なんだい」
  とマリー嬢。

  「メトロを一つ手前で降りて、
   ここは是非とも、
   シャンゼリゼ大通りを歩きながら、
   凱旋門まで向かわないか」
  「オッケー」

  おおシャンゼリゼ
  おおシャンゼリゼ
  マロニエの並木を眺めながら歩けば、
  自然と口をついて出てしまう。

  私とマリー嬢は中学時代から、
  コーラスに片足だけを突っ込んでいて、
  「ドナドナ」の輪唱なんかは、
  高校時代も日常的にやっていたもので、

  マリー嬢(以下「マ」と略する)
   「おお。すれ違う西欧人たちが、
    振り返ってクスクス笑っていくぞ」
  私「私たちだって『有楽町で会いましょう』を、
    口ずさみながら有楽町を歩く、
    西欧人を見かけたら、
    苦笑しつつも『スゲェなアイツ』と思うわな」
  マ「それもそうだな」
  私「去年はシャンゼリゼは歩かなかったのかい?」
  マ「去年一緒に行ってくれた彼女からは、
    さすがに恥ずかしいって断られたよ」
  私「まぁ普通はやらんわな」
  マ「しかし一度はやってみたいよな」

  私「ついでにもう一つ提案があるんだが」
  マ「時間的に予想はついているが何だ」
  私「シャンゼリゼ通りに面した、
    レストランでの夕飯を楽しまないか」
  マ「おおお。それがつまりどういう事か、
    理解した上で言うんだな?」
  私「もちろんその上でやってみないかと」
  マ「やってみようじゃないか」

  案の定店に足を踏み入れた途端に、
  カイゼル髭の店主と思しき男性が、
  それはもう満面の笑顔になって、
  リアルに揉み手まで見せてくれた。

  カモがやってきた時の表情って、
  万国全人種で変わらねぇな。

  ボラれるとまでは言わないが、
  もちろん観光客料金に決まっている。
  「ムニュ、シルヴプレ」
  「トレビヤ〜ン」
  すっげぇ上機嫌の猫撫で声。

  しかしさすがシャンゼリゼは、
  カモに対しても良心的で、
  料理は前菜からデザートまで、
  どれもこれも感動的に美味かった!

  金を出しただけのものは、
  確実に食わせてくれた!

  強いて言えば、
  それぞれのデザートに乗っていた、
  私の砂糖菓子は歯が溶けそうに甘く、
  マリー嬢のラズベリーソースは、
  胸が焼けそうに酸っぱかったのだが、

  少々口に合わない程度で、
  残すような我々ではない。

  何より土台のタルト部分が、
  芸術品にも思えるような、
  繊細な食感に味わいを有していて、
  食べ切らないわけには行かぬ。

  私「なぜこんな余計な物を乗せた
    苦いほど甘いとはどういうことだ。
    しかし美味いとは尚更何だ」
  マ「こちらも美味いが苦いほど酸っぱい。
    苦いほど酸っぱいが美味い」
  私「まさかその両方を味わいつつ、
    その両方で同時に泣けるとはな」
  マ「生涯忘れない味だよ」


凱旋門のパワースポット感

  ところでパリをよくご存知の方には、
  多少の違和感があっただろうけれども、

  凱旋門までのシャンゼリゼ通りは、
  一般観光客なら歩き通さないほど長い。

  しかしながら我々は、
  国内有数の坂の街に育ち、
  日常的に足腰を鍛えられている。

  更に言えば、
  実に美味い飯で腹が満たされていたので、
  さほどの疲れも感じずに、
  凱旋門までたどり着いた。

  マ「展望台に登れる時間を、
    過ぎてしまった事だけが残念だが」
  私「いやしかし、
    ここで十分じゃないか?」
  マ「確かに」

  エトワール(星)広場の中心に位置する、
  凱旋門から、
  十二本の道路が放射線状に広がっている。

  凱旋門をぐるりと周回しながら、
  四方八方どこを見渡してもパリの街、
  というよりは、

  パリの街全てがこの一点に集中している。

  そうと見るガイドブックは、
  私が知る限り無かった気がするが、
  現代的な都市型のパワースポット。

  日本で言うなら東京タワーとか、
  あべのハルカスの展望台から、
  地上を見下ろした時の気分が、
  最も近いかもしれないが、

  地表に足を付け立っている事が、
  受け取るパワー感に、
  エネルギー量を増幅させている。

  凱旋門。
  フランス語では
  l‘Arc de Triomphe(ラルク ドュ トリヨンフ)

  まさしく勝利を冠するに相応しい。


以上です。
ここまでを読んで下さり有難うございます。

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